筆者は1970年生まれ。先輩から、情報技術者を目指す若い方へ生きてゆくためのコラムです。

「させていただきます」の濫用

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 ここに、ある銀行のパンフレットがあります。読んでいくうちに、これは「致します」あるいは「いたします」に改めた方がいいんじゃないかと思える、慇懃無礼(いんぎんぶれい)な言葉が掲載されていました。

 「このたび、お客さまにより良いサービスを提供させていただくために、サービスの内容を改訂させていただきます。つきましては、改訂内容をご案内させていただきますので、ご確認くださいますようお願い申し上げます」

 何か、違和感を感じませんか。感じない? それならそれで結構なんですが。僕には、特に下線部が、違和感まみれの文章に読めます。

■昔でいう「~せしめる」に似ている

 この場合、「させていただきます」が3カ所。あまりにも「させていただく」が多いために、「俺たちは、おまえらに、わざわざ、してやってるんだ」という、そこはかとない慇懃無礼さがにじみ出ている文章ですね。昔でいう「~せしめる」といった感じですね。

 「此度、顧客により良き役務を提供せしめんが為、役務の内容を改訂せしめんと欲す。ついては、改訂内容を案内せしめるので、別紙御確認賜申候」……お侍さんか(苦笑)。

 ですが、ここはいっちょ、以下のように書き改めても支障はないと思います。

 「このたび、お客さまにより良いサービスをご提供するべく、サービスの内容を改訂いたします。つきましては、改訂内容をご案内いたしますので、ご確認くださいますようお願い申し上げます」……これでいいのではないかと。

 また、「読ませていただきました」は「拝読しました」でいいのではないかと思う僕は、「させていただきますアレルギー」なのかも知れませんね。

 大企業にいると、何か自分まで偉くなったようなカンチガイをするのか、「ソリューションをインプリメントする」的な発想に陥りがちです。この場合、単に「解決策を実装する」でいいのだと思います。

■日本語はできて当たり前だけど

 当たり前のように、普段から使用している日本語。ゆえに奥が深いものです。文章を書くときは、例えば、漢字に直しすぎない、平仮名だけの分かち書きはしない、一文につき約80字までで抑える(まるを付ける)。ダラダラと続けない。そして、「など」の接続詞で、文章を冗長にしない。社会に出て教わることは、何かと多いものです。

 無資格に無制限に使える日本語。それゆえに、自己規制をし、節度ある文章を綴りたいものです。レポート、プレゼンテーションなどの端々に、その人となりが表れてきます。僕の場合、一度黙読して、漢字の誤りを正し、今度は小声で音読してみて、句読点の打ち方、つまり音楽でいうところのブレス(息継ぎ)ができているかどうかを試してみるのです。これで、随分文章はブラッシュアップされてきます。

■とりあえず無難な言葉を、もっと推敲する

 とりあえず「させていただきます」を使っておけば無難、とりあえず難しめのハイライト語を使っておけば、技術的に斬新な気がする、と思ったら大きな間違いです。慇懃無礼な文章、難解な文章はあえて避けるべきです。

 われわれはそもそも日本人なのですから、日本人に分かりやすい文章を書くことは、1つのビジネススキルとして捉え、持っておいて損はないかと思います。

 というわけで、駅構内のアナウンスや、テレビ放送などで「~させていただきます」と見聞きすると、思わず「イラッ」とする僕なのでした。特に通販で「サービスさせていただきます」と聞くと、思わずテレビに向かって空手チョップを放ちたくなるものです。

 その文章、どこかおかしくないですか? 相手が読んで、難しくないですか? 趣旨は理解できてますか? このように、日本語を綴るということは、常に内省をしながら書き進めるものだと、僕は思います。

 (親戚に、お前ぼちぼち働けといわれたのですが……)

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