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自作サーバカンファレンスを楽天で開催しました

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楽天株式会社 開発部 よしおかひろたか

 (twitter @hyoshiok)

■はじめに

 こんにちは、楽天株式会社のよしおかひろたかです。このブログでは、楽天のエンジニアの持ち回りでいろいろなことを書いていきます。お題は自由ということなので、先日楽天で開催した自作サーバカンファレンスについて書くことにします。

■自作サーバカンファレンスとは

 自作サーバカンファレンスは、はてなの執行役員、田中慎司さんが主催者となって、2009年11月25日に楽天で開催されました(http://atnd.org/events/2052)。

 その趣旨を上記のサイトから引用すると

「ウェブサービスを動かすサーバを自作する」という行為は、過去様々な人がそれぞれの形で試してきました。自宅に自作PCを置いてサーバにしている、という方も珍しくはないと思います。しかし、自作したサーバを数十台、数百台の程度の規模で運用することは、すくなくともこれまでは、あまり一般的ではありませんでした。

今年に入り(一部の)ウェブサービス事業者の間で、自作サーバによって、サーバ環境を構築しようという機運が高まっています。

自作サーバの分かり易いメリットは、過剰な仕様を削ることによるコストダウンですが、ベンダ製サーバの価格低下や、クラウドサービスの充実により、以前ほどのメリットは薄れつつあるように感じられるかもしれません。しかし、まだまだ自作サーバの可能性は豊富にあり、近い将来に消滅するようなものではないと考えています。

今回の自作サーバカンファレンスでは、Cerevo、CyberAgent、Pixiv、チームラボ、はてなのそれぞれの自作サーバのメリット・デメリット、ノウハウなどなどをお話したいと思います。

 ウェブサービスのアーキテクチャは、(1)インテル系のサーバを、(2)スケールアウトするような構成で、(3)オープンソースを利用して、(4)自前で作ったサービスを提供する、というのが1つのパターンになっているかと思います。

 エンタープライズ系のソフトウェアの場合、システムインテグレーション会社へソフトウェア開発を発注して作ってもらうことが多いですが、ウェブ系の会社では基本的には自前でサービスを開発することになります。

 ソフトウェアの構成も、通常はLinuxなどを中心としてオープンソースソフトウェアを使います。その中で、サーバについてもベンダー製のものを使うのではなく自作したものを使うという流れが先進的なウェブサービス会社で行われているようです。

 Googleなども、サーバを自作しているといわれていますが、そこまで大規模ではなくても、最新鋭のハードウェアを低コストで利用できること以外にも様々なメリットがあるようです。

 今回の自作サーバカンファレンスでの印象に残ったことを記します。

 はてなの田中さんは、自作のよい点として、「安い早いうまい」「大胆にリスクを取ることができる」としています。必要十分な仕様で、不要な部品を削ることによるコストダウン。部品単位での調達・組み立てによるすばやい構築。独自のカスタマイズによる先進的な機能の追加などをあげています。

 はてなの吉田さん(id:marqs)は、はてなで運用している自作サーバの紹介でした。シャーシなども自作されているようでした。

 pixivの上薗さんのサーバはベニヤ板に載っていて5万円程度だそうです。オフィスにサーバをおいて、120台、社員20名で月々の電気代が31万円とのこと。

 サイバーエージェントはプレゼン最中にサーバを組み立てるというデモをされていました。10分くらいで構築できていました。通常のCore2Quadサーバだけではなく、Atomを利用したサーバの紹介もしていました。Atomのサーバは、アイドル時と負荷がかかったときの電流がそれぞれ、0.3-0.4A、0.4-0.5Aとあまり変わらないというところが特徴だということです。

 CEREVOの岩佐さんは、自作ラックの作り方をお話しました。グラインダーで鋼材をぶったぎったり、すごいです。省電力省スペースハイパワーというコンセプトで作られています。アイドル時の消費電力が17Wというのもすごいです。通常ですと、40~50Wというところかと思います。

 最後のチームラボの田村さんのお話は抱腹絶倒でした。サーバオフィス作っちゃいました。高価なデータセンタでの運用ではなく、通常のオフィスにサーバルームを構築し、その運用コストを圧縮しています。

 皆さんのお話は経験に基づく失敗談、成功談、ノウハウ、創意工夫などなどバラエティに富み大変面白かったです。何より素晴らしいのが、そのチャレンジ精神と、作業を心のそこから楽しんでいるという姿勢です。

 各社の事情はそれぞれですが、少しでも運用コストを下げようという動機の中で、できる限りの創意工夫をして、なんでもかんでもやってみる。ちょっと危なっかしいことや、クレージーなことも果敢にやってみる。

 ネクタイを締めた訳知りの大人には到底できないようなこと(様々な意味で)をいとも簡単に軽やかに実験して、時には失敗して、痛い目にあいながらも、それを改善して前に進む。そのスタイルがかっこいいです。

 ブレークスルーというのは、そのような試行錯誤によってしか生まれないのではないかとわたしは思ったりします。

■自作サーバカンファレンス開催の裏話

 自作サーバカンファレンス開催の裏話をちょっとお話したいと思います。

 わたしは、カーネル読書会という、Linuxカーネルやオープンソースにまつわる勉強会のようなものをこの10年やっています。9月に開催した第98回で、今回の主催者の田中さんに「はてなでのハード性能の引出し方」というお題でお話していただきました。そのとき、はてなでは自作サーバで運用しているのだというお話だけではなく、ゆくゆくは、自作サーバでウェブサービスを構築している人たちを集めてカンファレンスをしたい、ついては会場を探しているというお話を伺いました(下記の動画の21分ごろからが田中さんの発表です)。

 そこで、楽天でよければということで、カーネル読書会で利用している弊社の会場を提供することになりました。当初は50名で募集していたのですが、募集開始のアナウンスをする前から大変注目されていて、プログラムをまったく書き込んでいない、ATND(登録サイト)の予定地に10数名の方が、参加登録をして、参加募集のアナウンスをして1時間程度ですぐに満員になってしまいました。そこで、急遽定員を100名に増員しました。それでも、1日で満員になってしまいました。

 当日参加できない人向けに、ustream.tvでインターネット動画配信を行い、230名以上の方に観てもらえたようです。

 当日の運営は、楽天カーネル隊というボランティアスタッフにお願いしました。名前は大げさですが、カーネル読書会で、あれやこれやお手伝いをいただいているボランティアです。具体的にはustream.tvでインターネット動画中継をしたり、受付をしたり、エレベータから会場への誘導などを担当していただきました。

■なぜ自作サーバカンファレンスを楽天で開催したか

 ここ1~2年の勉強会ブームで、日本各地でいろいろな勉強会が開催されています。

 とはいうものの100名を超える大規模な勉強会はなかなか簡単に開催することはできません。主催者の悩みの1つは会場の確保といっても過言ではありません。

 10年間カーネル読書会を続けられていた秘密の1つは、自分の所属の会社(ミラクル・リナックス、楽天など)や多くの理解ある組織のご好意によって会場を提供していただいたからだと思っています。毎回毎回、会場を探して、予約するということが必要であったら1回や2回は開催できたとしても、何度も何度も開催することは、主催者の手間隙がかかりすぎて持続可能な運営をすることは難しくなります。

 わたし自身、今回の自作サーバカンファレンスが大変興味深くぜひ参加したいと思っていたので、会場提供を申し出ました。これはもちろん、個人的な興味だったからに他ならないのですが、社内での調整などについても最後にちょろっと触れておきます。

 今回のカンファレンスのような社外勉強会を社内へ誘致する場合、当然ながら会社の上層部の理解やサポートが必要です。そのために、会社にとってどのようなメリットがあるか十分理解を得て了承をあらかじめとっておく必要があります。これは別に楽天に限ったことではありません。どんな会社でも多かれ少なかれ同じだと思います。

 社外勉強会を社内で開催するメリットをいくつかあげると、

 (1)従業員に最新の技術情報を学ぶ機会を提供する

 (2)社外の優秀な技術者と交流する機会を提供する

 (3)上記を通じて従業員のモチベーション向上、社内活性化につながる

などがあります。一方で開催のコストやデメリットは、会場費用というのは、社外の会場を借りるのでなければ発生しませんし、人件費も、就業時間内で開催するのでなければ発生しません。

 コストに比べて上記のメリットの方がはるかに大きいので勉強会を行うことは企業にとっても利益があるといえます。このことを周りのひとや、上司にも理解してもらうことによって開催をします。

 楽天にはカーネル読書会の運営を手伝ってくれるボランティアが10数名いますので、今回もお手伝いをお願いしました。楽天カーネル隊といいます。勉強会を開催するたびに少しずつ増えてきています。

 勉強会を開催すると、社員同士も仕事とは別の繋がりができます。もちろん、仕事には直結しませんが、社内の活性化とか情報共有などで間接的に役立つことは多々あります。価値観を共有して、わいわいと勉強会を開催することは、何より楽しいことです。

 わたし自身興味のある勉強会であれば、楽天でいろいろ開催したいと思っています。

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