いろいろな仕事を渡り歩き、今はインフラ系エンジニアをやっている。いろんな業種からの視点も交えてコラムを綴らせていただきます。

無料の対価

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■タダとは本当に安いのだろうか

 “タダ”、“無料”“格安”というものが非常に好まれる。インターネットの動画サイトなどで1話無料」といったものもめずらしくない。それどころか、1話無料のコメント欄に「ふざけるな、全話無料にしろ!」というお怒りのコメントさえ書かれる。

 無料といっても、いろいろな無料がある。もう、商品にならないくらいの価値しかないので無料で提供する。知識や情報として、相手に与えても減らないので無料で提供する。商品のお試し版なので無料で提供する……などなど。

 いろんな無料はあるが、それぞれきちんとした理由や戦略がある。たまたま金でやり取りできないから無料、ということもある。

■金でやり取りできない無料

 金でやり取りできない無料。例えばこういうのがある。

それは、君の笑顔と真顔だ。

 ……おい、苦笑いしなかったかい? それは置いておいて考えて欲しい。いくら私が笑顔だろうと、真顔だろうと別に金はかからない。まぁ、営業スマイルというのもあるが、通常スマイル(生活中で発生するスマイル)は基本的に無料だ。

 笑顔とまでいかなくても、安らいだ表情でいる方が周りが明るくなる。人の話を聞く時も、きちんと真顔で聞いた方が誠実だ。とはいっても、心が伴って初めて出てくるものなので、無料といっても条件がそろって、初めて出せるものだ。ゆえに、無料とは言っても、大きな価値のあるものだと思う。

■自由という拘束具、無料という損失

 人は自由すぎると、心のおもむくままに安易な方向へ進み、欲望に翻弄される。無料でいろいろなものを手に入れ過ぎると、余計にもっと欲しくなる。そして同じように欲望に翻弄される。欲望に翻弄されれば物の価値が正確に分からなくなる。

 それを損失と考えるかどうかは、それぞれの価値観にゆだねる。世の中的にみれば、そういう無料がもてはやされて、少ないお金で多くを得ようとする人が増えた気がします。笑顔にしても誠実さにしても、やって当然で対価は無料という風潮さえある。世知辛いものだ。

■形と価値

 IT系やメディア系の業界は、こういう人の影響をモロに受けたように思う。

 売るものがデータなので形がない。きちんと思考力のある人でなければ、価値を見出して対価を支払おうとしない。欲望に翻弄された人に、形のないものの価値を正確に見出すことはできるのだろうか?

 無料という風潮で被った損失は、知性だったのかもしれない。

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