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【小説 パパはゲームプログラマー】第二十七話 姫のラブソング2

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「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 またこの絶叫だ。
 広場にいる皆が、一斉にこっちを向く。
 マリナさんがグランと一緒に出て来るのを見ると、ケンタは気が狂った様に城に向かって走り出すのが常だ。

「とりゃ!」

 そんな彼の首根っこに向かって、私は手刀を食らわせた。
 氷でコーティングしたカチカチの手刀を食らったケンタは、さっきの怒りはどこへやら、あっさりと気を失う。
 へばったケンタをソウニンと一緒に運んで宿屋まで連れて帰ることにした。

「ちょっと行ってくる」

 ソウニンは行き先も告げずに出て行った。
 私はあえて理由を訊かなかった。
 どうせマリクのところにでも行くのだろう。
 そんなことよりも私はケンタと二人きりになりたかったのだ。

 過去3回ともグランと対面することが出来た。
 だが、どの戦いも今一歩及ばなかった。
 やはり、ダニーを通してソウニンの心を読み取り、グランの弱点を知るというイベントを経る必要があるのだ。
 そのダニーが毎回、仲間にならない。(否、仲間にする方法はあるのだ。私達が見つけきれないだけで)
 グランの弱点が分かれば、この先の展開も変わってくるはずだ。
 きっと、ケンタが望むカンストメンバーが集まるかもしれない。
 要は、この世界も『ゲーム』と同じだ。
 何かをすればフラグが立ち、何かが変わる。
 私は7回の死に戻り経験で、似たような行動をするだけじゃ先が見えないことに気付いた。

 そして8回目。

「寝顔......」

 厳密に言うと、気を失ってるから寝顔ではない。
 ケンタはベッドで仰向けになっている。
 頬には涙の跡がカサカサになって貼りついている。
 彼は絶叫しながら泣いていた。
 そりゃそうだ。
 愛する人が、憎き復讐相手の腕の中にいるのだから。
 惚れ薬によるドーピングとはいえ......

 それにしても、可愛い唇。
 ケンタの薄い特徴の無い唇が、私の唇と触れ合いそうなくらい近くなる。
 彼とのキスは過去3回、死ぬ前に繰り返してるけど、それでも緊張する。

 ゴン!

「いたっ!」
「いたいっ!」

 覚醒したケンタが起き上がると同時に、私に頭突きを繰り出した。(故意じゃない)
 私の額にクリーンヒット。
 意外に石頭。
 お互いちょっとHPが減ったかもってくらいの痛さだ。

「なっ、なにしてるんですか!」
「なにって! 君が気を失ったから介抱してたのっ!」

 私は顔を真っ赤にして言い訳する。
 私が何をしようとしたか、ケンタはまるで気付いていない様子で周囲をキョロキョロ見回したかと思うと、

「あっ! マリナは!?」
「グランと結婚した」
「......やっぱり、夢じゃなかったんだ」
「そうね。人間の心は変わるものよ」

 私は、無意識に自分の口から飛び出した言葉に驚いた。
 いつもならここで、マリナとグランが惚れ薬を使った偽りの愛で結ばれていることを説明し、ケンタを安心させるのだけど。
 自分の卑怯さに、自己嫌悪に陥る。
 だけど、言葉は止まらなかった。

「君の知ってるマリナさんはこの世にはもういないんだよ」
「そんな。嘘です」
「もう諦めなよ。そして、私と一緒に暮らしましょう」

 私は子供の頃から負けず嫌いだった。
 3歳年上のジェス姉には特に負けたくなかった。
 私よりも綺麗な顔。(長いまつ毛の下にある黒い瞳は子猫の様な可愛さ)
 私よりも透明度の高い澄んだ声。(話す度に世界に色彩が付与されるような)
 私よりもスラリとした高貴な黒猫の様な身体。(一体、お前は何頭身じゃ!?)
 同じ遺伝子とは思えなかった。
 ジェス姉はもちろん勉強も、魔法も、私より出来た。
 お父様からジェス姉と比較されていることを、何となく感じていた私は努力した。
 だけど、相手はフルスペックの姉貴だ。
 勝てなかった。
 結果が全てのお城の中では、お父様は口には出さなかったけど、私よりジェス姉に期待していた。
 他国の王子をジェス姉に婿入りさせて、国を発展させようと考えてたんだろうなあ。
 だけど、ジェス姉は言い寄ってくる王子達には見向きもしなかった。
 カッコいいメルル王国の第一王子が100本の薔薇を持って来ても、心ここにあらずといった感じだった。
 彼女の目はいっつも窓の方を向いていた。
 城の外に広がる城下町。
 その先にあるスラム街の方を見ていた。
 彼女の心は頑なだった。
 だから、大人達の思惑通りにはならなかった。
 そして、魔王ハーデン騒ぎの中、どさくさに紛れて彼女は本当に好きな人と手を取り合って城を後にした。

「ジェス姉......」

 あの夜を今も覚えてる。
 私は寝室で寝間着に着替え、ベッドに入ろうとした。
 窓がコツコツ鳴っている。
 気になって窓のところに行くと、紙を口にくわえた鳥がいる。
 お父様のペット、ササミだ。
 窓を開け、口にくわえた紙を手に取る。

「私は好きな人と一緒に、幸せになります。ジェニも、私に負けない様に好きな人、みつけるんだよ。   ジェスより」

 下を見ると、手を取り合って城の中にある森に入ろうとしている二人の後姿が見えた。
 ジェス姉の隣に、暗くてハッキリ見えないけど粗末な服を着た髪の長い人がいる。
 この人が、ジェス姉の好きな人......

 私の内側から熱いものがこみ上げてくる。
 それが形となって、頬から顎の下を伝い、握り締めた手の甲にポタリと落ちる。

「あっ......」

 目からポロポロ零れ落ちるものをすくい取る。
 私は姉貴に負けたくなかった。
 いつも彼女の背中を追い掛けていた。
 追い抜けない悔しさは、彼女への憎しみもこもっていた。
 だけど、それは彼女に対する憧れと紙一重だった。
 そのことに気付くと同時にもう会えないと思うと、胸がチクリ、チクリと痛む。

 数か月後、ササミの便りで、ジェス姉が死んだことを知った。

 ジェス姉、私、見つけたよ、好きな人。

 姉貴に出来なかったこと。
 それは、好きな人と一生添い遂げること。
 私はそれを達成して、姉貴に勝つ。

 私はケンタと一緒に、グランの国の端っこにあるコンヤガヤマダという村に住むことにした。
 村の中でも特に人通りの少ない湖のほとりにあるログハウスを、持ち主から50000エンで購入した。

「わー、広くて素敵ね。あっ! 暖炉がある! あっ、お風呂は薪で沸かすんだ!」

 私は自分が住んでいたお城と比較して、その色々の違いに新鮮さを感じていた。

「ねっ、ケンタはどう?」
「んー、いいんじゃないですか」

 素っ気ない、反応。
 心ここにあらず、か。

 引き出しが5つある檜タンスに、収納付きのベッド。
 家の中をお気に入りの調度品で揃える。
 玄関には、水晶のドラゴンを倒した時にドロップされた水晶玉を飾る。

「どう? いい感じの部屋でしょ?」
「はぁ......」
「もうっ! いっつもぼんやりして! いい加減、マリナさんのことなんて忘れなさいよ!」

 ケンタはマリナという名前に反応し、一瞬だけ目を輝かせた。
 私は丸くなったケンタの背中をバシッと叩く。

「そればっかり!」

 激しい戦いが嘘だったかの様な平穏な日常を私達は過ごしていた。
 ケンタが湖で釣った魚を、私が近くの街まで売りに行く。
 この村の湖で採れる魚は、街では珍しいらしく高値で取引出来た。
 ま、それでも経費(釣り具と餌と交通費とか)を引くと、生活を維持していけるだけの収入くらいしか残らないけど、私はそれで満足だった。
 一国の姫だった私が、こんな粗末な生活で満足出来ているなんて、自分でも驚きだ。

「今日は、特に珍しい出目金魚が釣れました」

 ケンタの手には、目が飛び出した黒い魚があった。

「わぉ!」

 日に日に、ケンタの釣りの技術が上がっている。
 ギルドで彼のステータスを確認したら『釣りスキル』が加わっていた。
 意外な才能にびっくりだ。

「じゃ、ムニエルにする」

 私は鼻歌を歌いながら、キッチンに向かった。
 特殊な素材で作られたフライパンを戸棚から取り出し、火にかける。
 このフライパンで食材を焼くと、旨味がギューッと食材の中に凝縮されていつもより美味しく焼けるのだ。
 ただ、高価なのと耐久性が低いので、ここぞという食材に出会った時しか使わないようにしている。
 私はジュウジュウ湯気を立てて焼かれる魚に、魔法をかける様にこう囁く。

「美味しくなあれ。美味しくなあれ」

 香ばしい匂いが部屋中に広がる。
 毎日料理をすることで、私の料理スキルもだいぶ上がっただろう。
 ひょいと後ろを向くと、ケンタは食卓の前で黙って座って新聞を読んでいる。

 ばあやが言ってた。

「好きな人の胃袋をつかみなさい」

 ケンタ君、食して見なさい。
 これを食べたらきっと、あなたは私を好きになる。

「美味しいです」
「わぁ、嬉しい」

 醤油(街で売られていたしょっぱくて甘い調味料)をベースにしたタレをコーティングした出目金魚ムニエル。
 ケンタはいつも美味しいって言ってくれるけど、それはお世辞だって分かってる。
 でも、今日の美味しいは語尾が上がってた。
 美味しいものを食べると人は、自然と笑顔になる。
 だから、本当に美味しいと感じてくれたんだ。

「珈琲飲もうよ」
「いや、もう寝ます」

 食事が終わるとケンタは、スッと立ち上がり寝室へ向かう。
 この生活を始めてから一週間が経った。
 一緒にもっと話したい。
 ハッキリ言って、一緒に旅をしていた頃の方が話していた。
 彼の頭の中はまだマリナさんでいっぱいで、私なんか眼中に無いんだ。

「よし」

 私は拳を握り締めた。

つづく

Comment(4)

コメント

VBA使い

私は「7」回の死に戻り経験で、…そして「8」回目。


城の「中」にある森に
→どんだけデカい城なんだ


引き出しが5つある「の」檜タンスに


素っ気ない「。」反応。


ケンタ「の」手には、


ありゃ、やっぱりサオリの香りが…

桜子さんが一番

コンヤガヤマダw吹いたw

湯二

VBA使いさん。


コメント、校正ありがとうございます。


>私は「7」回の死に戻り経験で、…そして「8」回目。
類似見直ししてなくて、色々と回数間違ってました。。。


貴族何でメッチャでかい城に住んでます!

湯二

桜子さんが一番さん。


>コンヤガヤマダ
調べると今芸能事務所やってるらしいですよ。
「モチロンソウヨ」の板尾の嫁も好きですねー。

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