いろいろな仕事を渡り歩き、今はインフラ系エンジニアをやっている。いろんな業種からの視点も交えてコラムを綴らせていただきます。

「ビジネスにスピードを」なんて言う奴は家に帰ってさっさと寝てよう

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ビジネスはチキンレースではありません

 IT系の記事や宣伝を見ていると、「ビジネスにスピードを!」とか、それに類似した宣伝をよく見る。チャキチャキと仕事済ますことがカッコいいように煽っているように見える。ピシッとスーツを着こなしたお兄さんがクライアントに爽やかな笑顔でドキュメントを渡してサムアップ。みたいな雰囲気で「これからのビジネスはスピードが命!」みたいな一言を決める。こういうパターンは昭和の時代から見続けてきたように思う。

 現実はというと、ヨレヨレのシャツのエンジニアがボリボリ頭かきながら、くしゃくしゃになったドキュメントの束を抱えて安堵のため息をつく。「あー、仕事終わった。帰ってプリキュア見るか。」という一言を決める。実際に仕事を早く済ます人はこんな感じだ。ビジネス一辺倒より、プリキュア好きな人の方が仕事が早かったりする。なぜなら、ビジネスという概念に力んでいないので、その分動きが軽いからだ。

 ぶっちゃけ、もうビジネスにスピードなんて時代ではない。何年同じ事を言ってるんだよ。三十年前はそれで通じたかもしれないが、もう時代は変わった。これからの時代は、スピードだけじゃなくて持続性もいる。無茶なスピードを追求して、息切れ起こしてるような人にこれからの時代は担えない。スピードを追求したとしても結果はついてこない。

 仕事のスピードを追求することは否定しない。だが、思うような結果が得られなかったなら、そこから学ぶべきだ。成果が得られないことより、経験から学ばないことの方が問題だ。未だにバブルの頃と同じノリでスピードを追求しても、バックボーンになるリソースが無い。結果、消耗戦になって、頑張れば頑張るほど後に引けないチキンレースになる。

某クラウドの宣伝のからくり

 A○○という某有名なクラウドのサービスの宣伝文句にこういうのがあった。「A○○を活用して、二週間でシステムを構築。■■■■という素晴らしいサービスを展開した。」多分、この謳い文句を見た思慮の浅い経営者は、二週間用意して「A○○というサービスを使って、■■■■みたいな凄いサービスを立ち上げるぞ!」とテンションを高めることだろう。実際にそういうケースを幾度か見てきた。だいたいが自然消滅するか炎上して灰になるかだ。

 ここでA○○の宣伝文句を紐解いてみる。このA○○というサービスに関して、私も使い方をいろいろ調べてみたところ、素晴らしいサービスであるのは間違いない。だが、使いこなすには非常に高度なスキルが要求される。まず、このサービスをたったの二週間で使いこなせるようになれる人なんてそうそういないだろう。多分、スキルの習得だけでも何年かかけて積み重ねをしたことだろう。

 また、■■■■というサービスのバックボーンになるポリシー等にしても、到底、二週間で考えられるようなレベルのものではなかった。度重なるリサーチや、綿密な練り込みを行ったことだろう。素晴らしい直感は一瞬で浮かぶが、段取りは膨大な手間が必要だ。「一瞬で閃いた直感」だけにスポットを当てれば、確かに「ビジネスはスピードだ」が当てはまる。

 つまり、A○○を活用してシステムを構築した二週間というのは、全ての段取りを済ませて、最後のひと押しにかかった期間だろう。二週間で全てを実現した訳ではない。すごく早いように見えるが、実際のところは、本番環境にデプロイをかけるためにかかった期間じゃないかと思う。逆算して、デプロイ作業だけで二週間かかるようなシステムなので、そこまでに費やしたリソースは膨大だったのではないだろうか。

実力もないのにビジネスのスピードを語ってはいけない

 就活生なんかが、やたらと意識を高めて「ビジネスはスピードだ!」なんて言っているのを見ることがある。あれは非常に危険だ。即刻、考えを改めさせるべきだ。スピードを出すのに必要なだけの経験やスキルが無いからだ。こういう人が実際に働き出すと、結果ばかり求めてスキルが伸びない。途中に必要なプロセスをすっ飛ばすからだ。最悪、意識と現実のギャップに耐えられなくなって、ドロップアウトしてしまう。

 普通の人は、一時間で済む仕事を三十分で済ますには、二倍頑張ればいいと考える。しかし実際は、難易度は何倍ではなく何乗で計算される。なので、二倍ではなく二乗の労力が要求されることになる。これを人の労力だけで補うのは不可能だ。こういう補えない部分を、仕組みや技術で解決していかなければならない。この計算ができることがスピードを語れる条件だと考えている。

 タスクの数は足し算、時間の単位は倍、難易度の単位は乗の単位で計算しよう。このくらいでようやく辻褄が合うはずだ。技術を習得するにしても、必要な時間と努力の単位は倍、実際の成長速度は足し算で、成長をやめたら引き算で退化していく事を考慮すれば辻褄が合うはずだ。こういった計算を間違えるから結果が出ないのだろう。また、こういった基本的な原則を、プランだけで覆すことはできない。

 意識の高い人たちは、プランばかり熱く語り、年単位の努力ができない。土台になるスキルや理論が乏しいから、「急ぐ」しか発想しか出ないのだろう。実際、仕事に限らず、焦る人ほどよく急ぐ。戦場というのは、焦ったヤツから死んでいく。ビジネスも、急いだヤツから死んでいる気がしてならない。急ぐ背景にあるのは、ビジネスに対する意識の高さではなく、単なる無知だということに気づくべきだ。そういう新人がいたら、キッチリ戒めよう。経営者だったら、事業の終了を視野に入れた方がいいかもしれない。

寝る時間も確保できない人にスピードを語る資格は無い

 「ビジネスにスピードを」なんて言う前に、自分の仕事を振り返ろう。膨大な残業をして普段より早い納期を達成したとしても、それは効率が良いとは言えない。単に人海戦術で対応したというだけだ。もしくは、簡単な事にしか取り組んでいないので、早く仕事がこなせてる気分になっているだけかもしれない。仕事自体のスピードは並か、むしろ遅い。実際、かかるお金も相応にかさむはずだ。

 実際、スピードを重視するなら、いろいろと省くべきものがある。仕組みも整えなくてはならない。判断材料になる情報は、整理されているだろうか。また、スピードが出るということは、時間単位で多くの利益が得られると同時に、時間単位で多くのリスクも発生する。また、いつまでも短距離走のような方法を続けることはできない。必ず、ペース配分を考える必要がある。

 そもそも、日本のビジネスマンのスピードの追求のしかたが間違えている。短距離走でフルマラソンの距離を走り抜こうとしてるようなものだ。そういう人を「意識が高い」と持ち上げる。これは無知意外の何者でもない。まともな仕事ができるわけがなかろう。だから、勘違いした頑張りかたばかりもてはやされ、的外れな努力が横行するのだろう。

 ビジネスにスピードとか言う前に、定時までに仕事終わるようにしよう。残業前提のプランを恥じよう。決められた時間までに仕事が済まないのは、スピード以前に何かがおかしい。前提条件も満たせない人がどんなに背伸びをしても、出せる成果なんてたかが知れてる。成功者というのは、意外と常識を踏襲しているものだ。違うのは、普段の習慣とたまに浮かぶ閃きくらいだ。これにより、積み重ねの結果に違いがでるから成功できるだけなのだ。

Comment(15)

コメント

匿名

個の視点でみた場合は、無理をしてもスピードが出ないのは理解できる。ただ、ビジネス全体の視点でみた場合、記事に対して納得感はないね。

Anubis

せっかくなのでツッコミを入れておく。
ビジネスにスピードが必須と思い込んでいる人は多い。別に、それ自体は間違いではない。
だからこのコラムを書いた。
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だってそうだろう。
自分の納得いく意見しか言わない人と話しても何も面白くはないだろう。だから、納得できないという反応は正しい。
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うまいこと期待を裏切れたので、コラムとしては成功と感じている。

天狗の高下駄

× ビジネスにスピード
○ アイデアにスピード
◎ (問い合わせの)レスポンスにスピード

piyo

ビジネスにしたところで社会貢献・法令順守、
欠員が出た時の穴埋めや消費資源の需給調整、
安全性の検証、その他諸々を考慮した上でのスピードなら確かにあるだけいいけど

世に持て囃されてるのはそんな高尚なものじゃない。

でも、実はそんなことは一つも考えてなくて
どんなにむちゃくちゃでもシェアさえ拡大して予算がつけば
後からなんとでもなるからやれるときにやっておけってことなのかもしれませんよw

JK

「ビジネスマン」と「サラリーマン」のような、視点の違いだと思いますね。
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年単位で収支計算して、結果と責任を求められる経営層のビジネスにはスピードは重要です。それこそ1分でも1秒でも縮めたい。
日や月単位で固定給が出るのが当たり前と考える人たちには、スピードはむしろ悪でしょう。たくさんやっても給料変わらないし。
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最近は一般社員にも「ビジネス感覚を持て!」という人多いけど、ビジネス感覚が何なのかをきちんと教えてくれる人はほとんどいませんよね。
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こういったコラムを書くほど溜まっている(笑)のなら、経営層に直訴して1ヶ月ほど仕事に同行させてもらうのはどうです?

Anubis

> 天狗の高下駄 さん
それだ。

Anubis

> piyo さん
私自身、「ビジネスにスピード」という文句を真に受けてこのコラム書いてますからね。もしかしたら、私自身が謳い文句に翻弄されてるのかもしれませんね。

Anubis

> JK さん
経営層はいやーん。あんまり得意な分野じゃない。溜まってるのは、オシャレなカフェでお茶でも飲んで解消しようと思う。
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特に意識して書いてるわけじゃないけど、現場の末端で火消しやってるので、そういう立場からの見解になります。

user-key.

× ビジネスにスピード
○ 決断にスピード
じゃないですかね?
先送りは最悪だし。

ogawa

ビジネスにスピードは大事だよ。
それもわからんのならビジネスを知ったような口をきくな。

Anubis

> user-key. さん
確かにそうですね。ついでに思うのは、普段の生活でも決断にスピードが必要だなと。


> ogawa
よく本文を読みましょう。ビジネスにスピードが必要な事自体は否定していない。
スピードを追求するならそれなりにやることがあるだろうという話ですが。ちゃんと中身よみました?中身理解できてますか?


あえて一言いうなれば、「文章もろくに読めないのにビジネスを知ったような口をきくな。」と返しておきます。あなたのような人が発生するのは想定済みです。事前に返答も用意してありました。テンプレ通りの反応ありがとうございます。

ogawa

お前こそ俺のコメの中身の本質を理解しろ
まぁお前には無理だろうがなww

晩年雇われくん^^ww

Anubis

> ogawa さん
まぁ、言うことに一理はある。私はビジネスの稚拙さと言う一面に絞ってコラムを書いているのは事実だ。純粋にコメントに込めた「本質」と言うのを逆に聞いてみたくなった。


・・・ただ、日本人の大半は晩年雇われているが。貶すにしてはパンチが弱い。
「自分の力でコラム書いてお金稼いでるんだけど」と言えば、あなたと同じステージに立っているということになるのかな。

ogawa

この程度の文章で「お金稼いでるんだけど」とか、どれだけお花畑なんだよwww
本質とか言う前に身の丈をわきまえた方がいぞwww


いつまでも吠えてろ^^ww

Anubis

・・・なんて返しが来るのかな。


とりあえず、言いたげなことを先に自作自演で書いてみた。
この後、どういう反応があるか興味深く観察してます。


ちなみに、何度も言っているがコラムは無料で書いてます。「と言えば、」と書くことで、状況を仮定してます。


こんな感じで、クソコメントに関してはいくらでも返しができるように伏線をたくさん張ってます。最近は、クソコメを弄って遊ぶスタンスです。遊ばれる事が大好きな、子犬のように無邪気な方であれば、お好きなようにクソコメどうぞ。

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