過剰サービスの行き着く先は
最近のご時世として、過剰な残業に対し厳しい目が向けられるようになりました。過労死という言葉も定着して結構な年月が過ぎており、ようやくこの業界も労働内容が是正されようとしています。
私個人としても、対価に見合わない労働量というのは無くされてしかるべきと考えているのですが、世の中まだまだこの加減というか、そうは言ってもお客様に迷惑がかかる、というある種の強迫観念に近いものがはびこっています。他人に迷惑をかける、その気持ち自体は悪いものではないのですが、それをあまりにも重要視しすぎているのが、現在の私達 IT 業界の環境ではないでしょうか。
仕事である以上はお客様あってのもの、という考え方にも一理あります。相手がいなくては商売は成り立ちませんので、どうしてもお客様にとってメリットとなるよう、多少の無理をきかすこともゼロにするのは難しいでしょう。特に今はまだ、価格を下げることによる体力勝負が続いている最中です。ただでさえ厳しい状況というのに、お客様の希望を聞かないことで、より一層厳しい状況へ陥ることは想像に難くありません。
しかし一方で、違う考え方もあります。お客様によりよいメリットを享受してもらうために、自分たちの要望を聞いてもらうというものです。なんでも言いなりになって行動するのではなく、こちらも意思をもって相手とぶつかることで、最終的に予想していなかったメリットを生み出すことを目指します。必要な個所に必要なコストをかけなければ、生み出される品質は下がる一方なのは、業種を問わず常識となっています。それと同じように、こちらとしても一定以上の対価をもらえないのであれば、相手が望む結果は生み出せないというのは、もっと広く浸透しなくてはいけないのではないでしょうか。
こう書くと、何を当たり前のことを、と思われる人は多いでしょうが、不思議な事に立場が変われば全く正反対の行動をとる人というのは思っている以上に多いです。昔は、安いものはそれなりの品質であることを表す、安かろう悪かろう、という言葉がありました。ですが今では、無償で手に入るものが非常に多くなっています。無償でもらうことが当たり前と誤解しているので、他人から受けるメリットについてはタダでもらおうとしている人があまりにも多いです。
これが自分のこととなると、タダで奉仕するなんてとんでもない、とすぐにでも言えるのですが、何故か自分以外のこととなると、タダで奉仕しないのはとんでもない、と非常に自分勝手な考え方でいる人を見かけるのも、たいして珍しい事ではなくなりました。非常に残念な事です。
自分が相手に対して行う事というのは、巡り巡って自分の身に戻ってきます。誰かに対して無償奉仕を要求したのならば、誰かがあなたに無償奉仕を要求してきても何もおかしいことではありません。そうしないとバランスが崩れてしまうからです。一度崩れたバランスは、そうそう簡単に戻ることはありません。
それを直していくためにも、対価に見合った労働、そのバランスを少しずつでも正しい姿を維持していかなくてはなりません。それはお客様に提供するシステムとしてもそうですし、自分たちがサービス残業という形で業務をこなしていくのも同様です。一度安価な形で提供してしまったものは、長い時間をかけなければ元の姿に戻せないのです。
益のない状態に良い事はほとんどありません。一時しのぎにはなるかもしれませんが、緩やかに自分たちの首を絞めている状態です。それに気づいた時が、良い状態へ戻す少ないチャンスなのではないでしょうか。
過剰なサービスは、最終的に自分たちを滅ぼす毒となります。対価に見合ったラインを常に意識し、適度なバランスを取り続けていく必要が、私達には必要なのだと思います。
コメント
山無駄
自分はタダで奉仕したくないけども、他人からはタダで奉仕して欲しいという心理が働くのは
残念ながら世の常ですね。そもそも、ビジネスの世界で「奉仕」を求めること自体がナンセン
スなのでしょうが。タダで奉仕を求めなくても、お金を払っている側は、そのなかでどうして
も最大の利益を求めようとしてしまいます。払っているお金と受けているサービスが等価であ
るかどうかの判断は難しいので、損したくない一心から、無理難題をいってでも最大の利益を
得ようとするお客様は必ずいます。例えば車を買う場合には、同じスペックならばどのメーカ
を選ぼうとおおよその価格帯が決まっているので好みで選んでも、そんなに購入者の損得感が
かわることはありせん。しかし、システムは同じシステムを導入したくても、スクラッチ開発
するかパッケージを使うかサービスを使うか等でも全く変わってきます。しかも複合的に絡む
ので、購入者の判断は難しく、何を選んでも結果損した気分になる経験が多いのではないでしょうか。
例えばGoogleなどは無料でサービスを提供しています。しかし、これは奉仕の精神からでは
なく、別なところから利益を得ている立派なビジネスです。なのでGoogleも利用者か何らか
の価値を得ているのですが、それがお金ではないので利用者の得の感情のみを刺激しています。
今後、このようなビジネスモデルは増えてゆくと思います。逆に、お客様の過剰な要望を受け
いれて、その要望をどこかにしわ寄せして犠牲を伴うようなビジネスモデルは必然的に衰退
してゆくのではないでしょうか。