今、話題の人工知能(AI)などで人気のPython。初心者に優しいとか言われていますが、全然優しくない! という事を、つらつら、愚痴っていきます

P34.新組織(2) [小説:CIA京都支店2]

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初回:2020/04/22

登場人物

これまでのあらすじ

 CIA京都支店のP子は、東京本店での長期間のシステム開発案件とスパイ任務が終わりCIA京都支店に戻って来ていた。一方、Mi7滋賀営業所では、浅倉南の知らない所で、矢沢所長と山村クレハが秘密の活動をしていたのだった。

1.矢沢新所長

 Mi7滋賀営業所では、矢沢営業部長が滋賀営業所長に昇進した。本社からの派遣組ではなく地方からの昇進組で初めての幹部候補生の誕生か?とうわさが広まっていたが、矢沢新所長は別の見方をしていた。つまり、滋賀営業所は本社から見捨てられ、営業所を閉鎖するのではないかと危惧していたのだった。

 この考えは、まだ誰にも言っていなかった。一番信頼できそうなのは浅倉南だったが、彼女が直接動くと他の社員に勘づかれる恐れがあった。そこで、山村クレハに調査を依頼することにしたのだった。

 「山村さん、ちょっといいかな」

 矢沢所長は、山村クレハを見つけると、所長室まで来るように促した。所長室といっても隣の会議室と間仕切りされた一角で、デスクと簡易な応接セットが置いてあるだけだった。会議も原則禁止だったので周りには誰も居なかった。

 「所長、何を始めるんですか?」

 クレハはキュートな笑顔を向けながら、ワクワク感を隠そうともせず所長に話しかけた。

 「この間は朝早くに出社をお願いしておいて、すまなかったね。先方が来るなと言うもんで」

 「今の時期は仕方ないですから」

 クレハは少し寂しそうな表情を作った。演技なのか本気なのか判らなかったが、本当に表情が良く動く。矢沢所長は、クレハのそういう所はスパイ向きだと感じていた。

 (「彼女が本気で騙そうとしたら、私でも騙されるだろうな」)矢沢所長は、浅倉南がクレハに対して、絶対的な信頼を寄せている理由がなんとなく判った気になっていた。

 「今、うちの収入源って知ってるかね」

 「ん~人材派遣の中抜きが3割で、Mi7からの諜報活動が6割ってとこですかね。直接依頼が1割も無かったような気がします」

 「いい線行ってるよ。所で、Mi7からの諜報活動がゼロになったらどうなると思う?」

 「そりゃ、大ごとですね」

 クレハは笑いながら答えた。しかし所長が真顔を崩さずにいたので、神妙な顔つきに変わった。

 「マジ...いや本当ですか?」

 所長は笑顔に戻った。「例えばの話だよ」とだけ答えた。

 (「ああ、南先輩が言ってたことは本当だったんだ」)

 クレハは周りのみんなが噂している事より、浅倉南が言ってた、Mi7滋賀営業所が閉鎖されるのではないかと言う話を信じていた。

 「で、私は何をすれば...」

 「例えばの話として、諜報活動の収入がゼロになった場合、どうすればよいと思う」

 「私に聞きます?」クレハは、またキュートな笑顔に戻った。

 「人材派遣の中抜きを増やすのは難しいでしょうね。乾いたぞうきんを絞るくらいの勢いで中抜きしてますから」

 「おいおい、人聞きが悪いな」

 クレハも所長も、笑顔になった。

 「直接依頼に関しては、小口をいっぱい集めても効率が悪いでしょうね。大口を数件確保するのがいいと思います。あ、それで先日市役所に行く予定を立ててたんですか?」

 「市役所は別件だよ。警察署の方に行こうと思ってたんだがね」

 「後は、企業コンサルとか言って、産業スパイって手もありますね」

 「うちは犯罪組織じゃないから、それはダメだね」

 「後は...」

 クレハはそう言いかけて止めた。

2.CIA京都支店長

 「すまないが、みんな集まってくれるかな」

 CIA京都支店長が、フロア中のメンバーに声をかけた。

 「知っての通り、お客様からも在宅勤務の依頼を受けて、ここをサテライトオフィース代わりに使ってる方もいると思います。派遣待機の方も事務の方も居られますが、明日から一部の人を除き在宅勤務に切り替えます」
 支店長は「何か質問は?」と問いかけたが質問者が居ない様だったので「以上」とだけ言って、支店長室代わりに使っている来客用会議室に戻っていった。

 「あ、川伊さんはちょっと来てくれるかな」

 川伊とはP子が使っている対外的な名前だ。支店長も大勢の社員がいる前では仮の名前で呼んでいた。

 「どうされたんですか?真面目な顔して話されるのって、何年ぶりです?」

 P子は会議室に入ると、軽口をたたいた。

 「聞いての通り、各社非常事態宣言で営業的にも大変でね」

 支店長は、さして大変そうな顔もせずに言った。

 「まあ、城島君のおかげで、在宅勤務向けのソリューションが大盛況で、当面は問題ないだろう」

 「じゃあ、ご用件は?」

 「Mi7滋賀営業所の新所長に、営業部長の矢沢さんが就任したのは知ってる?」

 「いえ、知りませんでした」

 「ダメだよ、そんな情報網じゃ。あちらには親友の浅倉なんとかって娘がいたでしょ」

 「親友じゃありませんよ。それで新所長さんと何の関係があるんでしょうか?」

 「知っての通り、各社非常事態宣言で営業的にも大変でね」

 「その話は聞きました」

 「で、ご多分に漏れず、Mi7滋賀営業所も大変でね。新所長就任も通常の手続きじゃないから、営業所を解散するんじゃないかって噂もあってね」

 「それは...それも知りませんでした」

 「ダメだね、そんな情報網じゃ。で、彼らも新規顧客の獲得を狙ってるんだ」

 「それって、Mi7から独立しようとしているってことですか?」

 「先の噂が本当ならね。だとすると、その新規顧客ってうちから見ても狙えるって事でしょ」

 「まさか、横取りするっていう事ですか?」

 「ピンポ~ン」

 P子はため息をついた。確かにMi7の新規顧客なら、CIAの顧客層と重なる。だが、それを横取りするという事はMi7滋賀営業所を潰すことになる。支店長からすれば、一石二鳥なのかもしれないが...。

 「私にはできま...」

 「まあ、そう焦らずに...」

 支店長は、ワザと落ち着いた素振りで席を立って、インスタントコーヒーを入れて、P子に渡した。

 「P子ちゃんがやらなくったって、誰かがやるんだよ」

 「でも私なら、ワザと失敗するかもしれませんよ」

 「ハハハ、君はそんなことしないよ」

 支店長はインスタントコーヒーを一口飲み、自分のディスクの引き出しを開けた。

 「柿ピーでも食べる?」

 「いえ、結構です」

 支店長は、出しかけたお菓子を引き出しにしまい、別の引き出しからおせんべいを取り出した。

 「おせんべいでも食べる?」

 「いえ、結構です。判りました。引き受けます」

 P子はそういうと、もう一度ため息をついた。

 この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありませんが、あなたの知らない世界でこのような事が起こっているかもしれません。

======= ≪つづく≫ =======

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