178.【小説】ブラ転22
初回:2021/9/8
ブラ転とは... 『ブラック企業で働く平社員が過労死したら、その会社の二代目に転生していた件』の略
1.情シス部門
私(二代目)は、サービスセンター巡りで判ったことがあった。事務所によっては光回線に対応していない箇所があったという事だった。今どき、そんな事になっているなんて全く予想していなかった。私は出張から戻った次の日に、情シス部門長との面談を予定してもらった。情シス部門は、技術部門と同じ建屋のフロア違いだったので、技術棟の会議室で会う約束を取り付けるつもりだったが、あいにくお互いの時間と会議室の空き時間が合わなく、仕方なく事務方のある事務棟の会議室を使うことにした。要するに私たちの秘書部のある建屋の一つ上の階にある会議室なので、情シス部門長に来ていただくことになった。
「今日、お越しいただいたのは、各サービスセンターをサテライトオフィース的に使えないかと思いまして。その前に各センターの回線状況・・・つまり光回線にするとか、VPNの導入するとか、リモートで在宅できるだけの容量やサーバーの準備など検討していただきたいと思いまして」
「以前の経営会議でも話題になりましたが、サービスセンターの回線増強は行わないと決まったと思いますけど...特に増強に反対されていたのは、二代目ご本人かと...」
なるほど。本物の二代目であるヒイラギアキオ専務なら、そういったかもしれない。でも、前回の経営会議って、すでに在宅勤務の必要性は十二分に分かっていたはずなのに、大丈夫か?この会社。
「それはそれとして、どうかな?」
「まず、光回線対応に関しては、サービスセンターの入っている雑居ビルとの契約に依存するので未対応になっていると聞いています。サテライトオフィースとしても検討されているというなら、今の雑居ビルのオーナーと新しく交渉しなおすより、事務所移転をご検討されたほうが良いと思います」
「事務所移転ねぇ」
「という事なら、我々情シス部門の出番ではありません」
「そういう事だね。じゃあ、リモートを受ける方のサーバー側は大丈夫かな」
「仕組みはありますから、後は同時にログインできる人数とかレスポンスとかの問題なので、予算さえ頂ければ対応できます」
「予算ねぇ」
「要するに、情シス部門長の私に、どうこう出来る問題じゃありません」
「そうだね。そのようだね。今日は時間を取らせてすまなかったね」
折角、事務棟まで来てもらったのに、短時間で打合せが終了した。二人そろって会議室を出ると、ちょうどヒイラギハルコ常務取締役が、廊下で別の部長との打ち合わせが終わって会議室から出てきたところだった。
「あら、何のお話?」
「ハルコ常務。本日は二代目とサービスセンターのインフラの件で少し...」
情シス部門長が答えた。総務や人事部などの事務系部門がハルコ常務の管轄で、技術部門は二代目...つまり私の管轄だったが、なぜか情シス部門はハルコ常務の管轄だった。人事配属される際も、理系の情報系出身者は、まず、事業部の技術部門に配属される。情シス部門には、経済学部や教育学部出身者が配属されるケースが多い。自然と文系採用時にも関わっているハルコ常務は、文系出身者が多い情シス部門が担当範囲になっていた。
「アキオさん。情シス部門長とお話される場合は、一言お声がけ下さると嬉しかったんですけど...」
丁寧な物言いだが、要するに自分の配下に直接口出しするなという警告だろう。
「いえ、ちょっとサービスセンターのインフラについて確認させていただいただけです」
サービスセンターは、私の管轄なので、そこについての問合せなら問題ないだろう。との思惑だったが、そういう事を言っているのではないことは理解していた。要するに何でもいいから、いちゃもんを付けたいだけだろう。
「ホントに簡単な確認だけだったんで...立ち話も何なので会議室で話をしただけですって」
「わざわざ、技術棟から事務棟まで呼び出しておいて?」
「いえ、たまたま、技術棟の会議室がいっぱいでして」
ハルコ常務は情シス部門長の方を見た。部門長は軽くうなづいただけだった。
「まあ、いいわ。彼も忙しい身だから、あまり引っ張りまわさないであげてね」
そういうと、先ほどまで打合せしていた会議室に、情シス部門長を手招きして呼び寄せた。私とどういう会話をしたのか、確認する為だろう。引っ張りまわしているのはどちらだ?と言いたくなったが、内容の重要度が違うとかなんとか言うのが目に見えていたので、そのまま秘書室の自分の席に戻ることにした。
======= <<つづく>>=======
登場人物 主人公:クスノキ将司(マサシ) ソフト系技術者として、有名企業に入社するも、超絶ブラックで 残業に次ぐ残業で、ついに過労死してしまう。そして... 婚約者:杉野さくら クスノキ将司の婚約者兼同僚で、OEM製品事業部に所属。 秘書部:山本ユウコ 二代目の秘書で、杉野さくらのプロジェクトに週2で参加している。 社史編纂室:早坂 妖精さん。昔は技術部に在籍していたシステムエンジニア。
社長兼会長:ヒイラギ冬彦
1代でこのヒイラギ電機株式会社を大きくした創業社長。ただし超ブラック
姉:ヒイラギハルコ
ヒイラギ電機常務取締役。兄に代わり経営を握りたいが、父親の社長からは
弟のサポートを依頼されている。もちろん気に入らない。
二代目(弟):ヒイラギアキオ
ヒイラギ電機専務取締役。父親の社長からも次期社長と期待されている。
実はクスノキ将司(マサシ)の生まれ変わりの姿だった。
ヒイラギ電機株式会社:
従業員数 1000名、売上 300億円規模のちょっとした有名企業
大手他社のOEMから、最近は自社商品を多く取り扱う様になった。
社長一代で築き上げた会社だが、超ブラックで売り上げを伸ばしてきた。
スピンオフ:CIA京都支店『妖精の杜』
ここはCIA京都支店のデバイス開発室。安らぎを求めて傷ついた戦士が立ち寄る憩いの場所、通称『妖精の杜』と呼ばれていた。
P子:CIA京都支店の優秀なスパイ。早坂さんにはなぜか毒を吐く。
早坂:デバイス開発室室長代理。みんなから『妖精さん』と呼ばれている。
P子:「先週、土日の『昨日のアクセスランキング』見た?」
早坂:「【釈迦に鉄砲】が1位に入ったり、【猫にこんばんは】が入ったり...」
P子:「平日はさすがに新着コラムが強いけど、新着が入らない時って変なのが入るわね」
早坂:「『実はオブジェクト指向ってしっくりこないんです!』って、割と定期的にランクインしてくるよね」
P子:「どこから流れてくるんだろうね」
早坂:「結構気に入ってるんだけどね」