君に佐野研二郎氏を非難する資格はあるか
■東京五輪のエンブレム撤回
先日、佐野研二郎氏のデザインした東京五輪のエンブレムが撤回になった。この騒動を追いかけていた訳でないので、詳しいところは知らない。ベルギー・リエージュ劇場の商標登録したエンブレムと類似していると提訴され、原案を公開して反論したら、今度はそれがヤン・チヒョルト展の何かと類似していて・・・。だったっけ。正直よく分からん。
一つをパクっただけなら話は簡単に済んだと思う。連鎖的にパクりが発覚した上に、関係者のパクリ疑惑まで発覚して・・・。と、話をまとめようと思ったら逆に混乱した。多分、何をパクって云々を詳細に書いていけば、コラム一本分くらい軽く書けるボリュームになりそうだ。ここらへんの詳細は、別のサイトでご確認ください。
あと、このデザーナーと名乗る佐野氏には、かなりの叩きがあったようだ。会社のメールアドレスを晒されたり、いろいろな個人情報を特定されたり、家族にまで嫌がらせが及んだりと。なかなか壮絶だったようだ。
■佐野氏は何なのか
私から見て、佐野氏は優秀なビジネスマンだ。なぜ優秀と付けるか。それは一応結果を出したからだ。やり方はさておいて、実績は出している。今の地位に登りつめたのも、有名企業でいろいろなデザインを手掛けたり、東京五輪のエンブレムを受注したというのも、形だけ見れば実績だ。やり方は否定するが執念は評価する。
佐野氏の考え方は非常にビジネス的なものを感じる。効率よく多くのデザインをするには?より多くの実績を短期間で出すには?発想は典型的ビジネスマンだ。デザイナーでなければ、彼はビジネスの分野で活躍できる資質があったと思う。良識のある人が育てれば、社会の役に立っていたかもしれない。
現代のビジネスは、反則ギリギリのところを突っ走っている。佐野氏は、クラッシュしたF1カーみたいなものだ。ギリギリの攻防をやっていれば、ああいうのが一人、二人はでてくる。ただ、首位でクラッシュしたから目立っただけだ。
競争というのは、急速な成長を生む反面、勝つためにモラルを見失う危険もある。東京五輪のエンブレム撤回騒動を見て強くそう感じた。そして、最先端を走っていたのがモラルを失った人だった。それが非常に残念だった。
■1人の悪人の裏には100人の悪人がいる
これはゴキブリと同じ理論だ。今回、ここまで露骨な手抜き仕事が通用したのも、佐野氏一人の力ではない。多くの人が絡んでいるはずだ。なので、佐野氏だけを責めるのは違うような気がする。佐野氏は、状況がまずくなったので責任をかぶせられた人に過ぎない。
このような事例がまかり通ってしまうのは、私たちのモラルが低下しているのが原因だと考えている。ここがこのコラムで一番訴えたい主題だ。問題は佐野氏ではない。自分たちのモラルの低さだ。
確かに佐野氏のしたことはずるい。だが、個人の解釈で罰を与える理由にはできない。行き過ぎた晒しあげに対してモラルの低さを感じた。憤りを感情に任せてブチまけてるだけだ。そこに人としての思慮深さは無い。
もし、私たちのモラルが本当に高いなら、正攻法でデザインされたエンブレムが選ばれていただろう。佐野氏が地位を築けたのも、五輪のエンブレムに選ばれたのも、同じような価値観で利益を求めた人がいたからじゃないだろうか。
■君の隣にも佐野氏っぽい人はいる
「いやー、今回の五輪のエンブレムのパクリ、酷かったなぁww」と、普段から部下のアイディアを横取りしまくる上司がぼやいていて、軽く殺意が沸いた。実際、部下のアイディアをパクる上司なんて、世の中には掃いて捨てるほどいる。佐野氏もニュースにはなっているが、それほど珍しい人とは思わない。むしろ一般的だ。
自分で考えるより、人のものを奪う方が手っ取り早い。うまくやれば、一人では弾き出せない効率を実現できる。正攻法より人を騙す方が、多くの利益を叩き出せる。効率や利益ばかり重視していれば、そういう禁忌に触れてしまう人がいても不思議ではない。
IT業界でも、明らかな実力不足なのにマネージャをやっている人がいたり、炎上案件なのに利益が出ていたりと、不思議な現象をよく目にする。誰かが禁忌に手を出して、黒魔術でも使ってるのだろうか。たまに、生贄に捧げられた人の悲鳴が聞こえてくる。
悪いことで目立った人を叩いても何も変わらない。むしろ本質からどんどん遠ざかっていく。ああいう人を見たら、自分の身の回りはどうなのか見直すべきだ。案外、それが不都合なので、目を反らすために佐野氏を激しく叩くのではないだろうか。擁護する気はないが、そんなふうに思う。
コメント
Buzzsaw
今の時代、デザインのパクリなんてすぐに露呈しそうなことを、
世間から注目を浴びている人間が無邪気に行い、
さらに満面の笑顔で「私は健全なゾーンの人間です。勝利者です。」然とされたら、
叩かれたって当然だと思います。
違法行為やグレーな悪いことをやって利益を上げているのは良くないけれど、
それを持ち出して比較し、「無邪気なパクリを批判すんなよ」ってことにはならないと思いますが、
いかがでしょう?
Anubis
> Buzzsaw さん
> 叩かれたって当然だと思います。
ちょっとここで考えてください。叩いた後に思慮深くなる人っているでしょうか?
大概の人は、叩いてスッとして終わりです。そこから先、何かが良くなる事はない。
結局、ムカついたから殴るというのと大差が無い。
> それを持ち出して比較し、「無邪気なパクリを批判すんなよ」ってことにはならないと思いますが
おっしゃる通り、そうはなりません。
「自分はどうだろうか」と自分を省みるのが利口です。
やまぐち
MSDNとDobon.netとStack Overflowのサンプルコードのコピペで生計を立ててる俺最強
天狗の高下駄
モラルの低さ≒思考力の低さ≒理解力の低さ、と言ったところでしょうか。
この騒動を一歩引いた視点から書いているネット上の文章では、ほぼ例外無く本論から外れた擁護するなと言うレッテル貼りや、逆ギレコメントが付いていて、ネット上で声の大きい人、過激な発言をする人と言うのは、物事を表層しか見ていないかと改めて思いました。
まあ、登場人物の殆ど全て、と言うか日本人自体のモラル低下が危惧されるべきレベルに達しつつあるような気がします。
ゆずる
パクリ、盗作はダメ。
オマージュ、パロディーはOK
佐村河内さんは優秀なプロデューサーだと思う
Anubis
> やまぐち さん
それを"引用"と言えれば、さらにスタイリッシュ。
> 天狗の高下駄 さん
コメントありがとうございます。
> モラルの低さ≒思考力の低さ≒理解力の低さ、と言ったところでしょうか。
そうですね。7割くらいは通じる判断基準だと思っています。
> 物事を表層しか見ていないかと改めて思いました。
あと、特定方向から見る傾向も強いと思います。
> ゆずる さん
佐村河内って誰だったか忘れてた。
h
ゆずるさん
>オマージュ、パロディーはOK
五輪関係ではこれもNGではないですか?
というかオマージュやパロディーが許されるのは「○○からパクりました」ってのを作った方も見る方もわかってるから許されるわけで
「パクってません」と言ったらそれはオマージュでもパロディーでもないでしょう。
ちはる
うーん、「正直よくわからん」ことを題材に調べもせずにコラムを書いて原稿料をもらう姿勢はモラルの低さには当たらないのか、私にはちょっとよくわかんないですぅ。
Anubis
>ちはる さん
>「正直よくわからん」ことを題材に調べもせずにコラムを書いて原稿料をもらう姿勢はモラルの低さには当たらないのか
モラルの低さには当たりません。
1. コラムには原稿料は出ません。(コラムニスト募集のページに書いてます)
2. このコラムの主題は事実の追求ではないから
3. そんなつまらない事実を追いかけるより、自分を振り返るべきだという演出上の意図があったため。
確かに、事実を伝えるのが目的な文章ならそうだろう。
だが、主題に対しての情報は十分に網羅してる。
演出上の意図もあり、あえて「よく分からん」と書いた。
たとえお金を貰っていたとしても、モラルの低さには当たらない。
ジェットマグロ
私も佐野氏のデザインの問題点はよくわかりません。
デザイナーとしての倫理に悖る行為があったならば相応の報いを受けるべきだ、としか言えない。
ただ、佐野氏叩きの風潮については気分が悪い。
「自分が安全圏にいて、反撃される恐れのない相手を、叩くだけ叩く」
こういう大人が多いから、子供がそれを真似して、いじめが再生産されるのだと思います。
ごまめの歯軋りかもしれませんが、こういう風潮とは常に距離を置いておきたいですね。
Anubis
> ジェットマグロ さん
コメントありがとうございます。
>私も佐野氏のデザインの問題点はよくわかりません。
私もよく分からなかった。
調べてみると、世間でいわれているパクリにも色々な側面がある。
例えば、ドラゴンボールの悟空のかめはめ波と、ストⅡの波動拳。
モーションが全く同じなんですよね。でも、あれをパクリと言う人はいない。
ただ、こういうコラムやネットの記事に結論を求める人が多いのも事実。
ここを起点に考えて、様々な視点が見出されるべきなのに、
そこで思考が止まってしまう。これは望ましくないと思う。
あくまで問題提起なんですよね。
コラム中、佐野氏を優秀と書いたのも、
叩いてるお前らも社会的には評価してただろ?という問いかけも含んでいる。
コラムが誰かの考えるきっかけになれば嬉しいです。