仕事は楽しければいいってもんじゃない
やって楽しい仕事とつまらない仕事
イケてるIT系のベンチャー企業の紹介を見ていて思う事がある。大企業のしがらみを超えて、自分たちで独立して思い思いのやり方で存分に実力を発揮する。エンジニアであれば理想的な環境のように思えるだろう。私はそういうイケてるベンチャー企業から声がかかって働いた事がある。結果、大炎上して爆死した。
理由は簡単だ。開発の人が思い思いにやっているので、インフラエンジニアの私に皺寄せがどっと来て破綻した。思い思いのやり方で結果が出ていた反面、面倒くさい作業を先送りにしていたのだ。成長が早いということは、その分、多くの問題を先送りにしている可能性が高いとい。そういう意味では、イケてるベンチャーだろうと大手のSIerだろうと似たようなものだ。
誰だって仕事の達成感を味わいたいと思うし、自分の能力を存分に発揮したいと思う。ただ、それができるフィールドも有限だということだ。お金と違って数値化できないので判断が非常に難しい。ただ、やってて楽しい仕事とつまらない仕事があるのは経験的に理解出来ると思う。楽しい仕事ばかりやっていたら、後でつまらない仕事が残ってしまう。
楽しかろうがつまらなかろうが、結果が欲しければ両方こなす必要がある。「つまらない仕事を工夫して楽しくするんだ」というのももっともだが、全てが楽しくなることは無い。もし全てが楽しくなったとしたら、今度は自分が仕事を独占するようになる。おもしろい、つまらないではなく淡々とやるべき事をやるのが仕事ではないかというのが、私の仕事観だ。
楽しい仕事の取り合い
楽しいかどうかはあくまで主観だ。誰がやっても楽しい仕事もあれば、工夫したが故に楽しい仕事もある。また、マニアックで楽しいなんてのもある。ただ、誰がやってもつまらない仕事というのはある。言い換えれば、好きになるのにすごく努力の要る仕事だ。「みんなで楽しく仕事をできるようにしよう!」というスタンスで仕事をしていると、この誰がやってもつまらない仕事が最後に残る。
それでも頭の良い人であれば、つまらなくても結果の出る仕事というのはきちんと見抜いて対応する。ただ、実は結果がでるまでの時間とか、間接的に結果に結びつくような仕事という要素もある。全ての条件を把握して管理するというのは、人間の能力的に無理がある。ましてや、楽しい仕事を選り好みして結果をだすとなると、更に難易度は上がる。そんな確実な利益とやりがいを約束できる人なんていない。
屁理屈のようだが、結果が出るかどうかと楽しいか楽しくないかは意外と関係無い。モチベーションを保つために楽しいというのは役に立つが、タスクを切り出す基準としては怪しい。誰でもそうだが、何も考えていないと無意識に仕事を選り好みしてしまう。どうやって楽しく仕事をするか工夫するのは大事だと思う。しかし、楽しさを追求すると楽しい仕事の奪い合いが発生するのも事実だ。
経験上、少数精鋭を謳うところの方が仕事を選り好みする傾向が強い。仕事の量に対して選り好みできる幅が大きいからだ。少数精鋭が仕事の範囲を広げようと人を集めた時、なぜか人が定着しない、新人が育たない。そんな事例を幾つか聞いたことがある。多分、楽しい仕事を全部囲い込んでしまって、新しく入った人に楽しい仕事が回らなくなってるんじゃないかと思う。
楽しく仕事ができるための調整にかかる労力は大きい
仕事が楽しくなる条件の一つに、結果が出るというのがある。結果が出ればモチベーションが上がって仕事に勢いがつく。また、自分のスキルが活かせるというのも楽しくなるために重要だ。そして仕事が楽しくなる最大の条件は、自分の意見が通ることだろう。自分の意見を実行して結果がでれば仕事は最高に楽しい。自分の意見を通せてスキルを活かせれば仕事は最高に楽しい。仕事を楽しむ上で自分の意見が通るということは重要だ。
ただ、本来やるべき事にこれらの条件を当てはめてくのはなかなか大変だ。頑張れば、プロジェクトのメンバーでスキルをうまく組み合わせて、結果に結びつけていくこともできる。ただ、意見の調整はなかなか苦労するところではないだろうか。なぜなら、意見と言いつつ要望が混ざることが多いからだ。人の要望をはねのけるというのもなかなかエネルギーを消耗する。
どこの現場にせよ、マネージャさんは本当によくやってると思う。仕事と言えば、結果を出さなきゃならないので取り組む人の関心度は高い。故に、意見を通したいという思いや、スキルを活かしたいという思い、何より意見を通したいという思いは凄く強い。これらを調整するのにすごく労力が要る。ちょっと間違えれば軋轢を生むこともあるだろう。また、かけた労力の割に結果が出ないこともあるだろう。最悪、メンバーが辞めていってしまうこともある。
もし、今楽しく仕事ができているとしたらマネージャが裏で微細な調整を頑張っているはずだ。チームで働いているなら、楽しい仕事は一人で実現できるものでもない。結果を出すことやスキルの高さも求められるが、それが活きるのも誰かの努力のおかげなのだ。できるマネージャ、できないマネージャといろいろいるが、メンバーの調整事を対応してくれている事に感謝しようと思う。
仕事は淡々とやる
現実問題として、やって楽しい仕事というのは限りがある。ビジネスなんかでやっているシェアの奪い合いのような側面がある。仕事を楽しくする工夫というアプローチも有効だが、無制限にそれが通じる訳ではない。無制限に通じないものを無制限に通そうとすると、むしろ逆効果になってしまう。そこで出てくるのが、仕事を楽しくやるアプローチではなく、苦にならなくするアプローチだ。
楽しくするアプローチが1を2にするアプローチだとすれば、苦にならなくするアプローチはマイナスをゼロにするようなアプローチだ。それって同じだろうと思うかもしれないが、スタート地点と目標が全然違う。むしろ、考え方としては真逆だ。楽しくするアプローチは対象を「本当は楽しいものだ」とつまらなさを否定する。苦にならなくするアプローチはつまらないものをつまらないと認めるところから始める。
仕事を楽しくするにもいろいろなアプローチのやり方がある。しかし、収入が無制限に増えないのと一緒で、仕事の楽しさも無制限に増えない。楽しくなったが故につまらなさが際立ったり、今まで楽しかったものがつまらなくなったり、自分の感じ方も日々刻々と変化する。どんなに能力があろうと、日々刻々と変化する自分の感覚を満足させ続けるのは不可能だ。
共感が得られるかどうかは別として、私は楽しいとか楽しくないという考え方から離れて、仕事には淡々と取り組むようにしている。無制限に満足を求めるのは無理でも、プラスマイナスゼロに近い状態なら持って行ける。事実、これでプロジェクトが炎上しても最小限のダメージで抑えられるようになった。自分の楽しさだけを追いかけては、見えなくなるものもあるということだ。仕事は淡々とこなしてみてはどうだろう。