敬語を使わせる覚悟
■使っている敬語は本当に敬語か
会社では、とりあえず上司に敬語を使う。これは社会の常識だ。しかし、敬語を使う相手を尊敬しているか? これに関しては対象の9割がノーだ。感謝を感じているかという基準では半々。敬語を話すからといって、相手に敬意を感じているとは限らない。
よくよく考えてみると、敬意を感じていないのに敬語を使うというのも変だ。好きでもないのにI love you と言うようなものだ。どのような相手であっても、一定の敬意を持って接するのは大事だ。だが、尊敬もできない人に敬語を使っても敬意がこもらない。こういう中身のない敬語が世の中に増えたと思う。
■敬語を使うための条件
実のところ、敬意のこもった敬語を話すためには条件がある。自分がある程度、精神的に満たされていることだ。もしくは、精神的に成熟していることだ。精神的に余裕のない状態では人に敬意どころではない。
心の入った敬語で話すこと。これは、精神的な余裕があるというステータスだと考えている。相手への敬意というより、その人の品格の高さの証だ。日本語の敬語の文法は難しい。これを使いこなすには、相応の思考能力も必要になる。精神的な余裕と正しい文法と考えると、誰でも簡単に話せるものではないと思うのだ。
敬語の難易度は、世の中で認識されているよりはるかに高い。考えながら話すにはあまり向かない言葉かもしれない。もっと、使いこなすのに訓練が必要な言葉だと認識されてもよくないだろうか。
■間違った敬語の使い方
ただし、形だけの敬語なら、ちょっとした訓練で誰でも話せるようになる。こういう敬語を否定する気はない。ただ、例えるなら便所掃除の時に使うゴム手袋のようなものだ。嫌な思いをしないための気遣いでしかない。これは敬語というより、社交辞令語という方が正しい。
ちなみに、人と接するのが好きな人の敬語や、本当に敬意が湧いた時に使う敬語は、多少文法がおかしくても心地が良い。適切な言葉と背景の心が揃わないと、敬語の効力は発揮されない。セールスマンの敬語に苛つきを感じるのは、心が全く乗っていないからだろう。形は敬語だが、中身は敬語ではない。これが本当の敬語の間違えた使い方だと思う。
■エンジニアとしての敬語の使い方
敬語というのは諸刃の剣だ。尊敬できない人に敬語を強いられると、反動で陰口を叩いたり短所がクローズアップされ、逆に相手との距離が開いてしまう。相手に敬語を要求する以上、自分がそれに見合う人間か絶えず問われる。ちょっと大げさに言うとそういうことだ。
敬語を要求するというのは、上下の差を認識させるということだ。上下の差をアピールしすぎると、相手から自由な意見が出にくくなる。そういうデメリットがある。意見が出にくくなり、アイデアが枯渇するのは致命的だ。力量がないのに敬語でのコミュニケーションを強要すると、見えない損失を招く。
会社で敬語を使うのは常識だ。しかし、敬語を強要することで生産性を落としてはいないだろうか。とは言っても、みんなため口で仕事をしようというわけではない。会社に尊敬できるレベルの人を実在させなければ、敬語を話しても意味がないということだ。敬語を使われるに値するスキル、論理性、人間性を持ち合わせているか、今一度チェックしてみよう。敬語というのは、意外と重いものだ。