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加速する転職「負」のスパイラル

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 退職後4カ月を過ぎたある日、斉藤さん(仮名)のもとに前職の同僚から連絡がありました。

 急に退職した彼を心配しており、困っているのであれば協力したいというのです。

 懇意にしている協力会社が人を探しているので、そちらを受けてはどうかという話でした。しかし、彼はきっぱり断りました。前職の協力会社にいくのであれば、転職をした意味がないと考えたのです。

 しばらく大手中堅企業を中心に応募を続けまました。

 しかし、大手から中堅までの企業は手当たり次第に応募したため、新しい求人も見つからなくなりました。

 応募を続けても結果は惨たんたるもの。退職からすでに6カ月が過ぎていました。

 生活を支えてきた退職金も底をつき、遂に長年蓄えてきた貯金を切り崩し、生活費に充てなければなりません。

 「このままでは、生活すら危なくなる」と、危機感ばかりが募っていきました。

 ここまで来ると、どのようにキャリアアップするかよりも「生活できるか」どうかが最も重要となってきました。

 そして、斎藤さんは、前職と同規模・同形態の企業に応募することを決意。求人情報は豊富にあり、数社への応募を開始しました。すると順調に半数以上の企業から面接の連絡があり、1次面接に進むことになりました。

 「前職と同様の企業であれば、即戦力として迎えてくれるはず」

 そう考えた斉藤さんは、自信満々で面接に臨みました。

 しかし、面接官の対応は、志望動機や転職理由・やりたい仕事など基本的な内容が中心であったにも関わらず、今まで以上に厳しいものに感じました。

面接官 弊社に応募いただいた志望動機をお聞かせ下さい。

斉藤さん 前職と同じ分野であり、即戦力として活躍できると考えたためです。

面接官 それでは、前職やほかの同業ではなく弊社を応募された理由もお聞かせください。

斉藤さん ……。

面接官 今回、退職された理由をお聞かせください。

斉藤さん 前職は下流工程の仕事が中心でキャリアアップできないと判断したためです。

面接官 弊社ではプロジェクトを選んでいただくことはできませんので、下流工程ばかりになってしまうことになるかもしれませんが、その点はいかがお考えでしょうか?

斉藤さん ……。

面接官 退職理由と弊社への志望動機から弊社でのキャリアパスが見えてこないのですが、どのようにお考えですか?

斉藤さん えーっと……。

 面接官が繰り出す質問は、これだけではありません。これまで指摘されることのなかった「退職から現在に至る半年間のブランク」についての質問が加わっていました。

面接官 退職から現在まで半年以上経過しておりますが、この間は何をされていたのでしょうか?

斉藤さん 転職活動です。

面接官 そうですか……。(怪訝な表情)

 質問の答えとしては、転職活動以外に何もないのですが、面接官は「半年というのは長すぎる」と不信感を抱いたのでしょう。

 斉藤さんも、まさか「希望する会社への内定が取れなかったので御社に応募しました」と言うわけにもいきません。たとえ快調に面接が進んでいても、この質問をされたとたんに面接の場はしらけてしまい、一気に暗雲が立ち込めます。

 面接官は何故このような質問をしたのでしょうか?

 企業が人を採用する際に気にかけることの1つに「労働意欲」があります。つまり、半年もブランクがあいているため、その労働意欲を確認する質問だったのです。

 退職理由が不明確な状態での退職という「負の因子」が転職の長期化という「負」を呼び、ブランク期間の長期化は面接官からの不信感というさらなる「負」を生み、ついに「負」のスパイラルの加速が始まったのです。

 このような状況にもめげず、返答があった企業には全て足を運びました。しかし、結果は、あえなく不採用という状況が続きました。

 そんな中、面接に進んだ1社から内定の通知を受けることができました。すでに退職から10カ月が経過していました。

 数日後、同社に訪問し条件提示と正式な内定通知をうけとりました。条件は、年収が前職よりも100万円程度ダウン。斉藤さんは、とても悩んだ末、今回は辞退し、他社への可能性に期待をかけることにしました。

 その後も、書類の応募を引き続き行いましたが、不採用が続くと斎藤さんは自信を失い、それが表情にも表れてきました。自信がなく、暗い表情の斎藤さんに対する面接官の反応も悪くなり、転職活動の先行きは不透明になっていきました。

 そして、退職から1年。

 日雇いのアルバイトをしながら生計を立て、毎月貯金を切り崩す生活。遂に貯金も底を尽き、本格的に仕事をしなければ生活が成り立ちません。

 困った斉藤さんは、前職の上司や友人・知人を頼りに、仕事の紹介を願いでました。正社員は難しいが個人契約なら何とかなるということで、仕事を回してもらうことになりました。仕事は、プログラムの修正やテスト業務が多く、短期間で不安定なため、いくつも掛け持ちしました。

 それから更に1年が経過した現在も斎藤さんは、未だ正社員としての転職先は決まらず不安な日々を送っています。早く転職先を決めなければ、と気持ちはあせるものの、仕事が忙しくなり身動きが取れません。とはいえ、今の契約を断っては、生活ができなくなります。

 負のスパイラルが悪化し、転職活動ができない状況を作り出してしまったのです。

 なぜ、このようなことになってしまったのか? 斎藤さんは、後悔の念とともに深く自分の行動を反省しました。

 転職先を決めずに退職を決めてしまったことや、キャリアパスを十分に考えていなかったことにより内定が取れず、転職活動時期が長引いたこと。ブランク期間の長期化が面接に悪影響を及ぼしたこと。さらにそのことが影響して本来内定が出ても不思議ではない企業で不採用になるといった、「負の因子」が「負」を呼ぶ「負のスパイラル」から逃れることができなくなってしまったのです。

 解決策はいろいろあったでしょう。1つの解決策として、もっと早く誰かに相談していれば、そもそも退職をしていなかったかもしれませんし、もっと状況が変わっていたのかもしれません。

 例えば、転職をした先輩や友人、転職市場に詳しい人材紹介会社など、いろんな相談相手がいます。読者の皆さんは、斎藤さんの二の舞にならないように、なるべく在職中に信頼できる人へ相談することをお勧めします。

 また、私たちアデコは、転職を今すぐにお考えの方だけではなく、中長期のキャリアアップを考えている方々のご相談も承っています。そのきっかけとして無料でカウンセリングサービスを行っていますので、お気軽にご連絡ください。転職やキャリアアップをサポートする良きパートナーとして、長くお付き合いいただけるものと自負しております。

 関連事項として、こちらのページもご参照ください。

 連載記事としてお送りしてきました『退職時期の失敗が招く転職版負のスパイラル』は、今回をもって最終回とさせていただきます。連載記事は終了いたしますが、【@ITで記事を書いているキャリアコンサルタントの転職コラム】は継続しますので、引き続きご購読いただければ幸いです。

アデコ株式会社
人材紹介サービス部
シニアコンサルタント
藤田 孝弘

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