今、話題の人工知能(AI)などで人気のPython。初心者に優しいとか言われていますが、全然優しくない! という事を、つらつら、愚痴っていきます

169.【小説】ブラ転17

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初回:2021/8/4

 ブラ転とは...
 『ブラック企業で働く平社員が過労死したら、その会社の二代目に転生していた件』の略

1.部課長廃止の件

 私(山本ユウコ)は、早坂さんのヒアリングが終わったので、秘書部に戻ろうかと思ったが、まだ二代目が部長につかまっているようだったので、しばらく待つことにした。
 私自身は、二代目の専属秘書なので技術部長の事はあまり知らない。昔は二代目とは気が合うみたいで、ゴルフだの接待だのに付き合っていたようだが、最近はそういう機会がめっぽう減っているようだった。特に、専属エージェント契約と部課長制度廃止を公表してからは明らかに関係が悪化しているように感じた。

 一通り部長との話が終わったようで、二代目と目が合った。とりあえず一緒に秘書部に戻ることになった。

「二代目、あの部長さんどうなるんですか?」

「本人次第なんだけどねぇ。新規事業ばかりやってもすぐに成果がでないから、既存事業をうまく取りまとめるだけでも、あの部長の居場所はあると思うんだけどなぁ」

(全くの思い付きで始めたわけじゃなかったんだ)

「今までは優秀な部下の働きだけで仕事してることになってたけど、自分できっちり管理することができれば、より少ない人数で今まで以上の成果が出せると思うんだ。それに、新規事業をやりたいという社員ばかりじゃなく、既存の仕事を全うしたい社員もいるだろうし、そういう社員とうまくできると期待してるんだけどねえ」

「所で、二代目。事業部統合したあと、本当に技術部長職なしでやっていけるんですか?」

「さあ、ね」

「さあねって、そんないい加減でこの会社大丈夫なんですか?」
(やっぱり単なる思い付きだけで始めたんだわ)

「私はね、各自の可能性に期待してるんだ。これは能力主義でも成果主義でもなく自由主義への挑戦でもあるんだ」

「自由主義って、自己責任ってことですか?」

「例えば君は、自己責任と言われて、新しい事にチャレンジできるかね」

「ん~私はスポーツでも個人種目が好きでしたので、常に自己責任で対処する方が気が楽ですね」

「君らしいね。でも僕はミスが許されない時って、弱気になったり守りに入ってしまうんだ。安心して攻めに出られない。だから上司の命令に従っていれば責任もないし、サラリーマンなら安定した給与がもらえるから無理はしなくてもよい。改善したいことがあっても、あえて無理して改善する必要もない。顧客満足に答えられることができても、あえてやらなくて良いと自分に言い聞かせて行わない...」

「上司って、社長さんの事ですか」

 二代目の今までの悪行?を見てきた私としては、誰かの命令に従うというより、好き勝手に行動していると思っていたので、まさか一般社員の気持ちが判るとは思わなかった。

「いや、一般論としてだよ。なので、自由主義といっても、無保証とか自己責任とかにすると、今まで以上にチャレンジできなくなると思ったので、安全ロープとして社内ベーシックインカムを採用したんだ」

「安全ロープがあって初めて、思い切ったことができるという事ですね」

「失敗を責める仕組みより、成功を褒める仕組みにしたかったという事だよ」

(なるほど、やっぱりちょっとは考えてたって訳ね)

「そう、さらに思い切ったことをするには、上司という概念も取っ払っておきたかったから、部課長制度も一回廃止してみようと思ったんだ」

「あら、一回廃止ってことは、復活も考えてるってことですか?」

「実際、全社員が自分のやりたいことがあるわけじゃないだろうし、今まで通り言われたことだけをやる生活も捨てがたいと思ってる人たちもいるだろうから、課長とか部長という役職の復活を望む声も出てくると思ってるんでね」

「ふーん。そうなんですね」

 私としては、二代目が思い付きだけで始めたのかと思っていたので、少し安心した。

2.専属エージェント契約

 私(山本ユウコ)と二代目は、秘書部に戻ってきた。本日の予定は別になかったので、メールと郵便物だけ確認してから、社史編纂室に行ってみようかと思っていた。

「山本さん。今日までで、何人ぐらいが専属エージェント契約の申請をしてきたか判りますか?」

 メールを見るためにPCを起動した矢先に、二代目が声をかけてきた。

「えっと...はい、すぐに確認いたします」

 Web申請予約システムが出来ていれば、このシステム経由で申し込みもできたのかもしれなかったが、なにぶんこのシステム自体が専属エージェント契約で作られたのだから、仕方がない。

 私は、人事部の共有フォルダに入り【専属エージェント申し込み】というフォルダ内の【申込受付.xlsx】ファイルを開いた。23人の部署と名前が記載されていた。私はその23名を部署別の円グラフを作成して印刷後に二代目に持って行った。

「現在、23名の申込者が居られます」

 二代目は印刷された紙を凝視した。そしておもむろに顔を上げた。

「EXCELのページの画像キャプチャをメールに添付してくれてもよかったんだけどね」

 二代目はそれなりに若かったが、何でも紙にして渡さないと見ない人だったのに、最近は変わってきたと思っていたのをすっかり忘れていた。

「あ、失礼しました」

「いや、いいんだよ。23名か...約2.3%ってことは、イノベーター理論に近い値だね」

 イノベーター理論というのは、市場における普及率を5つの層に分類しており

  ・イノベーター(革新者):2.5%
  ・アーリーアダプター(初期採用者):13.5%
  ・アーリーマジョリティ(前期追随者):34%
  ・レイトマジョリティ(後期追随者):34%
  ・ラガード(遅滞者):16%

 という正規分布を形成しているという理論で、広報部のマーケティング研修で聞いたことがある。ヒイラギ電機の社員数が約1000名なので、23名なら、イノベーター(革新者):2.5%に近い値だろう。この23名の中に、杉野さんと早坂さんが含まれている。私は週2回だけ参加しているので、専属エージェント契約にはしていない。

 二代目が再び、紙を凝視し始めたので、私は自分の机に戻っていった。

「これ、技術部からは、5名だけって...杉野さんと早坂さんも含めてだよね」

 二代目は、私が席に着くと同時に声をかけた。私は開いたままのEXCELに目を向けた。

 営業部:11 技術部:5 サービス:3 製造部:2 総務部:1 人事部:1

「技術部は、カタログ販売事業部の技術部の方が3名と、OEM製品事業部の杉野さんと他1名です。早坂さんは総務部という事になっています」

「ああ、彼は社史編纂室だったね。で、一番多いのが営業部か...ちょっと意外だね」

「営業部は、カタログ販売事業部の第二営業課長が専属エージェント契約していますね。えーと、他の10名も全員同じ課に所属しています。他の営業部門からは出ていません」

「サービス部門の3名というのは?」

 【申込受付.xlsx】には、23名分の申込時のプロフィールが書かれたシートも含まれていた。多分、申請資料をシートに順番に張り付けてから、最後に一覧表を作ったのだろう。

「こちらはバラバラですね。3名ともつながりはなさそうですが、一人サービスセンター長という事で、自社以外の製品サポートも行いたい...みたいな趣旨が書かれています」

「あとは...製造部の2名は、同じ部署で試作を専門的にやりたいという事と、人事の人は独自の研修カリキュラムを実行したいと書かれています」

 私は一通り二代目に伝えると【申込受付.xlsx】のファイルの場所を二代目にメールした。添付してもよかったが、日々最新情報が更新されるのは、人事部の共有フォルダに置いてあるこのファイルの方だったからだ。

「山本さんは、あっちの方は週2だったよね。じゃあ、残りの秘書業務の日に、この人たちにもヒアリングしてみたいんで、一緒に来てくれるかね」

「判りました。じゃあ、私の方でアポ取っておきます」

「よろしく頼むよ」

 今日はまだ、杉野さんのプロジェクトに割り当てた日だったので、杉野さんに連絡を取り、残り時間を日程調整に使わせてほしい趣旨を説明した。

「いいわよ、そんなの。ヒアリングの結果は教えてね」

 杉野さんに快諾頂けたので、順番に日程調整のための連絡を取ることにした。


======= <<つづく>>=======


 登場人物
 主人公:クスノキ将司(マサシ)
     ソフト系技術者として、有名企業に入社するも、超絶ブラックで
     残業に次ぐ残業で、ついに過労死してしまう。そして...
 婚約者:杉野さくら
     クスノキ将司の婚約者兼同僚で、OEM製品事業部に所属。
 秘書部:山本ユウコ
     二代目の秘書で、杉野さくらのプロジェクトに週2で参加している。
 社史編纂室:早坂
     妖精さん。昔は技術部に在籍していたシステムエンジニア。

 社長兼会長:ヒイラギ冬彦
    1代でこのヒイラギ電機株式会社を大きくした創業社長。ただし超ブラック
 姉:ヒイラギハルコ
    ヒイラギ電機常務取締役。兄に代わり経営を握りたいが、父親の社長からは
    弟のサポートを依頼されている。もちろん気に入らない。
 二代目(弟):ヒイラギアキオ
    ヒイラギ電機専務取締役。父親の社長からも次期社長と期待されている。
    実はクスノキ将司(マサシ)の生まれ変わりの姿だった。

 ヒイラギ電機株式会社:
    従業員数 1000名、売上 300億円規模のちょっとした有名企業
    大手他社のOEMから、最近は自社商品を多く取り扱う様になった。
    社長一代で築き上げた会社だが、超ブラックで売り上げを伸ばしてきた。



スピンオフ:CIA京都支店『妖精の杜』

 ここはCIA京都支店のデバイス開発室。安らぎを求めて傷ついた戦士が立ち寄る憩いの場所、通称『妖精の杜』と呼ばれていた。
 P子:CIA京都支店の優秀なスパイ。早坂さんにはなぜか毒を吐く。
 早坂:デバイス開発室室長代理。みんなから『妖精さん』と呼ばれている。

 P子:「二代目と技術部長が昔は仲が良かったとか、紙でしか見なかったとか...」
 早坂:「これって、二代目が転生してきたという伏線では」
 P子:「転生は最初からわかってるし...」
 早坂:「じゃあ、杉野さんの元婚約者を山本さんと取り合う...とか」
 P子:「そっちの方へは全然進展してなさそうだし...」
 早坂:「でも、金と権力を手に入れたんだから、杉野さんにコクればいいのに」
 P子:「立場というものがあるから、動けないのよ、きっと」
 早坂:「そんなことはないね。初めから乗り換えるつもりだったんだよ」
 P子:「あなたと一緒にしないであげて」

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