「分かったつもり」の秋
【Intro】
いつのころからか、わたしも人に「教える」ということをするようになりました。ついこの間までは、「教えてもらう」立場であったはずが、なんとも不思議な気分になります。そうはいっても、わたしはまだまだ若輩者です。当然のことながら「教わる」ことも多々あります。
【先人の偉大なオコトバ】
「人に教えるとき、また自分も教えられるものだ」。オリジナリティのかけらもない表現ではありますが、わたしにとって、最近一番身にしみている言葉です。
わたしの教えられることなどたかが知れているのですが、それすら満足に教えることができずにいます。あまりの不甲斐なさに、反省する毎日を送っています。当然といえば当然なのですが、「人によって教え方もだいぶ違うんだな」と痛感しています。
少しのヒントで答えにたどり着く人もいます。最初にしっかりと説明をしないと、答えにたどり着けない人もいます。途中まで正しい道を進んでいるのに、突然道を見失ってしまう人もいます。時間はかかるものの、しっかり理解して答えを導き出せる人もいます。そうかと思えば、途中の過程なんておかまいなしで、いきなり答えにたどり着いてしまう人もいます。
まさに十人十色。それぞれの個性に合わせて話ができないと、お互いにとって不幸です。それは分かってはいるのですが、頭で理解するのと実際に行うのとではだいぶ違うようです。わたしはいまだにできません。
【「教えること」から「教わること」】
さも自分が発見したかのように人に教えていることであっても、元をたどれば誰かに教えてもらったことだったりします。偉そうに講釈たれたあと、そんなことをふと思い出したりすると、恥ずかしくなりますね。
「まずは模倣から」というわけではありませんが、人に教えるとき「自分はどう教えてもらっただろうか」ということを思い出そうとします。が、悲しいかな、なかなか記憶がよみがえってきません。もし簡単に思い出せるなら、どんなに楽だったでしょう。
1つだけはっきり思い出せるのは、「理解できるまでしっかり教えてもらったな」ということでしょうか。物分かりがよくないわたしが、人並みに仕事をこなせるようになったのも、先輩方の教えがあってこそ。感謝の気持ちでいっぱいです。その当時、わたしに教えていた先輩方はどんな気持ちだったのでしょう。今すぐでなくとも、何かの折に聞いてみようとおもいます。
わたしが一番反省しなければいけないのは、「分かっているつもり」になっているという点でしょう。そう、わたしは「分かっている」のかもしれませんが、それを「理解する」までには至らないようなのです。
【easy is difficult】
「簡単なものほど難しい」というのが、偽らざる今のわたしの気持ちです。例えば、「オブジェクト指向とはなんぞや」という問いがあるとします。普段、それを使ってお仕事しているわたしですから、その問いに答えることができてもおかしくはないはずです。
ですが、メタファーを使ったイメージを伝えることこそできるものの、その基本概念を説明しようとすると、とたんに言葉が詰まってしまいます。たまに自分でもおかしくなるのですが、こういう状況になるということは、わたしが表面的にしか理解できていない証左なのでしょう。
職場で調べようと思っても、日々の業務がありますし、なにより人目が気になります。誰も気にしちゃいないですし、カッコワルイことでもなんでもないのは承知してますが、そんなこんなで帰ってから調べるようになります。
必死になってネットやら書籍やら、とりあえず自分が使えるものをフル活用し、その答えを必死に探します。……が、なかなか答えは見つかりません。見つかっても、なかなかしっくりこなかったりすることもあり、ついつい遅くまで熱中してしまう日もあったりなかったり……。
こういったシチュエーションに限らず、お勉強をしていると「そこを詳しく知りたいのに!」というポイントに限って、「読者の宿題にしておきます」的なフレーズで煙に巻かれてしまうことって結構あるような気がします。自分でも意図せず(?)こんな感じで煙に巻くことが少なからずあるのですが、教える相手にこんな感情を抱かせないよう、気をつけなきゃなと思う今日この頃です。
【Outro】
普段分かったつもりでいる言葉でも、改めて向き合ってみると意外と「?」が浮かんできます。その「?」を消すためにいろいろ調べてみると、今まで見えていなかったことが見えてきます。そんなとき、初めてそれに触れたときに感じたような微妙な感情が浮かんでくるのですが、それもまた心地よく感じます。
秋の夜長。「芸術の秋」「食欲の秋」「読書の秋」といろいろな過ごし方があります。自分の得意とすることや「分かったつもり」になっていることに向き合ってみる。そんな少し趣の違う、こんな秋を過ごしてみるのもよいのではないでしょうか。
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