『アットマーク・マキアート物語』 第1話:赤坂エプロン
2009年9月19日~23日 毎日昼14時 O.A! 株式会社マキアートの新人が、コーヒー片手に旅したIT業界のお話。
★ ☆ ★
■なんか始まり
「そういうわけで、君の次のお仕事はこれだね」
上司から渡されたものは納品物一式。
「あの~、本当に1人で行くんですか? わたしが」
わたしの不安気声と表情も、上司にはどこ吹く風。
「うん、ほかに人がいないから。まぁ、納品物渡して動作確認して操作説明するだけだから! 期間長いけど」
「ながすぎますよ!! なんすか、1シーズンって!! これはドラマか何かですか!?」
「いや、仕事だけど……」
わたしはため息をついてしまいました。仕事だとはわかっているのに。わかっているけど過酷すぎる!!
1シーズンで東京めぐりだなんて!! 新人研修がおわってまだ1カ月しかたっていないというのに、これはイジメ以外の何物でもないと思う。
「いいかい? 君はこの会社、株式会社マキアートの代表なんだからね! ちゃんと責任もってやってきてよ!!」
「重すぎないですか?」
「まぁ、武者修行だとおもって……」
ちなみに納品物のプロジェクト名はサムライ。先輩は変な洒落でもいっているのでしょうか?
「飛行機はANAにしてください」
「おう。じゃあ、いってらっしゃーい♪」
こうしてわたしは1シーズン東京にいくことになりました。納品物と新人研修で身についたちょっとした技術を片手に。
部屋を去るわたしに上司はいいました。
「バグなんか出ないから大丈夫だよ~」
絶対嘘だ!!
■赤坂エプロン
地下鉄ってなんでこんなに不自然に色が多いのだろう。そんなことを思いながらわたしは大都会東京にやってきました。都会の駅はなぜか駅名の前に不思議な記号がついています。よくわかりません。
「次は~、赤坂見附~」
なんか「あかさかみーっけ!!」に聞こえる。まあいいや。
そんな赤坂発見的な駅から徒歩2分。大きな大きなビルにやってきました。
「株式会社マキアートの森村と申します」
「以上でインストールは完了です。あとはこのマニュアルに従って入力作業をおねがいします」
精一杯の社交性と張り付くような笑顔で納品終了! わたしの仕事は先輩の言っていた通り、インストールとマニュアル渡しだけで終わりそうでした。ただ、1カ月の保守(と呼べるのか?)作業があるだけで。保守といっても、使い手さんがつまづいたら助けるだけという単調作業ですけど。
このビルには近くにわたしの大好きなコーヒーショップがある。そこで買ったエスプレッソを飲んで、時が過ぎるのを待つだけ。
と、パーティションの向こうから、集団がこちらにむかって歩いてきました。テーマソングを流すなら、たぶんワルキューレあたりがいいでしょう。風景的にかっこよく描写するなら「討ち入り前の赤穂浪士たち」。わたしの想像力ない頭ではそんな光景が精一杯でした。
その集団は揃いも揃ってエプロンをしておりました。なんだろ……?
「ちょっとあなた!!」
エプロンしか印象がなかったし、名前も知らないのでわたしはやってきたその赤穂浪士たちをとりあえず「赤坂エプロン隊」と名付けることにしました。
「な、なんですか?」
なんでエプロンしているんですか? 制服ですか? とは聞けず。その赤坂エプロン隊のリーダーらしきお姉さまの目は確実につりあがっていました。
「株式会社マキアートの森村っていうのはあなたね?」
「そうですけど……」
「キャラメルのことで話があるからちょっときなさい!!」
キャラメル? お菓子??
エプロンといい、キャラメルお菓子といい、よくわからないままわたしはエプロン隊のねぐらへと連れて行かれました。
パソコンの画面に映っていたのは、納品した「サムライ」でした。うん? キャラメルってもしかしてサムライのこと?
「あのー、キャラメルというのは弊社が納品したソフトのことでしょうか?」
「ええそうよ。それがなにか?」
「あの、なんで名前変えたんですか……?」
「わたしたちの間ではそう呼んでるの」
なんだそれ!! という驚きは言葉で表すのを抑えて表情だけにしておきました。
「とにかく、使いづらいのよ、このソフト」
「あ、いえ……それは別にバグではないし、なによりも御社のデザイン通りに仕上げたのですが」
こういったことをすぐに後悔。
「あなたオペレータのことわかってるの!? こんなところにボタンがあったら困るに決まってるでしょ!!」
どうやら、エプロンの怒りをすっかりと買ってしまった様子。
「業務のこと全然わかってないのね!! だいたい、あなた偉そうだけどいくつよ!!」
「今年で21歳ですけど」
「はぁ? あの会社はこんな小娘をよこしてくるのね!!」
エプロン隊、超お怒りのご様子。ど、ど、どどどど、どうしよう。
制服であろうその青いエプロンとは裏腹に顔が真っ赤なエプロン。
「ここにメモ用紙の要素がないし……。まったくどうなってるの!!」
なに!? メモ用紙ってなに!?
「ですから、御社のデザイナーさまの……」
「そんなこと知らないわよ!! すぐなおしなさい!」
「いえ、あの……わたしは納品のためだけにきたのでデザイン面や機能変更などはあの、その……」
「できないのね」
「……はい」
「まったく……もう帰っていいから!!」
がーん!! そこまで言うの!?
エプロン隊はこちらを睨んでいます。とりあえず、その日はおいとますることにしました。
★ ☆ ★
「こんなことがあったんですけど……」
その日の帰り道、近くのさくら水産にて飲みながら電話をかけました。
「まぁ、よくあることだから(笑)」
「(笑)じゃないですよ!! どうすればいいんですか~!! ホッピーごときじゃわたしの心はうるおいませんよ。安いけど」
「お前なりに、謝ってみたらどうだ?」
「なんでわたしが謝らないといけないんですか!! わたし、なにも悪いことしてないですよ!!」
「会社代表で行くっていうのはそういうことだ。梅酒の飲み方でも考えろ~。じゃな!!」
がちゃん!! むちゃくちゃだと思います。ない、と思います。
安いホッピーを片手にわたしはない頭をふりしぼって考えました。
「梅酒の飲み方って意味分からないし。だいたい、これホッピーだし」
300円前後のホッピー飲んでいるようじゃダメだ。とりあえず、梅酒を注文しました。うーん、高い。
「ソーダ割りですか? ロックですか?」
「……ソーダで」
うん? ロックとソーダ割り?
「お待たせいたしました~。梅酒ソーダ割りです!」
どうでもいいけど、この店、出てくるの速いなぁ……。
休日をはさんで月曜日。わたしはエプロン隊のところへむかいました。
「このたびは誠に申し訳ございませんでした」
怒っていたエプロン隊もちょっとは冷静になった様子。目はつりあがっていませんでした。
「マニュアルを口頭で説明させていただいてもよろしいですか?」
「え?」
エプロン隊はわたしの発言におどろいていました。
「ソフトに対して、わたしの操作説明が足りませんでした。画面についてのご説明のお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「いいけど……」
土日でマニュアルを熟読して実際に操作してわたしはわたしなりにソフトの動作について学びました。扱いやすかった点・扱いにくかった点を把握して扱いにくかった場所は注意点としてエプロン隊に説明しました。
「あら、ここに入力した内容が表示されるのならメモ機能はいらないねぇ……」
「ここにリセットボタンがないと逆に困るわね」
そんな声があがりました。自分がある程度腕のあるオペレータならソフトのマニュアルなんて見ずに直感で操作します。そもそも
「こんな小さい字のマニュアルなんて普通読まないですよね!!」
画面名と操作番号だけの横に小さく注意書きのある現行のマニュアルをさしながらいいました。
「だからって1カ月もつきっきりでオペレータに教えなくてもいいだろが!!」
「あ、はい。ちょっとやりすぎました」
「そういうのをおんぶにだっこっていうんだ!! 馬鹿!!」
電話口で怒られながらも、わたしはなんとか1カ月でエプロン隊と和解することができました。
「でも、マニュアルに問題があると思います」
「言うよね~! わかったから、週明けは次の納品先にいけよ」
がちゃん! 固定電話の「がちゃん」という音は耳に痛い。
★ ☆ ★
「初日はつらく当たってしまってごめんなさいね」
最終日、エプロン隊のリーダーが謝ってきました。
「いえいえ!! とんでもないです。こちらこそめんどくさいマニュアルで申し訳ございませんでした」
エプロン隊も実は良い人で、仕事をしているうちにだんだんとお姉さんのように見えてきました。
「オペレータ、がんばってください!」
「あなたも……、何してる人かわからないけれどがんばってね」
何してる人かわからないって……。
■次回予告:
「……見た感じ若いね。君、開発経験何年?」
「え? あの……わたしは納品をするために来たものでございまして……」
「マキアートの新人ねぇ……。へぇ……」
メガネ率90%! 圧倒的なメガネ率!! 次回「新宿メガネ」、9月20日(日)昼14時放送!
コメント
インドリ
この物語面白いです。
次回を楽しみにしています。
mojina
コーヒーの煙が@マーク!
これはぜひ毎回楽しみに読みます!
組長
展開がすごく面白いです!次回がすごく楽しみですー★
メガネ率90%!!メガネフェチの私としては素敵なところかもしれませんが、まぁ、メガネだったら何でも良いわけじゃないしなぁ。笑
森姫
インドリさん
ありがとうございます。
次回はメガネがでてくるので楽しみにしてください!
mojinaさん
あ、本当だ!!実は気がついてなかったです・・・(死亡)
ぜひ最後までお付き合いください。
組長さん
次回は90%のメガネが大変なことに(笑)
私もメガネ好きですよー!!
みねさん
なんか始まりました(笑)
けっこう印象は「あぁ、自分とは向きえない」って思ってる人が話してみるといい人っていうのはありますよね~。
第3バイオリン
森姫さん
第3バイオリンです。
森姫さんもドラマですね。
実話ベースなんでしょうか。なかなか波乱万丈な新人時代ですね。
私もメガネ好きで、自身もメガネ娘なので続きが楽しみです。
森姫
第3バイオリンさん
実話ベース率は・・・最終日にネタばれしようかと思っています~。
実は私もメガネです。コンタクトなんてー!!(泣)←怖くて入れられない
次回はメガネがメガネなことになります。
ビガー
ビガーです。こんばんは。
連休で更新とは、お疲れさまでございます。
マキアートのロゴはJava?
コーヒー片手には、梅田さんのグラス片手に(データベース設計)シリーズ?
なんて、どうでもいいところで反応しちゃいました。
自分もメガネなんですが、グラサンとかもでるのかな?
森姫
ビガーさん
記事を書いたのは連休前なのでがんばるのは編集部さんですね(笑)
次回、グラサンはでませんが、実は没ネタになったところでグラサンはでております。
それはまた最終日以降に一気にネタばれしますので
よろしくおねがいします~。
逆転仕事術
コラムニストの逆転仕事術です、ちなみに私もメガネです。
今回の企画ですが、勢いのある文章での展開、すごく面白いです!
いろいろなネタをお持ちのようなので、今後の展開、とても楽しみにしています。
森姫
逆転仕事術さん
こんにちは。コラムニストの方もメガネ率が高そうですね・・・(笑)
勢いだけでは誰にも負けてないです!!・・・と思いたい。
今回は5話なんですけど、ネタにすると1クールドラマになりそうなぐらいありますよ~。よろしくおねがいします。
森姫
第一話解説
*このお話は全体的に実体験をもとにしたフィクションです。
実際にエプロン隊とはバトルをさせてもらいました。
開発者と使用者のバトルという感じで
そりゃもう、険悪でした。
「ここにこの機能がないじゃない!!」と怒られ
「そんなの聞いてない!!」と返し
エンドレスゲームでしたねぇ・・・。
私は納品だけだったので聞いてあいまいな返事を返すだけでしたけど。
ちなみに、赤坂にさくら水産は・・・まだあるんでしょうか?
昔はよくそこで同僚とエプロン隊の愚痴をいいながら
飲んでました。
エプロン隊はよくスタバで発見しました。