いろいろな仕事を渡り歩き、今はインフラ系エンジニアをやっている。いろんな業種からの視点も交えてコラムを綴らせていただきます。

ドキュメントを見て分かる現場のこけ方 Part3 とりあえすWord使う現場

»

--ふれこみ--

 ドキュメントを作るなら、やはりドキュメントを作るためのツール、Wordが最強だろう。使いこなせばきちんとした体裁でドキュメントを作れる。Excelと違って、作った通りに印刷されるし、目次だって自動生成できる。制度の高いドキュメントを作るなら、やはりWordに限る。

--実際--

 だが悲しいかな、世の中そんなに甘くない。Wordを使うと書式戦争が起きる。きちんと設定できる機能があったとしても、それぞれの主張が違う。本文はゴシック派と明朝派は、Vim派とEmacs派の争いのように今だに続いている。ちなみに私は明朝派だ。

 書式戦争と同時にスタイルの破綻というのも起きる。Wordのスタイルの一覧を表示させると、設定した覚えのないスタイルがどんどん増えて、収拾がつかなくなる現象だ。手動で書式を設定した時にできてしまうものと、別ファイルやWebの情報をコピペした時にできてしまう2種類がある。気付かない内にスタイルが増殖して破綻したWordファイルを数多く見てきた。

 これらのトラブルは、Word上級者でもなかなか避けることは難しい。人為的な要素が多いからだ。流石に、コピペのやり方まで細かく注文をうけると機嫌が悪くなる人も多い。こういった理由を的確に説明でき対策まで打てる人は、上級者の中でも一部に限られる。

 そもそも、Wordなんてお客さんから指定でもなければ使おうと思わない。使ったとして、Wordを使う意図を理解しているケースはほとんどない。お客さんも意図を理解していないし、自分たちも意図を理解できない。そういう謎だらけの状態で、ただWordで作っているという状況も多い。こういう現場で書式戦争やスタイルの破綻が起きて、Wordに対するトラウマを持つエンジニアもいると思う。

 Wordを使ったからといって、必ずしも質の高いドキュメントができるとは限らない。むしろ、Wordを使わなければ書けないくらいのボリュームのドキュメントを書く場合、出来栄えを左右するのは情報をまとめる手法だ。情報をまとめる手段が貧弱だと、Wordの真価を発揮する前に情報の錯綜が起きてしまう。

 また、レイアウトに関する間違った知識も同様だ。アピールしたいところのフォントサイズを大きくする、やたらとインデントの多い箇条書き、こういったものは、アピール手段としてあまり意味がない。ドキュメントの中身でアピールすべきだ。スタイルの種類が多すぎると、逆にごちゃごちゃする。ドキュメント作成のルールばかりが増えて、メンテナンス性が落ち、Wordで作る利点が半減してしまうのだ。

--現場のこけ方--

 数人の人でパートを分けてドキュメントを作っていく形式がよく取られる。統合する時にスタイル紛争が勃発する。特に、何も考えずにVisioからコピペするとファイルが壊れやすいようだ。

 また、崩壊したファイルに固執すると泥沼化しやすい。最悪、挙動が不安定になりWordが頻繁に固まる、落ちるようになる。しかも、同時に作業できるのは一人。複数個のファイルを統合する時にこの現象が起きやすい。ドキュメント作成の詰めの段階でWordが落ちる、固まる、原因が分からない。こうなると手詰まりになる。

 Wordをきちんと勉強している人が少ないので、使うとなるとスキルの差が出てしまうのも問題だ。ここで主義主張が分かれてしまいやすい。それだけ、ドキュメントの構成を考える習慣が一般化していないということだ。

 例えば、改ページの機能を使わずに改行を連発して強引に改ページさせるケースをよく見る。これをすると、文章を追記して改ページした時にレイアウトが崩れる。また、適当に書式を弄ると勝手にスタイルが増える。それがなぜいけないのか。説明できるだけのスキルを持った人の方が少数派だ。

 現状ではWordを使いこなす人の方が少数派だ。多数決で判断していると、間違えた選択肢が選ばれやすい。Wordを使うと、チームワークやら判断力などが試されてしまう。機能の意図が理解できないと、”使いにくい”で片付けられてしまう。なので、現場でWordを使いこなすのはかなり難しい。

 数十ページくらいのドキュメントの内容をまとめきれないのは、マネージャクラスとしては実力不足だと思う。情報が整理しきれずに長いドキュメントを書くと、途中で破綻する。Wordを使いこなせないから炎上するというより、単純にマネージャの実力不足が原因だ。これがWordを使うことで露呈する。

--対処方法--

 Wordでドキュメントを作成する場合、事前にスタイルを決めておくことは必須だ。決めたレイアウトに沿ってドキュメントを作っていく。なので、かなりの計画性が要求される。どういうスタイルを作成するか判断する時にDTPの知識が問われる。なかなか多くのものが求められるが、まともにドキュメントを作ろうと思えば、本来、このくらい高度な技術が要求される。それは認識しておこう。

 スタイルを使いこなせればWordを使いこなせるかというと、実は一つ足りない。Wordのテンプレートの機能を理解する必要がある。このテンプレートにスタイル関連のデータが保存されているのだが、Wordファイル自体がどのテンプレートを使って作ったかを記憶しているのだ。

 これがどう影響するか、ややこしい仕組みがある。開発のタブからでなければ弄れないような機能だ。ここを理解しないとスタイル紛争を鎮圧するのは難しい。

 難しい機能の兼ね合いもあって、Wordで作ったドキュメントはPDFに変換して配布するのが一番無難だ。お客さんやパートナー会社に渡して編集させても、スタイル紛争に巻き込まれて思わぬ工数が吹き飛んんでしまう恐れがある。

 Wordを適切に運用するには、チームで一人、書式整理担当を決めてその人に全て書式を任せるやり方を勧める。Wordを使いこなせる人であれば、100ページくらいのドキュメントでも一人で書式を全部直すことができる。そのくらいWordは強力なツールだ。

 もし、スタイル紛争でファイルが壊れたら、別ファイルにテキストとして貼り付けをする。そして、スタイルが増えていないことを確認してから、スタイルを設定する。この繰り返しで復旧はできる。だが、図の吹き出し等に使用した文字にもスタイルは設定されている。なので、複雑な図の場合は対応が難しい。

 使いこなせば製本レベルのドキュメントが軽々作れる。必要とされるスキルも高い。本当に使いこなそうと思えばDTPの知識は必須だ。そして、100ページレベルのドキュメントを構成する情報処理の能力も求められる。ソフトの操作を知っているだけでは使いこなせないのだ。

 ちなみに、Wordを上級者レベルで使おうと思えば、2〜3年の学習は必要だ。使っているではダメだ。しかも、正しい認識で書かれた本はほとんど無い。Wordのコーナーを見ると多くの本が並べられているが、上級者に通用する本はその中の2〜3冊くらいしかない。実は、圧倒的に情報が不足している分野とも言える。

--総括--

 とりあえず、Excel,Word,Powerpoint と一通りこけ方について書いてみた。「これじゃ、どんなツール使ってもこけるってことじゃないか!」そう言われるかもしれない。実はその通りだ。

 ドキュメントはツールで書くんじゃない。自分たちで考えて書くものだ。情報を整理して、構成を考えて、ここで初めてツールの出番だ。設計ができようと関係は無い。コードが書けても関係は無い。必要なのはドキュメントを書く力だ。そこを勘違いしてはいけない。

 コードを書くのに勉強をするように、ドキュメント書くにも勉強は必要だ。情報を整理するにも勉強が必要だ。96%のエンジニアがこの認識が抜けている。そして世の中でも認知されていない。それだけまだ、創造性を発揮できるフロンティアがあるのだ。

Comment(7)

コメント

pepper

最新版では問題がないかも知れませんが、
Wordで作った通りに印刷されない事もありますね。
原因は出力先の設定で、出力先を プリンタAとして作成した文書をプリンタB に出すと、レイアウトが崩れると。
それなんで、PDFを提出物としているところもありましたが、担当者によっては、PDF出力された結果を確認しない人もいて、レイアウトが崩れたままなんてのも。
細かい話ですが、要注意。

Anubis

> pepper さん
コメントありがとうございます。

> Wordで作った通りに印刷されない事もありますね。
あったような気がする。ただ、2003くらいの時代の記憶ですが。いろいろなファイルからコピペしまくって、スタイルが崩壊したファイルだった気がします。

私の場合、ズレにくい定番フォーマットを使うようにしているので、この何年かは印刷がズレる事象に遭遇していません。ズレたとしても、指先一つで直せます。

ただご指摘のように、最終出力の確認は必ずするようにしたいです。

休日出勤

自分自身のマニュアルを作れないような文書作成ソフトってどうなんだ?

Anubis

> 休日出勤 さん

どうなんだろうね。

pepper

Anubisさん、
Wordファイルが出力先(プリンタ, PDF)の違いでレイアウトが崩れるのは、常識と思っていたのですが、違ったようですね。(某社では、出力先をPDF指定で作成するルールとなっていた)
スタイルうんぬんでなく、物理マージンによる問題なので、今でも起きると思いますが、複数の出力先を切替える環境が、今、無いので確認できません。
自分の環境ではOKでも客先で NGとなる場合があり、要注意なのです。(もっとも Wordファイル提出の客先はうるさくない事が多いですが)

> いろいろなファイルからコピペ
基本はテキストのみ、コピペ。レイアウトは後から、自分で調整。スタイルまでコピペはリスク高すぎです。

Anubis

> pepper さん
複雑なレイアウトを使うとトラブルが起こるのを学んだので、レイアウトはシンプルにまとめるようにしています。

コメントを読んでいて思ったのが、
私の場合、ズレても気づいていないのかもしれない。
レイアウトを組む時、無理に詰めるとズレが生じそうなので、少し余裕をもって構成している。

今後、気をつけてみます。
情報ありがとうございました。

h

pepperさん
>Wordファイルが出力先(プリンタ, PDF)の違いでレイアウトが崩れるのは、
>常識と思っていたのですが、違ったようですね。
>(某社では、出力先をPDF指定で作成するルールとなっていた)

暗黙ルールですが、弊社ではまさにPDF指定(or XPS Writer)の運用です。
ただしこれはWordに起因しているのではなく昨今のクラウドだ何だの影響でして
社内社外問わずRDP何かを利用するとプリンタドライバの問題が発生するため
「画面通りに印刷されなきゃとりあえずxps出力してそれを印刷しろよ、いちいち問い合わせてくんな」の理由でWordもそれでそこそこ改善されるからとりあえずいいじゃんとなっています。

コメントを投稿する