今、話題の人工知能(AI)などで人気のPython。初心者に優しいとか言われていますが、全然優しくない! という事を、つらつら、愚痴っていきます

168.【小説】ブラ転16

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初回:2021/7/28

 ブラ転とは...
 『ブラック企業で働く平社員が過労死したら、その会社の二代目に転生していた件』の略

1.ヒアリング その2

「監視カメラですか?そうですね、今取り扱ってる製品は、サーモグラフィーと顔識別でマスクの有無を判定する機能がセットされた入場チェックシステム用が主流ですね」

 技術部の後輩で、確か新人研修のときに会った...長瀬君だったか...が答えてくれた。

 私(早坂)が質問をしている間に、山本さんと杉野さんが来ていた。二代目はまだ部長につかまっているようだった。

「他の製品はある?」

「そうですね、数は少ないですけど、検査機器用の高解像度カメラくらいですかね」

「なかなか、よさそうじゃないか」

「ですが、画像処理ソフトの方が追い付いていないようで、目視の方が精度が高くって...」

「なるほどね」

「所で、監視カメラを何に使うんですか?」

 私と長瀬君との会話を聞いていた、別の技術者が声をかけてきた。

「いや、まだ何も使い道は考えていないんだ」

 私は次の質問を急いだ。別に急いでいたわけではないが、余り人と関わり合いになりたくなかった。

「次の質問。RFIDのデバイス制御の製品って、何かありますか?」

「ユーザー認証に使うんでしょうか?」

 先ほどの技術者が質問した。

「そうです。入退室管理で社員証にRFIDを使って、タイムカードの代わりに使えないかと...」

「事務所で?それとも、工場とかの現場で?」

「どうせなら、同じデバイスで対応したいと思います」

「んーカード型の社員証にRFIDを付けるのはいいと思いますけど、工場では首からかけるタイプやリール式は、機械への巻き込み防止のために使えないと思いますよ」

「ああ、そうなんですね」

 私は、そこまで考えていなかった。というか、まだシステムの構成も考えていなかった。しかし言われてみれば使用状況を考えておかないと、時間を無駄に使ってしまうかもしれない。とりあえず、聞いておきたいことは最後まで聞いておこう。

「あと最後に、サーボモータの制御技術について、聞きたいんですけど」

「ああ、過去に監視カメラを作った時に、遠隔操作できるようにサーボモータで台座を作って制御しましたよ」

 長瀬君の方は(そういえば、そんな製品もあったかな?)とつぶやいた。

「それで、部屋のドアの鍵なんかの制御が出来ると思いますか?」

「出来るでしょうね。でもそれなりのパワーが必要だから、電気回路設計はしっかり作らないといけないかも...」

「回路設計は、1課でしょ」

 杉野さんが横から割り込んできた。もし、本当にシステム化するなら、1課に依頼するかプロジェクトに参加してもらうか...

「所で、アプリケーションはどうするんですか?」

 先ほどの技術者が質問してきた。

「よく分かってないんだけど、やっぱりクラウドかなって」

「最近は、SPAが流行りだけど、入退室管理にクラウドが必要かどうかは、要件次第だと思いますよ」

「ありがとう。だいぶ理解できました」

「どういたしまして」

 長瀬君が答えた。(「お前途中から何も言ってねえじゃん」)(「タカさんの代わりにお礼言っといたんですよ」)

 2人で楽しそうに軽口を叩いているのを尻目に、私は社史編纂室に戻ることにした。杉野さんはそのまま技術部に残った。というかそこが自分の居場所だったからだ。山本さんは二代目のそばで待機していた。そういえば二代目も来ていたんだった。まだ部長に捕まっていた。

2.方針

 私(二代目)が技術部に着くと、すぐに技術部長に捕まってしまった。人事や組織に関する事なら、場所を変えましょうと提案したが、別に聞かれて困ることはないとその場で話をすることになってしまった。後から到着した早坂さんは、技術部員に早々とヒアリングを開始した様子だったが、こちらの話は終わりそうになかった。

「二代目、事業部統合の件ですが、技術部も統合するんですよね。誰がまとめるか決まってるんですか?」

「そのことは前にも言いましたが、部課長廃止なので誰がまとめるとかいうのではなく自然にリーダーが決まると思っています」

「そうは言いますが、若いもんに統合された技術部を引っ張っていけるだけの人材なんていませんよ」

「そう言い切れるんですか?例えばここの1課長なんて、人望ありますよ」

 1課長は自分の席で何人かの部下と談笑しているようだった。彼はまじめな性格なので、単なる雑談ではなく何か設計に関するアドバイスだと思われる。鬼軍曹という異名を持つのに、ああやって談笑する姿もよく見受けられた。1課の課員だけではなく、2課や3課の課員とも、きちんと会話をしている。また、営業部や本社事務系の総務、労務とも信頼関係を構築していた。かといって、ナアナアではなく言う事は言うし筋はきちんと通す。

「いやいや、まだまだ経験が足りんよ」

 まあ、彼が課長から部長補佐にすら昇進できていないのは、この部長が承認しないからで、そのことは1課長は知らなかった。

「まあ、会社が決めた人事じゃなく、自分たちがリーダーを決めるんですから、私に文句を言われてもどうしようもないですよ」

「でも、こういう制度にしたのは二代目でしょ」

「今更そこを言われてもねえ...ところで、ご自身はどうされるのか決められましたか?」

 部長は沈黙した。どうすべきか決めていれば、こんな話を私にしてこないだろう。部長はそれでも過去の実績やら会社への貢献などを色々と訴えた。すべて過去の話であって、これからのことは何一つなかった。

「今は移行期間として役職時の待遇と給与は保証されていますが、来期には本格的に部課長制度廃止になりますし、事業部統合ももっと進みますから、今のうちにどうするか決められた方が良いと思います」

 私はそう言って早坂さんたちのヒアリングに戻ろうとしたが、すでに彼らは引き揚げた後だったようだ。少し離れたところで、山本さんが私と部長の会話が終わるのを待っていてくれていた。

======= <<つづく>>=======


 登場人物
 主人公:クスノキ将司(マサシ)
     ソフト系技術者として、有名企業に入社するも、超絶ブラックで
     残業に次ぐ残業で、ついに過労死してしまう。そして...
 婚約者:杉野さくら
     クスノキ将司の婚約者兼同僚。
 秘書部:山本ユウコ
     二代目の秘書で、杉野さくらのプロジェクトに週一で参加している。
 社史編纂室:早坂
     妖精さん。昔は技術部に在籍していたシステムエンジニア。

 社長兼会長:ヒイラギ冬彦
    1代でこのヒイラギ電機株式会社を大きくした創業社長。ただし超ブラック
 姉:ヒイラギハルコ
    ヒイラギ電機常務取締役。兄に代わり経営を握りたいが、父親の社長からは
    弟のサポートを依頼されている。もちろん気に入らない。
 二代目(弟):ヒイラギアキオ
    ヒイラギ電機専務取締役。父親の社長からも次期社長と期待されている。
    実はクスノキ将司(マサシ)の生まれ変わりの姿だった。

 ヒイラギ電機株式会社:
    従業員数 1000名、売上 300億円規模のちょっとした有名企業
    大手他社のOEMから、最近は自社商品を多く取り扱う様になった。
    社長一代で築き上げた会社だが、超ブラックで売り上げを伸ばしてきた。


スピンオフ:CIA京都支店『妖精の杜』

 ここはCIA京都支店のデバイス開発室。安らぎを求めて傷ついた戦士が立ち寄る憩いの場所、通称『妖精の杜』と呼ばれていた。

 P子:CIA京都支店の優秀なスパイ。早坂さんにはなぜか毒を吐く。
 早坂:デバイス開発室室長代理。みんなから『妖精さん』と呼ばれている。

 P子:「ヒアリングはうまくいったのかな」
 早坂:「さあ、なにも成果がなかった...ってことはないだろね」
 P子:「それより部長さん、大丈夫かしら」
 早坂:「ダメだろうね。ただ、救うのか切り捨てるのか?」
 P子:「ブラックって言ってるくらいだから、切り捨てるんじゃない?」
 早坂:「いや、転生してきたんだから、ホワイトにするってことじゃないかな」
 P子:「オセロじゃないんだから、黒から白にすぐにひっくり返らないわよ」

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