兼業環境屋
【Intro】
大手企業であったり、インフラを主業務としている会社でもなければ、専任のインフラ担当者がいることは希でしょう。大抵は「ちょっとパソコンに詳しい人」や「自作PCを組み立てるのが趣味の人」あたりが、主業務の片手間にやっていたりするのではないかと思います。わたしはそのような人を「兼業環境屋(けんぎょういんふらや)」と密かに名付けています。今回は、そんな人々にスポットを当ててみたいと思います。
【「兼業環境屋」の定義】
まずは、何をもって「兼業環境屋」とするのかを定義しておきましょう。
- 主担当業務がインフラ関連業務ではないこと
- 主担当業務とインフラ関連業務の時間配分比率または労力配分比率において、前者に対する本人以外の他者が期待する配分が50%以上であること
- 上記の状態が一定期間(目安として1カ月)継続しているか、または断続的であっても常態化していること
- 通常は主担当業務のみを行っているが、不定期にインフラ関連業務を行っている場合は「兼業環境屋」であるとみなす(みなし兼業環境屋)
- 通常はインフラ関連業務を主担当業務としているが、他作業に費やす時間ないし労力がインフラ関連業務を超過する場合は、「兼業環境屋」であるとみなさない
- 通常はインフラ関連業務を主担当業務としている場合に、それとは別な性質を持つ業務を行うこととなった場合は、「兼業環境屋」であるとみなさない
- 「兼業環境屋」(みなしも含む)でない場合も、本人が自称している場合は「兼業環境屋」とみなすことができる
……と、冗談半分で列挙してみましたが、わたしの定義としてはこんな感じです。深く考えずでっち上げただけなので、いろいろとつっこみどころがあるとは思いますが、そこらへんはご容赦ください。
【「兼業環境屋」の分布】
「兼業環境屋」の世界をお話しする前に、その分布を考えてみましょう。だいたい下記のような感じになるではないかと思いますが、例によって冗談ですので軽く流してください。
- 兼業環境屋界
- 兼業環境屋門
- 社内網
- サーバ目
- Windows科
- MAC科
- Unix科
- ネットワーク目
- LAN科
- VPN科
- 専用線科
- 電話回線科
- データベース目
- 商用系DB科
- FLOSS系DB科
- ストレージ目
- SAN科
- NAS科
- ファシリティ目
- 電源科
- 周辺機器科
- サポート目
- 社外網
- (「社内網」と同一のため省略)
- みなし兼業環境屋門
- (「兼業環境屋門」と同一のため省略)
【「兼業環境屋」の日常】
閑話休題。
大手企業や大規模案件であれば、インフラ周りを担当するチームがあるはずです。チームとまではいかないまでも、ソフトウェア開発者が煩わしい事を考えなくて済む程度の人員はいるかと思います(それが「兼業環境屋」だったりするかもしれませんが)。わたしもそういった現場で仕事をしたことがあります。アプリ屋はアプリ、インフラ屋はインフラ。それぞれの専門分野に責任を持って仕事ができるので、個人的には非常に過ごしやすい環境でした。
しかしながら、中小企業や小規模な現場では専任者がいることは希でしょう。運が良ければ、本番(商用)環境くらいはあるかもしれませんが、検証環境や開発環境あたりは自分たちでなんとかしないといけないのが常です。とはいえ、全員が全員インフラ系の知識を持っているわけではありません。それに、開発で手一杯だったりすると、インフラ周りまで気にしている余裕はありません。そんなとき、「メンバーの誰か」がそのあたりの作業をまとめて担当することになります。「メンバーの誰か」とはいいつつも、誰でもなれるわけではありません。それなりの「素質」が必要です。例えば、「趣味がパソコン」「自作PCを作れる」といった条件にマッチしており、それが周囲に知られている場合は「素質がある」といえるでしょう。
「兼業環境屋」が誕生するのは、まさに上記のようなシチュエーションです。わたしも、まさにこのシチュエーションで「兼業環境屋」デビューを果たすことになりました。最初は開発環境を構築したり、メンバーのPCの環境設定をしたり、LAN環境を用意したり。そういった簡単な作業をやっていました。今思えば簡単なことでも、当時はいろいろ調べたり、必要以上に悩んだりしつつやっていたように記憶しています。
当然ながら、要求されるスキルはどんどんエスカレートしていくものです。開発環境だけではなく、本番環境の構成に口を出してみたり。口だけでなく、手を出すようになったり。しまいには、小規模ながらも自分で設計・構築・運用まで担当したり……。気がついたら業務としてインフラ関連のお仕事ができるだけのスキルが身についていたりします。そういった意味で、「兼業環境屋」というのは悪いものではないはずなのです。本来なら。
【「兼業環境屋」の憂鬱】
世の中、良いことばかりではありません。それは「兼業環境屋」の世界においても例外ではありません。
インフラ関連作業に関して、作業ボリュームのイメージがつかめる人ばかりではありません。イメージがつかめない人が上にいたりすると、泣きそうな思いをすることもあったりなかったり……。いくつか例を挙げてみましょう。
例えば、「サーバにつながらなくなったから、なんとかして」という指示を受けたとします。指示をした人にとっては、「サーバにつなげるようにするだけなんだから、簡単でしょ? 今までつながってたんだし」と思っているので、すぐに解決することを当然期待します。しかし、「つながらなくなった」と一口に言っても、その原因は様々です。場合によっては、解決までに数時間、下手すれば数日かかる場合もありえます。原因が分かればまだいいのですが、原因不明という場合もありえます。
理由はともかく、そんなこんなで悩んでいると「どう?」なんて聞かれたりしますが、これがプレッシャーだったりしますね。特に処理待ちでなにもすることがなかったりすると、「こいつ遊んでるよ」なんて思われてるんじゃないかと、いらぬ不安を抱いたりします。まあ、逆の立場なら、同じ事をするとは思いますが。
一番困るのは、高度な専門知識を求められる時ではないでしょうか。以下に聞いた話も交えて、一例を挙げてみたいと思います。
- 「社内LANが構築できる」だけのスキルしか持ち合わせてないのに、VPNの手配を依頼される
- 「USBの外付けHDDを増設できる」だけのスキルしか持ち合わせてないのに、SANの導入を指示される
- Windowsサーバがやっとさわれるレベルなのに、GNU/Linuxサーバの構築を任せられる
どれも、「これを機会に勉強して、ノウハウためてね」といった場面で言われるのはいいのですが(といいますか、むしろ望むところです)、「どっちも同じレベルでしょ?」といったニュアンスで用いられると悲劇が訪れます。指示を出した当人は、「同じくらいのレベルである」とか「手軽に導入できる」と思っていますので、実質的に必要となる工数が確保されないことがあります。また、「できて当然」と思われるのが常なので……。
もちろん、説明をして必要な工数を確保してもらうよう最善を尽くします。しかし、「不当な要求である」と見なされることもしばしばです。インフラ系の作業に馴染みのない企業ですと、しょうがないかなと思うところもありますが。
【常識ですか?】
憂鬱といえば、正直「これってどうなの?」と思うこともいくつかあります(「兼業環境屋」だけのお話ではないのですが)。その代名詞ともいえるのは、「インフラは止まってはならない」という認識でしょうか。水道やガス、電気といったライフライン的なインフラと同じ稼働率を求められている……といった方がイメージが伝わるでしょうか。
それなりのお金をかけて多重化したシステムなら納得もできます。しかし、低予算で多重化とは全く無縁なシステムでそのようなことを言われると、正直困ってしまいます。とりあえず、できる限りの説明をし、できる限りの対策を行い、なんとかそれなりに動くようにはがんばりますが……。
似たようなお話だと、「深夜帯に作業しなければならない」といった空気も根強くあるように思えます。もちろん基幹系システムであったりすると、日中帯に止めるのはまずいというのはあります。しかし、全てのシステムがそうではないはずなのです。にもかかわらず、「全て一律、深夜に作業」だったりするのもそんなに珍しくはありません。特に数分~数十分程度で終わる作業だったりすると……なんとなくやるせない気持ちになります。
幸いなことに「今の」わたしは、今までに述べたようなものとは無縁の生活を送らせていただいています。ですが、「過去の」わたしはこの限りではありませんでした。
【Outro】
システムが動く裏には、多かれ少なかれ環境屋の働きがあります(専業か兼業かは別として)。優秀な環境屋は、その存在を意識させませんので、普段その働きに気がつかないかもしれません。
どこかで働いているかもしれない環境屋のことを、トラブルがあった時以外にも意識してみてください。今までとは違った何かが見えてくるかもしれません。
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