紙でできた巨塔(6)既に死んでる奴、前に出る!!!
理不尽な切られ方をした派遣社員は、時にダイイング・メッセージを残す。Wikipediaによると、こういうことだそうだ。北斗野は直感で感じた。この死海文書は、以前に切られた派遣社員のダイイング・メッセージだと。
ダイイング・メッセージには大概、プロジェクトの闇の部分が綴られている。コイツを見つけることで、プロジェクトがブラックかどうかの判別がつく。また、公式に明かされていない裏仕様などが記載されていることもある。北斗野のように補充要員として入ってくる人間にとって、前任者のダイイング・メッセージを見つけることは、プロジェクト内で生き残るための大きな手がかりになるのだ。
死海文書はサイトのリンクをバックアップしたと思われるフォルダにあった。リンクにはいろいろ役に立ちそうなサイトへのブックマークが保存されていたが、一つだけ、不自然なリンクがあった。マクロスFポータルサイトへのリンクだ。
マクロス、マクロス・・・・マクロ、マクロっす。そうか、こういうことなのか!北斗野の中で何かが繋がった。北斗野は死海文書に書かれたVBAを確認した。そこには前任者のダイイング・メッセージがコメントアウトで記されていたのだ。そこには前任者が探り当てた一つの真実が綴られていた。
前任者は、ドキュメントと検証データがが時系列で整理されていないことを指摘していた。常に最新のデータを確認できずにプロジェクトを進行したため、大きな勘違いが生じたとのことだ。不審に思った前任者は検証データを確認していく内に、サーバの反応速度が極度に落ちている事に気付いた。この事について亀井部長に調査を依頼したが断られたそうだ。そして、間もなくして、亀井部長から圧力がかかり退職を余儀なくされたとのことだ。
死海文書のメッセージを読んで、違和感が確信へと変わった。このプロジェクト、何か大きな勘違いをしている!まとめあげたデータと死海文書に隠されたメッセージを照らしあわせ、北斗野は真実にたどり着いた。確かに公式なドキュメントの解釈がおかしいのだ。
「謎がとけました。これを見てください!」
死海文書を見て、土岐さんとフドウ課長はハッとした。
「どういうことだ!」
しばらく三人は考え込んでいた。そして土岐さんが、何かを閃いたようにサーバ室に駆け込んだ。しばらくして、一台のネットワーク機器を手にオフィスに戻ってきた。
「原因はこいつじゃないのか?」
手に持たれていたのは10Mbpsのハブだ。
「そうだ。亀井部長の指示で行った、パフォーマンス・チェックで使用したハブが繋がったままで検証していたのか!」
フドウ課長の話によるとこうだ。元々システム自体が不安定で、たまに極度に速度が落ちる事があった。その原因調査のため、亀井部長の指示で10Mbpsのハブを使ったソフトウェアの検証を行ったが、結局原因は分らなかった。それどころか、さらにシステムが不安定になったそうだ。その原因が、検証の際に使用した10Mbpsのハブが繋ぎっぱなしにしになっていたためだった。そもそも、検証自体がなぜ10Mbpsのハブに繋ぎ変えるのか、全く意味不明だったらしい。
「結局、ドキュメントを適当に作成して情報が錯乱してたんだな・・・。北斗野、お前の書きなおしたドキュメントを見て事態が整理できた。」
フドウ課長は経緯の全てを把握した。つまり、亀井部長の理解力が追いつかなくなり、すっとんきょな指示が乱発され収集がつかなくなった。ということだ。状況を整理せずに検証作業を進めていたため、理論がとんでもない方向に反れていったのだ。
このままではプロジェクトは必ず破綻する。事態を重く見たフドウ課長と土岐さんは残って状況の整理をすることになった。そして、プロジェクトの緊急事態なので、出社して担当の作業を確認するようにとプロジェクトメンバーに連絡を回した。ただし、亀井部長には通達はされなかった。事態を理解しようとせずに暴走すると判断されたからだ。部長でありつつ、どれだけ信頼されていないのだろうか。この人は。
そして夕方を過ぎた頃から、プロジェクトのメンバーが集まり始めたのだった。
--続く--
コメント
BEL
おぉ、まさかの10Mハブネタw
Anubis
そう、実のところコレが書きたかった。