TOEFL
最近、日本のブログを見ていると、「有名な大企業に入社するためには、TOEICが××点以上でなければならない」とか、「韓国のサムスンでは新卒で900点、昇進には920点必要」とかなんとか、「TOEICはリーディングとリスニングだけだから、本当の意味の英語力を測るすべにはあまりならない」とか、いろいろと書いてある。
実際、私もその昔、会社の社内英語検定の一部としてついて来たTOEICを受けたことがある。日本企業の駐在員ではあったが、海外で仕事をすることを前提とする仕事に付いていた私は、確かにそれなりの良い点数を取れていた。多分、ここで書かれていた「英語ができない」レベル以上の点数は取れていた。
さて、私の英語力だが、どこまで英語を使って仕事ができるかというと、実はそれほどできるわけではない。日本の企業の駐在員として海外で仕事すると、仕事の時間の半分ぐらいは日本語での仕事で、英語は後のもう半分だけ。英語を使った会議で分からないことがあると、隣の日本人に聞ける。私の英語のレベルはこのような環境で取りあえず仕事ができるレベルでしかないと思う。
英語だけの職場環境。日本語が使えることがまったく有利にならない環境。しかも、仕事の内容がマネージャ的なもので、部下を英語を使って説得したり、仕事の内容を指示したり、揉めごとを仲裁したり、お客さんと交渉したりなどになってくると、私のレベルでは大変難しい。
そんな風に考えながら、前回のコラムでも書いたが、今回はTOEICではなくTOEFLを受けて来た。実は今、マレーシアのジョホールバルで試験を受けて、シンガポールの自宅に帰って来たばかりだ。はっきりいって、あまり芳しくはなかった。試験の結果を実際に聞いてしまうと、多分こんなコラム書く気にならないだろう。
さて、約2週間の試験の準備中にやった、市販のTOEFL準備本につく模擬テストや実際のテストを受けて感じたのは、やはり「TOEFLの難易度はTOEICと比較してレベルが違う」と言うことだ。
英語で講義を受け、英語で教科書を読み、英語で議論し、英語で友達とやりとりしていかなければならない留学生の英語力を測るのだ。当然といえば当然かもしれない。テストの内容だが、その第一の特徴はとにかく直接、英語の能力を測るということだ。
「直接」と書いたが、それはTOEFLが「能力の一部を確認することで、すべての能力を知ることができる」と言う考えから組み立てられたテストではない、ということだ。例えば、Writingの能力を測る術として、「この文書の文法の間違いを、4択から選択すべし」とか、「この文書の空いているところに入れるに最も正しいと思われる単語や語句を4択から選べ」というような種類の問題が、よく英語のテストにある。こういうものを、TOEFLの解説ではStructuredテストと言うらしい。英語の文章を構成力を、文法力や語彙力をチェックすることにより判断する方法だ。こういう種類のテストは、TOEFL CBTつまり“Computer Based Test”の時代には一部あった。しかし2005年から導入されたiBT(Internet Based Test)以降、一切廃止された。
ところで、私は学生時代も含めて、英語の試験のための勉強はあまりやった覚えはない。その理由の1つが、こういうStructureの設問が英語の能力の判定にほとんど役立たないと、思っていたからだ。
実際のTOEFLのテストだが、少々書いてみる。
まずReading。大学の教科書に書かれているような内容を3つ読んで、それをすべて、完ぺきに理解することを要求される。科学では生物学。科学では、なぜか生物学しかない。時々、天文学などもあるが、珍しいみたいだ。多分、これは語学のテスト故、理解するに数式や化学式の理解が要求される物理や化学は問題に使いにくいのだろう。
問題にはバンバンと専門用語が飛び出る。出題者も受験者がそういう専門用語を知っているということを試しているのではなく、知らない専門用語があっても、文意を理解する能力があることを測っているのだろう。科学でなければ、心理学や経済学、そして米国の大学入学応募者の英語力の審査のため、仕方がないのだろうが、米国の歴史なども出てくる。もちろん、別に米国の歴史に詳しくなくとも回答できるので、別に米国の歴史を勉強する必要はない。米国の音楽、文学なども出てくる。文書量は、普通の教科書1ページ分ぐらいの量で、それを1時間に3つ理解して、設問に回答することを要求される。普段から専門書レベルの英語をバリバリ読んでないと、回答はできないと思う。
欧米の知的エリートの教養は並大抵のものではない、とよく言われるが、こういうふうに自分の専門分野でない内容を文書を少々読むだけで、短時間で理解する能力をテストで測るということからも、うなずける話だ。
次にListening。これは大学の講義の一部をまるまる理解することを要求される。Readingの時と同じで、科学なら生物学。科学でなければ、心理学、経済学、米国の歴史などだ。だいたい6~7分程度の内容だ。きれいなアメリカ英語なので、分かりやすいといえば確かにそうだ。しかし、話されている内容は、本物の大学の講義である。自分の専門でない内容の講義を、英語で理解するのだ。これもかなりきつい。
次にSpeaking。これはiBTになって導入されたらしい。大きく分けて2種類ある。1つ目は、簡単な日常的な設問に対して英語で話すことだ。例えば「学校は生徒の学習内容を指導するべきですか、それとも生徒が自ら学習内容を選択するべきですか。1分で自分の考えを話してください」などだ。こういうのは、日本人でも英語が流暢な人なら、かなり高い得点を期待できるのかもしれない。しかし、2つ目が難問だ。教科書の一部と、それに関連した2~3分程度の大学の講義を聞いて、その内容の要約を1分程度で話さなければならない。自分の専門分野でない内容を一度だけ聞いて理解して、それを英語で流暢に要約することが要求される。実は、私はこれができなかった。どうしたらできるようになるのか? 悩ましいところだ。
最後にWriting。基本はSpeakingと同じで、簡単な設問に対して、300words程度で自分の意見を書くものと、教科書と大学の講義を聞いた後、その内容についての設問を200words 程度で書くものの2種類ある。
ここまで書いて分かってもらったと思うが、どれもこれも、本当に大学の講義についていくための必要な英語能力を直接測っているということだ。上でも書いたが、この直接ということが、キーだと思う。
ところで、TOEFLのiBTからSpeakingのテストが導入されたと書いたが、これなど「ITのおかげで、こんなことができるようになりました」の代表例だと思う。
iBTとその昔あったCBTの違いは、ComputerかInternetかの違い、「両方ともComputerを使ったテストで何が違うのか」ということだが、私が思うにiBTは、テストのSaaSと言えないだろうか。
多分、米国のどこかにテスト問題を配信するサーバがあるのだろう。全世界のテスト施設は配信されたテストを公正に実行することだけを担当し、テストの採点やテストそのものには一切タッチしていないだろう。そして採点だが、SpeakingやWritingの採点は人にしかできない。今のところ、コンピュータによる採点はいくらAI技術が進んだとしても、無理だろう。試験実施国によって採点基準に差があってはならない。そいういうことから考えると、これも世界のどこかで、全世界で行われるテストの採点が行われる場所があるのではないかと思う。米国の大学入学者への英語力試験なのだから、普通に考えれば米国のどこかと考えるが、もしかしたら、実はコストの安いインドのどこかで、行われているのかもしれない。ここらへんは私の勝手な憶測なので、忘れてほしい。
とにかく、小生は今回TOEFLを受けた。そしてその試験内容が実際に英語圏で仕事ができるか否かの判定に、かなりダイレクトにつながるということに気付いた。英語を使って仕事をするITエンジニアやビジネスマンが、英語を勉強するためのモティベーション維持のために、TOEFLを利用するのも悪くないかもしれない。
私が目指すは、英語だけの世界でマネージャとして仕事をして、英語がハンディキャップにならないレベルの英語力だ。引退するまでに身に付けることができるのか、そこら辺りは疑問だが、TOEFLがその努力のためのモティベーション維持のツールになるかもしれない。
TOEFLのテスト内容は、YouTubeで「TOEFL」と入れると山のようにサンプルテストが出てくるので。興味がある人は、一度試してみてはいかがだろうか。