シンガポールでアジアのエンジニアと一緒にソフトウエア開発をして日々感じること、アジャイル開発、.NET、SaaS、 Cloud computing について書きます。

『スイカ』で行ける外国

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 タイトルのスイカは、果物(正確には野菜)のスイカではない。関東圏に住む人にはおなじみ、地下鉄を使うときに使えるカード、正式名称は「Suica」のことである。まことに便利なものだ。関西圏の人には「ICOCA」だろうか。

 シンガポールにももちろん、同等のものがある。全然しゃれっ気がない名称だが、EZ Link Card(イージー・リンク・カード)と言う。英語を外国語として学んで、それが共通語になっている国だ。英語のネイティブにしか分からないようなダジャレを名前にするのは、難しいのかもしれない。用途は日本と同じ、地下鉄の乗車券だ。その他、シンガポール中をきめ細かく走るバスにも使えるし、図書館の延滞料の精算などに幅広く使える。

 前から何回か書いているが、小生、今年はできたらシンガポールの大学院に進学したいと考えている。ほとんどの大学は8月から新学期。日本の感覚で「願書の提出期限までまだ時間がある」と思ってたのだが、大学の新聞広告が多くなってきていることに最近気付き、もしや? と思ったところ、どうやら願書の提出期間が今年の1月1日から始まっていたらしい。しかも、2月末が提出期限とある。

 ということで、慌てて書類集めに取り掛かることにした。シンガポールでは、少なくとも大学教育はすべて英語で行われる。そのため、英語がネイティブでない国の出身者全員に提出を要求されるのが、TOEFLの成績だ。小生、過去に一度もこの試験を受けたことがないので、急いでこれを受けなくてはならない。早速TOEFLのホームページでシンガポールで試験会場を検索。シンガポールのところを見ると“No Dates Currently Available”とある。世界有数の教育熱心な国に、TOEFLの試験施設がないわけがないとよく調べてみたところ、そういう風に表示される時は、試験会場がすでに予約でいっぱいになっているためらしい。「さて困った」

 大阪や東京を見ると、まだまだ空きがあるようなので、日本での試験も考えたが、試験のために高いフライト料を払って帰国するのもなんだと考えこんでいたところで、思い出したのが、シンガポールから橋を渡ったすぐ隣にある、マレーシアの第2の都市ジョホールバル。ジョホールバルのTOEFLの試験は空きがあるようで、早速予約。

 さて、それではどうやってジョホールバルに行くのか? シンガポールからクアラルンプールに行くときは高速バスで優雅に行くわけだが、橋を渡ったすぐ隣のジョホールバルに高速バスはないだろうと思った。インターネットで調べて分かったのが、シンガポールの町中を走る普通のバスに乗ってそのまま、ジョホールバルに行けるらしい。

 試験は朝の8時半で、8持には試験会場に到着していなければならない。できれば朝シンガポールの自宅を出て、試験会場に着ければよいなと思った。そんなことが可能なのか、休日に「実験」してみることにした。

 自宅を出たのが、朝の5時20分。この時間はすぐ近くのMRTの駅にやってくる始発の電車の時間に合わせた。5時32分に電車がやってきて、ジョホールバル行きのバスの止まるバス停がある、Marsilingの駅に向かう。Marsilingの駅を降りてすぐ下にバス停があり、そこでバスを待つ。バスの番号は950。普通の路線バスである。ここでは10分ぐらい待って、バスが到着。5分ぐらいでシンガポール側のチェックポイントの建物に到着。

 ここからは一応、海外旅行。階段を登った先にシンガポール側のパスポートコントロールがあった。赤い日本のパスポートとシンガポールのPRのカードを管理官に見せて、シンガポール出国手続き完了。出国手続きを終えて、階段を降りたところに同じ950のバスが待っていたので、それに飛び乗って、Causeway、つまりシンガポールとマレー半島をつなぐ橋を渡る。10分ぐらいで渡り終えて、今度はマレーシア側の入国管理の建物に到着。

 バスを降りて、今度はマレーシア側の入国管理。シンガポールでは、私は永住権保持者。半分シンガポール人みたいなものだが、マレーシアではれっきとした外国人。入国のカードの記入などの必要があり、入国管理の行列も結構長いもので時間がかかった。入国の目的などを聞かれて、「Sightseeing」と答えて、入国完了。入国手続きを終えて、階段を降りると950のバスはいない。私の入国手続きに時間が掛かりすぎて、置いてきぼりを食ったようだ。しかし、心配には及ばない。950のバスは、普通の路線バスなのだ。次のバスは10分ぐらい待てばやって来た。バスに乗って、マレーシア側のバスの最終終着ターミナルに到着。ここまで、家を出て1時間半ぐらいかかった。

 ここまでのバス代及び電車代だが、すべてシンガポールでの通勤に使っているEZ Link Cardを使えたので、一切シンガポールドルを使う必要がなかった。マレーシアの通貨のリンギも使っていない。バスの最終到着地から、目的地のTOEFLの試験場まではタクシーを使うしかなく、そこで初めてあらかじめ両替して入手していたリンギを使った。

 さて、自宅から試験会場までのドアーツードアーの時間だが2時間程度。5時半に出て、7時半に到着したわけだ。試験当日に自宅から試験会場に向かうことは可能だと分かった。しかし、実際の試験当日も同じ方法で行くべきか否かは、判断に迷うところだ。願わくば、もう1時間試験開始時間が遅ければ、確実にこの手で会場に向かえるが、30分しか余裕がない場合に国境を超えるのは、少しリスクが高すぎるかもしれない。

 普段使うようなカードだけで外国に行けてしまうほど、外国が身近なシンガポールに少し驚いたこともあり、こんなコラムを書いてみた。これが可能なのは、シンガポールとマレーシアが、地理的に近いと言うこともあるが、忘れてはならないのは、シンガポールの進んだITがあるからだと思う。

 というか、ITを使いこなすことができる高度な政治がシンガポールにあるからだろう。今はどうなっているのか知らないが、地下鉄で東京を移動するとき、東京メトロと都営地下鉄をまたぐ時は、途中でいったん降りて切符を買い直さなければならなかった。東京の現実と比較すると、その差に愕然とする。明らかなことだが、それはITの技術に差があるからではない。すべては、政治で決まる。

 その日は「実験」を終えて、ここに書いた道の逆をたどってシンガポールの自宅に戻ってきたのだが、シンガポール側の入国管理で最後にもう少し驚いたので、少し書く。

 シンガポールでの入国管理。前を見ると、大勢の人が並んでいる。1日「実験」をして疲れていてうんざりする。ふと横の列を見ると、空いている。しかし、前の電光掲示板を見ると、「Singaporean」と書いてある。「やれやれ、やはりこの長い行列を並ばなければならないのか」と落ち込む。しかし、もう一度空いている方の行列の掲示板をみると、「Singapore PR」とも書いている。「私は確かPRだ」ということで、空いている方に並んでみることにする。

 並んでいてすぐに気付いたのは、どこの国の入国にもつきものの、偉そうにと言うかうんざりしながら座って、パスポートをチェックする入国管理官の姿が列の前にいないことだ。そこは無人の入国手続きだった。自分の番になって、まず菊マーク付きパスポートの写真部分を機械に当てる。おそらく本人確認のためだと思うが、親指を機械に当てたところ、前に見える液晶パネルに「Welcome back Mr. Yasuo Yamamoto」。

 同時にゲートがオープン。マレーシアとシンガポールの国境という、最も通過人数が多い入国管理の省力化ということで導入されたのだと思うが、PR取得の時、少し抵抗を感じながら登録した私の指紋情報がこんなところで使われているわけで、少し感動した。

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