いろいろな仕事を渡り歩き、今はインフラ系エンジニアをやっている。いろんな業種からの視点も交えてコラムを綴らせていただきます。

ドキュメントを見て分かる現場のこけ方 Part5 とにかく大きな表ばかり書く現場

»

--ふれこみ--

 プロジェクトで使う情報は一箇所にまとめて一元管理だ。必要な情報をすべて一つの表にまとめておけば確認しやすい。汎用性の高いExcelを使えば更に利便性が高い。とりあえず、必要な情報を全部表やマトリクスにして管理しておけば情報のもれがなくなるはずだ。

--実際--

 残念ながら、こういうやり方をしている現場は情報の抜け漏れが激しい。一元管理する情報の精査という作業が抜けるからだ。安易に一つの表にまとめたがるのには、どの情報が重要か切り分けが付いていないという背景がある。

 表の項目が印刷しきれないくらい大きくなったら情報の整理が必要と考えよう。だいたい人間の思考が及ぶ範囲が、A4に印刷したくらいの情報量だからだ。項目がいっぱいあると確認しやすいように思うが、実際は項目が多いほど混乱する。専門書読んでもそうだと思う。少ない項目で要点をまとめているほど分かりやすい。

 実際、確認したい情報を見るため、Excelの表示を小さくしたり、マウスでちまちスクロールしている。これは表が見難い。必要な情報の確認に時間がかかるので、情報のまとめ方を失敗していると言える。

 また、表が大きくなったら空白の多い項目がないかチェックしよう。100個データがある中の二,三個に"⚪︎"が付いている表だ。この空白が無駄だ。これも確認するのにマウスでちまちまスクロールして確認することになり、必要な情報にたどり着くのに時間がかかる。これも情報のまとめ方を失敗していると言える。

 最悪なのはマトリクスだ。これを書くと無駄に表が大きくなる。マトリックスでチェックすると、縦横の行を参照しながらマウスでちまちまスクロールして確認することになり、必要な情報にたどり着くのに時間がかかる。これも情報のまとめ方を失敗していると言える。

 「マウスの動きとか、縮小拡大なんて些細な問題だ。」とに考えると痛い目を見る。情報を整理してコンパクトにまとめた表なら三秒で確認できる内容が、巨大な表だと30秒〜数分かかる。この差はかなり大きい。確認だけならいいが、何かの資料と付け合わせて考える場合、決定的な差が出る。この差がが炎上の引き金になる。

--こけ方--

 情報整理で躓いていては案件が炎上するのは確実だ。それはそうだろう。情報を正確に把握するのはプロジェクトを成功させる必須条件だ。

 それでも、プロジェクト歴が長い人や記憶力のいい人は強引に仕事を進めることができる。情報量の少ない序盤であれば乗り切れる。だが、情報量の増える中盤あたりからいろいろ苦しくなる。苦しくなるのを見越して人員を追加するが、新しく入った人がなかなか情報にキャッチアップできずに、終盤で破綻する。

 受験勉強のような暗記が得意な人は、表をあてにせず記憶を頼りに仕事をすることがある。暗記していると、一見プロジェクトの全貌を把握しているように見えてしまう。しかし、記憶しているからといって、データの意味を理解しているとは限らない。

 優秀と言われるタイプにこういうことが多くある。暗記しているので、聞かれたことには即答できる。だが実際は、記憶を頼りにあまり考えずに仕事をしていることもある。ここを見抜くには、データが整理されているかを見れば一発で分かる。人の目は誤魔化せても、目の前のデータは誤魔化せない。

 マトリクスにしても、全ての選択肢を洗い出したように見えて、実はぶちまけただけだ。縦横10×10だとしても100マスだ。ぱっと見100個チェック項目が並んでいたらげんなりするだろう。情報を整理しないと、無駄なところで心労が積み重なり疲弊する。また、並列に並んでいるので、重要度の切り分けもしにくい。

 漠然とデータを見てデータの意味をあまり考えない。また、データ同士のつながり合いが見えないので、考え違いを起こしやすい。自分たちの扱っているデータの複雑さが理解できない。結果、難易度の見積もりを間違えて失敗するか、多くの工数を棒に振ってしまうことになる。

 情報の整理ができないというのは、雑な言い方をすれば思考力が弱い。更に雑な言い方をすると能力が低い。至極簡単な話、マネージャクラスの人がそうならプロジェクトが失敗するのは当然とも言える。

--解決方法--

 まず、データの整理の仕方を覚えることだ。難易度としてはAccessの使い方を覚えるくらいのレベルだ。確かに簡単ではないが、普通の人でも2〜3年頑張れば苦労せずに習得できる。頑張れば半年でなんとかなる。

 データの整理は、確かに難しいが絶望的に難しい訳ではない。ただ、知ってる人がいないと立場の高い人が「正しい」と言っただけで間違った考え方が通ってしまう。特に見やすい、見にくいは感覚的に判断される傾向が強い。

 見やすい、見にくいにも背景となる理論がある。これを理解しなければ、データを整理する意味が理解できない。「どういう形にせよ、目の前にデータはあるのだ。それでいいではないか。」となってしまう。実際、データを整理しても見え方が変わるだけだ。

 データを整理するというのは、用途によって表を分割する、項目をまとめて表につける見出しにする、項目を統合するという三つの作業になる。この三つを組み合わせて表をシンプルにする作業だ。適切にこれらの作業を行うためには、正規化などのDBで使用する概念を理解する必要がある。なので、データの整理の難易度はAccessの習得と同じくらいのレベルなのだ。

 簡単なものは簡単、難しいものは難しい。それを認識できるだけでも、かなりのトラブルを避けることができる。また、チームのスキルが低くても、自分だけでも情報が整理できるなら、身に降りかかる火の粉はある程度防げる。たとえ一人でも実行する価値はある。

--総論--

 データ一つ整理できないのかとプロジェクトマネージャを真っ先に叩きたくなるが、実は多くのエンジニアが同じ状態だ。実情、誰も叩けない。教育に手を抜いたり、創意工夫を後回しにした結果だろう。IT業界に携わるのであれば、大いに反省すべきことだと思う。

 また、コンピュータの無い時代であれば、無限に大きな表が作れなかったので、嫌でもデータの整理という作業をしていた。コンピュータという便利な道具ができたが故、データを整理しなくなったとも言える。

 まずは、IT系のエンジニアである私たちから認識を改めるべきだと思う。

Comment(2)

コメント

天狗の高下駄

サーバ構築をやってた頃は、下手に資料をまとめようとはせず、プロジェクト単位でフォルダ作って放り込んでましたね。たまにフェーズ毎にサブフォルダ作る位で。

定義や設計系はWord、パラメーターやホスト名、IP一覧ならExcel、構成図、配線図ならVisioかPowerPointと目的に応じて使用するツールを分けていたので、資料を探すときは、アイコンを目印にすれば手間がかかりませんでしたから。

あと、どうしてもExcelの表がA3サイズに成ってしまった場合、私は躊躇せずプリントアウトし剣(定規)を片手に物理的な対応してました。

データ整理にしても、やはり最後は物理的に認識できる、紙と手だと思います。

Anubis

> 天狗の高下駄 さん
コメントありがとうございます。

> データ整理にしても、やはり最後は物理的に認識できる、紙と手だと思います。
私の場合、最後ではなく最初が紙です。

同じA3サイズのExcelの表を渡されたら、まず私は絶望します。
もう、Excelでその表を見たくなくなるので、手書きで項目の整理を始める。
あと、確認作業で使う定規は強いと思う。

手段や考え方に違いはありますが、非常に納得出来るやり方だと思いました。

コメントを投稿する