世界一を目指す楽天の技術部門から、旬な声をお届けします。

ニューヨークで取り組むグローバル化とローカル化

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米国リンクシェア/楽天株式会社 リンクシェア支援室 美谷広海

(Twitter: @hiroumi)

■はじめに

 こんにちは、米国リンクシェアの美谷広海です。楽天のグループ会社である米国リンクシェアに楽天から出向しています。リンクシェアはアフィリエイトサービスを提供している会社であり、日本ではリンクシェア・ジャパンが米国リンクシェアの技術を使ってアフィリエイトサービスを提供しています。わたしはこのリンクシェアで現在、開発部門のプロデューサーとして働いています。正式に赴任したのが2009年10月からですが、その前の半年間、出張でアメリカと日本を行き来していました。就労ビザ取得などの通過儀礼を経てようやく落ち着いてきたところです。

 今年は暖冬のようですが、ニューヨークの気温は氷点下が当たり前になってきました。朝は非常に冷え込みますが、その分晴れた日には空気が澄みわたって通勤時に見事な朝焼けを目にすることがあります。

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■リンクシェアの開発部は多国籍

 ニューヨークで働き、住んでいるとこの街が非常に東京に近いように思えてきます。高層ビルが立ち並び密度の高い市街地、数ブロックおきにコンビニ代わりの24時間営業のドラッグストア、張り巡らされた地下鉄、道路に溢れるタクシー。住む人と言葉は違えど、シリコンバレーやロサンゼルスよりも東京のほうがニューヨークによく似ていると感じさせられます。逆に言えば、東京と地方都市よりも東京とニューヨークのほうが共通点が多いかもしれません。距離はすごく遠くても、東京とニューヨークはとても近いものがあります。

 その中で大きな違いが、ニューヨークでは外国人やアメリカ以外の出身者が非常に多いということ。リンクシェアでも様々な出身地の人が働いており、特に開発部内は非常にその割合が高いです。インド、中国、フィリピン、ロシア、ウクライナ、韓国出身、それからハーフやクォーターのアメリカ人も数多く働いています。

■グローバル化とローカル化

 様々な国の人々が集まってきた時に、そこではお互い英語でコミュニケーションを取っていくことになります。でも英語だけでなく、その各国の言語のニーズも同時にあがっていきます。ニューヨークの地下鉄の券売機は、英語以外にスペイン語、中国語、韓国語、日本語など各国の言語で操作画面を表示できるようになっています。

 リンクシェアのアフィリエイトサービスも、現在、アメリカ、カナダ、イギリス、日本で提供していますが、同じ英語圏でもアメリカ、イギリスでは思った以上に違いがあったりします。例えばアメリカでは郵便番号はZip codeですが、イギリスではPostal code、アメリカで住所はaddressだけで十分ですが、イギリスではstreet addressが望ましいといった具合です。

 このようにグローバル化を推し進めようとすればするほど、逆にローカライズしていく必要性が増えていくことになります。しかしローカライズすればするほど、より複雑となっていくサービスはグローバルに展開していこうとした時の足枷となってしまうというジレンマも起きてきます。そこでグローバル化とローカル化を両方推進していくためには、常にシンプルさを保つことを意識していかなくてはいけません。

■より少ないことがより素晴らしい

 このシンプルさが大切であることをわたしは一冊の本から学びました。プログラミング言語のRubyを使ったウェブ・アプリケーションのフレームワークとしてRuby on Railsがあります。このRuby on Railsの産みの親であるDavid Heinemeier Hansson(DHH)他、彼が所属する37Signalsが出版したGetting Realとの出会いによってシンプルさを保つことの大切さを学びました。

 ふとしたきっかけでこのGetting Realの翻訳プロジェクトに参加したのですが、その中で紹介されていたアップルのCEO、Steve Jobsのエピソードがとても印象に残りました。

スティーヴ・ジョブスが何人かのインディペンデントレコードレーベルの人にiTunes Music Storeのちょっとしたプレゼンを行いました。その日の私のお気に入りの台詞は、彼らが手を上げて「それはxはできるの?」「あなたはyを追加する予定ですか?」と尋ねたときのことです。最後にジョブスは言いました、「待ってくれ、待ってくれ - 手を下ろしてくれ。いいかい。君たちがiTunesに入れることができる1000ものクールなアイディアがあるのは分かっている。もちろん僕たちもだ。でも、僕たちには1000のアイディアはいらない。 それはみっともないよ。イノベーションは全てのことに対してイエスと言うことじゃない。それは最も重大な機能を除いて、全てにノーと言うことだよ。

 このGetting Realの翻訳文は、Web上に無料公開されていますので、興味を持たれた方はぜひご覧になってみてください。

Getting Real

 この他に今年Getting Realとは別のDHH氏関連の著作を共同で翻訳させて頂きました。来年には何らかの形でご紹介できると思いますが、上記のGetting Real同様、ウェブサービスを考える上でのヒントが多く散りばめられており、楽しんで頂けるものになると思います。

 また最近このシンプルさを保つことの大切さを別の場所で再認識することができました。

 先月、ニューヨークでWeb2.0 Expoというイベントが開催されたのですが、その中で写真共有サービスFlickrの共同創業者であるCatarina Fakeさんがこんなことを話していました。

 Flickrはデザインをするお金がなかったこともあり,極力デザインの労力を最低限にする必要があったそうです。そのため機能は多彩でも極力シンブルなデザインに落ち着くことになったそうですがこれが結果としては良かった、と。より少ないことからより素晴らしいものが生まれる(less became more)、という彼女の言葉が強く印象に残りました。

■シンプルさを保ちながら多様性を増していけるWebサービス

 理想はシンプルさを保つこととはいえ、現実としては非常に厳しいものがあるのが実情です。その中でどのようにしてシンプルさを生み出していけるかに悪戦苦闘しています。シンプルさを実現してくれるもののひとつとして、ウェブサービスの提供があります。ウェブサービスを提供することで、そのサービスを使って実現できるより複雑で多彩なものは、外部の方の手によって実現することになるからです。

 リンクシェアでもこのウェブサービスの提供に力を入れており、ウェブサービスを利用したツールや、利用例などをBento Boxという自社サイトを通じて積極的に告知しています。このBento Boxは日本語でもリンクシェア・ジャパンで提供されており、ウェブサービスを使った様々な事例を知るのに役立つかと思います。

BentoBox
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 サービスをより進化させ、より広く展開していくために、複雑さを増すことなくいかにシンプルに保ちながら、多様性を増して行くか。そのことを常に意識しながら多様な人材の集まるこの場所で頑張っていきたいと考えています。日本のサービスをより広く海外に広げていくことに興味をお持ちのかたとtwitter上などでウェブの世界をより豊かなものにしていくためのきっかけとなるようなやりとりをしていければと思っています。

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