いろいろな仕事を渡り歩き、今はインフラ系エンジニアをやっている。いろんな業種からの視点も交えてコラムを綴らせていただきます。

スキルより集中力

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スキルなんて薄っぺらなもので勝負するな

スキルのレベルが同じ人が結果を競った時、差が出る要素は何だ?考えてみれば色々なものが思い当たると思う。単純なIQか?それとも観察力か。どちらも正解だ。だが、どちらを得るにしても必要なものがある。それが集中力だ。一つの物事を集中して考えることができなければ、高いIQは成り立たない。観察力とは、観察する対象に対する集中のことだ。

スキルが全ての根本と考えるかもしれないが、本当は逆だ。知識、経験、思考能力など、能力を構成する一番側に構成された殻みたいなものがスキルだ。スキルに本質は無い。スキルの裏側に何があるかが本質だ。単なる記憶に裏打ちされただけのスキルなら、応用力に決定的に欠けることになる。また、経験にしか裏打ちされていないなら、想定外に弱くなる。

同じ、「◯◯ができる」というスキルを取っても色々な形が存在する。やり方を全部暗記していてできるという形もある。何度も触れていて、感覚でどういうものかを理解しているという形もある。どのような形であれ、一長一短がある。場合によっては、「◯◯ができる」という基準であっても、全く性質が異なる要素でスキルが構成されていることもある。

私が資格を否定する理由の一つがそれだ。資格を取得するにも、それぞれに違う思いで違う手段で取得に至っている。結果として取得したラベルは同じでも、中身は全然別物だ。それを一括りにして考えることに違和感を感じるからだ。あえて言おう。エンジニアなら、スキルなんて一番外側の薄っぺらいもので勝負してはいけない。大事なのは中身だ。自分自身、どういう能力を持っているのか。その本質で勝負しよう。

集中力はパワーだ

例えばシステムの障害対応で、一つのログに十分間しか集中できない人と、一時間集中できる人と、スキルが同程度ならどちらが早く対応できるだろうか。当然、一時間集中できる人の方が早く対応できると思う。これは、コードを書いていても同じだ。集中力が続く人は、スポーツでいうなら体力のある人だ。スポーツなら、どのような種目をやるにしても、体力のある人の方が有利になるはずだ。

ITに携わる人にとって、スキルこそスポーツでいう体力だと思われているようだ。しかし実際は、各種目ごとに細分化された技能と同じだ。水泳で速く泳ぐための技能が、サッカーでそのまま通じるだろうか。同じように、インフラのネットワークのスキルが、そのままコーディングで通じるだろうか。応用は効くかもしれないが、そのまま活用することはできないだろう。

一般的にはIQが頭の良さの基準と考えられているが、実際は集中力が頭の良さの基準と考えている。集中力には持続性や瞬発力など、体力と似た要素が多くある。一方、IQはテストした結果から導き出したただの数値だ。いわばスポーツの競技の結果のようなものだ。純粋な脳みその能力と考えると、集中力を基準に考えた方が適切ではないだろうか。

集中力こそパワーだ。脳みその筋肉だ。何らか実験をして導き出した結果ではなく、あくまで経験則だが、IQや観察力の土台は集中力だ。仕事で成果を出したいなら集中力は無視できない。どんなにスキルが高くても、集中力が発揮できない状況では結果は望めない。また、集中できる人の方がスキルを早く習得できる。スキルなど小賢しいことを語る前に、まずは集中力だ。

スキルが欲しいなら己を知れ

成果を出したければ、まずスキルを上げようと考えると思う。だがそれはナンセンスだ。まずは集中力を鍛えよう。自分が楽しみたいと思うなら、別に集中力を鍛える必要は無い。興味の赴くままにやればいい。だが、結果を考えるのであれば集中力という要素は考慮すべきだ。集中力がそのまま自分の出せるアウトプットと比例するからだ。

集中力といっても色々な種類がある。短時間により深く対象に集中するようなものもあれば、長時間にわたり集中を持続させるようなものもある。例えるなら、短距離走や長距離走のようなものだ。人それぞれ得意な集中のしかたに差がある。まず、自分はどういうタイプかを知ろう。そこから自分の特性を伸ばしたり、欠点を補うというアプローチが取れる。

集中力はスキルと違い、単純なアプローチで鍛えることができる。一番簡単な方法なら、意識して対象に向き合うだけで鍛えることもできる。スキルを磨くより、圧倒的に簡単な方法で鍛えることができる。また、集中力を先に鍛えておけば、スキルを習得するスピードも段違いで早くなる。高いスキルを目指すなら、まず集中力を鍛えた方が圧倒的に有利になる。

スキルは陳腐化するが集中力は陳腐化しない。IT以外の分野でも応用が利く。集中力は非常に鍛える価値のある能力だと考えている。欠点があるとすれば地味だ。また、数値や資格のように可視化できないし、色々なタイプのものがある。人から見て判断しにくい能力だ。なので、経歴に書けないし人に見える形で表現するのが難しい。故に集中力について言及する人が少ないように思う。

集中力という視点から見た凄惨な状況

集中力を発揮するという観点から見ると、日本の労働状況は最悪だ。エンジニアが自分の役割に集中できるような仕組み作りなど、意識すらされていない。集中してさっさと仕事を済ませても帰らせてくれないし、無意味な残業やら割り込みタスクが異様に多い。集中力を発揮してもメリットが無いような環境なので、誰も集中して仕事をしようとはしない。

どのように成果を出すか、考え方が違うだけで行動は全く異なってくる。日本人はこの考え方が根本的におかしい。むしろ外国の人の方が、集中できる環境を整えることをやっている。一見怠慢のように見えるが、無駄なエネルギーの消費を抑えて適度な緊張感を保っている。日本人はこの逆で、極度の緊張状態で無駄なエネルギーの消費が多い。通勤ラッシュに過剰な残業続きで、集中して仕事などできるはずが無い。その結果が効率の悪さに現れている。

ITの活用も集中力を発揮するのに必須だ。業務フローをIT化してデータを整理する労力を省くことで、向きあうべき課題に集中することができる。しかし今の日本では、ファイルサーバのクソみたいなExcelファイルでデータを管理しているのが一般的だ。いちいち手作業でデータを整理していて、課題に向きあう前に力尽きている。集中力を発揮する以前に、向き合うべき課題に向き合えずに効率の悪い作業を繰り返している。

業務がうまくいかに根本的な理由がはスキルではない。考え方だ。「頑張れば結果が出る」という価値観を「集中して結果を出す」という価値観に切り替える必要がある。有効なアプローチは、集中するための手段を知ること、そして、それを実践することだと思う。一部の人の高いスキルではなく、みんなで集中できる環境を構築していくことで、成果が出せるようになるのではないだろうか。

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