英作文とプログラミングの共通点
■英訳を頼まれることが増えてきた
最近、英訳を頼まれることが増えています。「前にも同じことを書いていたではないか」と言われそうですが、実際そうなのです。ピーター・ドラッカーは「何ごとかをなし遂げるのは、強みによってである。弱みによって何かをおこなうことはできない」と言っているので、数少ない自分の強みである(と思いたい)英文ライティングを活かすのは適切な行動なのでしょう。
ところで、筆者が以前住んでいた街のバスでは「忘れ物が増えています」という車内アナウンスが流れていて、乗るたびに「増えている」と聞かされることに違和感を覚えていました。「増えている」を単調増加と思っていたからです。しかし、「増えている」を「多い」という意味で使う向きもあるようです。
そう思うと、井上陽水先生の名曲「傘がない」の冒頭が「都会では自殺する若者が増えている」となっているのも、一過性の現象ではなく「いつも多い」と解釈することもできそうです。もっとも、これに続く歌詞は「今朝来た新聞の片隅に書いていた」なので、その時点での現象であると解釈する方が自然な感じはしますが。
■英訳では、まず和文和訳を行う
英訳を頼まれた場合は、もとの和文を解釈し、頭の中で英文にするために過不足のない和文に書き換えます。その後、英文を書き始めます。下図で言うと#3のパスになります。
英訳を頼まれたときには、#1や#2のパスになることは、ほぼありません。日本語が母語の場合は、原文が日本語らしい表現になっているので、省略が多かったり、余分な形容があったりするからです。以前取り上げたように、原文の解釈に悩むこともよくあります。
■英作文とプログラミングの共通点
「プログラミングが得意な人は文章が得意でない」という説もありますが、「きちんとしたプログラムが書けるひとは、きちんとした文章を書ける」というのが筆者の自説です。
筆者がプログラミングを行う際は、全体の構造をトップダウンに考えると同時に、自分ができることをボトムアップに組み立てる作業を行っています。作文でも同じように、全体として論証したいことをトップダウンに考えつつ、自分の作文力で表現できることをボトムアップに組み立てています。これは文章を書くのが日本語でも英語でも同じですが、母語より表現力の乏しい英語で書く場合には、とくにボトムアップに組み立てる能力の制限が多くなると感じています。
プログラミングでは、構文やクラスライブラリなどを自分のものにするにつれて、マニュアルを参照する頻度や時間が短くなっていきます。英作文では、文法や各専門分野の語彙が身につくにつれて、辞書や文法書などを参照する頻度や時間が短くなっていきます。この点も、よく似ている気がしています。
理系の人間は理詰めで文法に強いので英語を学ぶのに向いている、という人もいます。これについては少々思うところがありますが、稿を改めて書きたいと思います。