その ギブ・アンド・テイク は平等か
あるやり取りに潜んでいた勘違い
「会社からお金を貰ってやってる事だから」という言葉を聞いたことがあるだろうか。私は部下が上司の無茶振りに意見した時にこれを聞いたことがある。いくら上司の指示だからといって、あまりに的を外しているような指示であれば、部下に意見を言う権利はあると思う。上司が理論的に説明ができなくなった時に振りかざしたのがこの言葉だった。
「お金」というのはパワーワードだと思う。生殺与奪権を持ち出すに等しい程の力を持つ。ただ、よく考えるとこの上司にこの言葉を使う権限など無い。なぜなら、その上司も会社からお金を貰っているからだ。仕事をうまくいかせるという目的で、同じ条件でお金をもらっている。そういう意味では、上司も部下も平等だ。
上司という立場を考えれば、指示を出すだけの権限は与えられている。だが、同時に説明の義務もあるはずだ。権限上可能であっても、無茶振りに対しての対価が釣り合わなければ ギブ・アンド・テイク の関係は崩れる。無茶な要求に対しては、納得させるだけの説明が対価として必要だ。権限で無茶を押し通すことは可能だが、対価として信頼を失うことになるだろう。
ギブ・アンド・テイク という考え方は非常に浸透しているが、上手く実践できているかは疑問だ。多くの場合、少ないギブで多くのテイクを受けようと終始している。創意工夫や努力でそれを実現できている内はいいが、既得権や権限でこれをやると、単なる搾取になってしまう。会社の金と権限を振りかざして、自分は何も与えていないでは、誰がついていくだろうか。
新人教育での ギブ・アンド・テイク
新人教育というのは、給料を払っているにも関わらず会社から仕事のやり方を教えている。教えたからといって、すぐに利益は返ってこない。しかも、他の人の工数もかかる。会社からすれば、利益の返ってこないものにお金を払っているということになる。これを投資と考えるか、必要経費と考えるか、考え方はいろいろあると思う。
ただ、即利益が返ってこないので、会社としては「してやってる」という感覚になりやすい。仕事を教えてあげている上にお金も払っている。現時点での状況だけみれば、圧倒的に与えているものが多い。立場は圧倒的に強くなるので、ここで主従関係を構築してしまうケースが多い。教える側が教わる方に対して、一方的に接してしまうような関係だ。
じつは、主従関係というのは多大なコストがかかる。ある人に対して一方的に付き従うとしよう。自分の発言権や裁量を大きく制限されるわけだ。相手に余程の信頼でもない限り、大きなストレスとならないだろうか。一方的な関係を振り回すだけで、給料と教える側の工数くらいのギブは軽く吹き飛んでしまう。一方的な関係というのは、それほどに多くの対価が要求される。
教育と給料に対して、一方的な対応という形で対価が払われてしまっている。その上に仕事を乗せると対価が釣り合わなくなってしまう。ましてや、最低限の教育しかせずに無茶な要求を突きつけると、早々に見切りを付けられてしまう。会社のお金と工数が、教える側の優位に立ちたいという満足感だけで消費されてしまう。このようなケースで新人教育に失敗することは多い。
ギブ・アンド・テイクのバランス
ギブア・アンド・テイク のバランスを取ることで組織や人間関係がうまくまわるようになる。ギブ・アンド・テイク なんて言うと、利害関係がギスギスしそうなイメージがあるかもしれない。ただ、お互いに必要なものを提供しあうと考えれば、非常に素晴らしい考え方ではないかと思う。自分の利益を貪るためではなく、人とうまく共存していくための考え方として役に立てていこう。
自分が対価を要求しすぎれば、ギブ・アンド・テイク の関係は簡単に壊れてしまう。自分の要求する対価が大きいか小さいかは、あくまで相手の価値観に委ねられる。相手に求める対価が少ないほど、ギブ・アンド・テイクの関係はコントロールしやすくなる。相手に求めるものをはっきりさせよう。それ以上の対価を求めないようにしよう。これだけで、ギブ・アンド・テイク な関係が円滑に回ると思う。
あとは、相手に適切なものを与える工夫と努力をしてみよう。欲しいものを的確に与えれば、それだけ価値は増す。与えるものに必ずしもお金や時間がかかるとも限らない。納得や安心というのも、価値として十分成り立つ。的確な指示で安心や納得を与えれば、お金をかけずに相手の利益になる。お金や時間だけで説明ができない価値もある。こういうものを積極的に与えてみてはどうだろうか。
ギブ・アンド・テイクというものはPDCAと同じように回していくものだ。うまく回せば信頼が発生し、回さなければ信頼は崩れる。ビジネスというのは、お金のやり取りにフォーカスした ギブ・アンド・テイク だ。何を要求するかばかり考えていても簡単に行き詰る。相手にどういう利益があるかを考えなければ、すぐに相手に愛想を尽かされる。ここら辺が、日本の企業はヘタクソだと思う。
まずはギブからだ
ギブ・アンド・テイクを成り立たせるために一番必要なことは、ギブから始めることだろう。まずは相手に何かを与えることだ。ギブ・アンド・テイク という言葉をみれば分かると思うが、ギブ が テイク より先だ。何かアクションを起こすなら、こちらから何かを与える必要があるということだ。相手がいきなり何かを与えてくれるということは無い。
何かを得たいと思うなら、相手にも利益があるように計らうことだ。すごく簡単な話だと思う。自分が得ることばかり考えると、相手のことなどどうでも良くなってしまう。人間というのは、自分の与えたものはよく覚えているが、与えてもらったものに関しては記憶に残りにくいらしい。何も考えないと、過剰要求になりやすいので気を付けよう。
ギブ・アンド・テイク をエンジニア目線で考えるなら、手持ちのスキル無ければ、相手に何も与えることができない。従属や隷属の見返りに給料を得るのは社畜だ。エンジニアではない。給料にせよ、待遇にせよ、多くを求めるならスキルが必要だ。経験年数や資格、職歴ではなく、自分の技術で何ができるだろうか。それが相手に与えられる全てだ。
会社にしても個人にしても、自分の願望に流されると相手に求める一方になりがちだ。もし、現状でうまくいっていないのなら、与えているものと得ているもののバランスが、どこかで崩れていると思う。人に何かを与えれば、自分の何かを消費する。これを無駄と考えるだろうか。それとも投資と考えるだろうか。私は流れだと考える。ギブ・アンド・テイク がうまく連鎖する状態こそ、誰もが幸せになれる近道ではないだろうか。
コメント
u_zu
GiveにしてもTakeにしても、個人レベルでみるとバランスがとれていないことが多いと思います。Giveしすぎ(貢献しすぎ)かTakeしすぎ(使えない)。。。80対20の法則のような。