エンジニアとしてどうあればいいのか、企業の期待とどう折り合いをつけるのか、激しく変化する環境下で生き抜くための考え方

なりたいと思う姿を描けない限り、そうなれるわけがない

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 「自らのキャリアは自らでデザインしなければならない」

 このことに異存を唱える人はいないはずです。

 例えば上司と若手との会話を思い浮かべてみましょう。

 「きみは、現在プログラム設計は十分に経験を積んだので、来期はシステム設計ができるような仕事をアサインしよう。頑張ってくれ」

といった類の話です。この考えでいくと、コーディングの次はプログラム設計、その次はシステム設計でしょうか。これは、システム構築工程を遡っているに過ぎず、キャリアパスとは程遠い内容です。

 一方で、リーダーから主任、係長、課長という人事制度上の流れも、エンジニアのキャリアパスではありません。

 いざじっくり考えてみると、どうなりたいか具体的に浮かんでこず、身近に目標とするエンジニアがいないか探したりすることになります。若手の間はいいと思いますが、それなりに経験を積んでくるとそうもいかず、悩んではあきらめるということを繰り返してしまいます。

 筆者の場合がまさにそうです。

 著者は日本オラクルに11年勤務していました。日本オラクルは外資系企業ですが、その前は国内ITベンダにいました。さらにその前はユーザー企業のIT部門でシステム構築や運用の仕事をしてきました。

 メインフレームからオープンの流れの中で、コーディングから始め、プログラム設計、システム設計、DBA、PM、コンサルティング、マーケティング、サポートサービス、エデュケーション、PMOなど、さまざまな環境でさまざまな役割をこなしてきました。年を追うに従って部下を持つことになり、マネジメント系の仕事も入ってきました。

 その中でふと振り返ってみると、会社から言われたことをしているだけで、自分から進んでこの道に進みたいと思ったことは一度もありませんでした。若手の頃は、コンサルタントになりたいと思ったこともありましたが、コンサルタントとは何かを分かっているわけではありませんでした。

 しかし、やってきたことがキャリアパスとしてまったくつながっていないと思うようになり、いったい自分は何をしているのだろうと悩み続けました。

 初めから客が怒っている環境でスタートすることが多いサポートサービス。対応が悪い、能力が低いと批判され、エンジニアは本当に疲弊していました。

 エデュケーションの責任者になったときは、自分は第一線から外されたと本気で思い、辞めようとさえ考えました。

 営業に使いまわされるフィールドエンジニアは多くを掛け持ちし、かと言ってスキルも上がらず、自分の中途半端さに嫌気がさすのです。

 そのような環境で、若手の多くは入社して2、3年経つと社内の一通りを分かった気になり、もうやることがなくなったように感じたり、ここにいては成長できないのではないかと思うようになって、飛び出したくなってきます。

 また、仕事上で他社のエンジニアと接したりすると、余計にその気持ちが加速してしまう傾向があります。自分自身も何度か転職しているので、転職自体を悪いとは思っていませんが、転職した場合は必ず以前よりステップアップすべきだと考えています。

 そのような悩みを持った若者の相談によく乗りましたが、いつも引っかかったのは、過去を振り返ると自分自身がどうなりたいかよく分かっていなかったことです。先述のように、常に会社から与えられた仕事だけをこなしてきました。

 やりたくない仕事もありましたが、仕方ないと思ってあきらめたこともしばしばでした。

 実際にやってみると面白く達成感があったことも事実ですが、自分のやりたいことは何か、どうなりたいかは、自分の中ではっきりしていたわけではない、ということも確かです。それなのに若手から相談されて、自信を持って話せる訳はないと思っていたのです。

 何とかしたいという思いで、何度か社内で有志を集め、キャリアパスやスキルセットを明らかにするために、タスクチームを編成して、仕組み作りにチャレンジしたりしました。頑張って他部署の大勢を巻き込んで進めるのですが、絵に描いただけで仕事が忙しくなって終わってしまったり、せっかく実行に移そうとしても経営陣の「それは高橋が作ったものだろう。誰が担保するのか」「後は誰が維持管理するのか」といった関門を打ち破ることができず、終わってしまっていました。だから自分の中ではかなり長い間ストレスがあったわけです。

 しかし、その環境の中でも地道にミッションを遂行し、いやなこともこなし、エンジニアとして幅を広げていける人材は間違いなく存在します。年齢とは関係なく年上のこちらが部下になりたくなるような逸材もいます。

 そのような人材を何とか後押ししたいと考える管理職は多く、事実何年か後には必ず重要な仕事やポストに就いています。

 現在の局面局面で自分の置かれている状況を嘆いたり、何かと比べて文句を言っているだけの人は、ほとんど浮かび上がってきませんし、誰も引き上げようとはしないものです。

 誰もが逸材でも、でき上がった人間でもありませんが、「自分自身を知る、目標を明確に設定する」ということが重要だということは断言できます。そのためには、現時点の自分の強みはどこにあるか、何をゴールとし、そのために今何をしなければならないかを具体的にする必要があります。

 あまりエンジニアに人気のないITSSは、それらや自分自身の価値を可視化するための優れたツールです。

 自分の将来を自分で創るために、積極的に取り組むべきだと思います。

01

 ITSSの非常に効果的に考えられている特徴の1つに、自身の立ち位置やキャリアパスの見える化による、ゴールやキャリアデザインの具体化というメリットがあります。

 ITSSでは、単なるプログラミングやシステム設計というレベルではなく、ITスペシャリストやITアーキテクトという具体的な職種が定義されています。したがって、その中の特定の職種でレベル3から4へとレベルアップを図ることはもちろん、別の職種へキャリアチェンジしてレベルアップを目指すことも可能なのです。

02

 具体的なゴールを定め、そのためにこれから何をすべきかを明確にする。このような考え方をキャリアデザイン、そのたどる道筋をキャリアパスと言うなら納得できる方は多いはずです。

Comment(4)

コメント

佐々木

ITSSが現場で活用されない理由の一つに、
11の職種、35の専門分野が現場で理解されて
いないことが大きいと思っています。
経験の浅い若手はもちろん、指導する側も
実はよく理解できていません。

例えば、インテグレーションアーキテクチャの
ITアーキテクトLv.6は何をやっているのかとか、
何に頭を悩ませていて、何が楽しいのかとか、
どんな組織に所属していて、年収はいくらかとか、
そもそもどうやったらなれるのかとか。

ITSSを参照することで、誰かに憧れる気持ちが
ロールモデルとなり、キャリアゴールが具体化
していくのだろうと思います。

ITSSを参照しながら、若手に対して魅力的な
キャリアゴールの選択肢を見せる支援活動を
考え始めています。

高橋秀典

佐々木さん、

 コメントありがとうございます。コラムニストの高橋秀典です。

おっしゃる通りで、全体的にITSSに対する理解不足が目立ちます。
国がらみの政策の特徴ですが、プロモーションがうまくないということと、作る側と使う側の役割を決めて動いてしまうということがあります。

 前者は理解いただけると思いますが、我々のようなビジネスを生業とした者を参加させることによって、改善しようという姿勢はありますが、いい意味でも悪い意味でも「堅い」ので、組織としての柔軟性が課題です。

 後者は、ITSSを使うのは使う側の責任であって、作る側はそこには一切踏み込まないという、慣習というかルールというか暗黙の考えがあるようです。

 委員会などで事あるごととに、意見していましたのが功を奏してか、ようやく活用視点を考えるスタンスになってきました。
 IPAから3月31日に公表された「活用の手引き」と「導入実証実験報告書」がそのいい例です。前者は、私が執筆して、後者はコンサルテーションで入っています。IPAのサイトからダウンロードできますので、是非ご覧下さい。
 また、分かりやすい概説書を作ろうと、これも執筆が終わって最終レビューに入っています。

 これら一連のドキュメントは、今までの殻を打ち破った画期的な策だと、私は評価しています。

「表参道ヒルズの設計者」は、安藤忠雄として有名です。では「JRのMARSの設計者」は、というと誰も知りません。
 古い方は日立が担当したくらいはご存知でしょうが、あの複雑なシステムや発券機をデザインしたのに、出来上がったシステムだけ注目されて、デザインしたエンジニアは、有名ではありません。
 国も国民向けの仕組みのIT化をよく取り上げますが、出来上がった結果を言っているだけで、作り上げる人材に言及しません。これと同じでしょうか。

 これこそアーキテクトであり、多くのエンジニアが目指せるように、明確にしたいものです。
 かなり上だけではなくて、佐々木さんの言われるように、身近な目標も分かりやすくしていくことが重要ですね。

ありがとうございました。

組長

こんにちは。コラムニストの組長です。

最近、自分が進みたい方向性のようがものがボンヤリと見つかり、それを具現化している(と評判の)自社の社員もいることが分かりました。が、何だか自分の中で「これ!」と定めて突っ走れるような材料がなく、モヤモヤモヤモヤ・・・・・といった感じです。なので、「なりたいと思う姿を描けない限り、そうなれるわけがない」というタイトル、まさにその通りだと思ってドキっとしました。

「具体的なゴールを定め、そのためにこれから何をすべきかを明確にする。」

残念ながらもうあまり若くはありませんが、今更焦っても仕方ないので(笑)もうちょっともがこうと思います。

高橋秀典

組長さん、コメントありがとうございます。高橋です。

 コラムの文中にありましたように、私もどうなりたいか分からずに悩んだ口です。

 自分の目標を定めるというのは、たやすいことでは無いと思いますが、少なくとも知恵や経験を総動員して、正面から真剣に考えないといけないと思っています。

 昔はドキュメントやトレーニングも少なく、自分で経験してやっと理解したことが多かったですが、現在はe-Learningはじめ様々な手法やコンテンツなどが用意されています。
 ものすごく時間をかけて身につけたことが、現在は短期間で習得することができます。

 技術的に広がって全体を押さえるのは困難ですが、反面、出会うチャンスがないと何も分からなかったことも、疑似体験ができるようになってすごく開かれた環境にあると思います。

 何でも分かった気になるというマイナス面はあるものの、目的さえはっきりしておけば、とても便利にできています。

 そういう現代だからこそ余計に、真剣に自分の将来やキャリアについて考える必要があると思っています。

 かと言って、一度決めた目標でも、かたくなに守る必要はなく、理由があれば別に変えたっていいので、気楽に「今目指すもの」を捉えて行きたいですね。

 自分に言い聞かせているようなものです。失礼しました。

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