P24.黒と白(7) [小説:CIA京都支店]
初回:2019/10/23
黒井工業の社長と、白井産業の社長が裏取引してるという情報を元に、P子と城島丈太郎、そして浅倉南と山村紅葉(クレハ)が動き出した。白井産業へ侵入した、城島丈太郎と山村紅葉(クレハ)は、金庫の書類の撮影に成功したのだった。
16.成果の山分け
金庫の書類を写真に収めた丈太郎とクレハは、書類を金庫に元通りに戻してその場を立ち去った。敷地を後にしてクレハの後をついていくと、近くのパーキングにクレハの借りたレンタカーが止めてあった。
そのままクレハの運転する車に乗り込んだ丈太郎は、行先をクレハに任せた。(「深夜のラーメン屋なんて、幻滅した?」)とクレハが笑顔で話しかけてきた。何となく常にリードされている感じがしていたが、嫌な気分にはならなかった。
「深夜にラーメンを食べてる割には...」
「あれ~、セクハラ注意報発令よ」
丈太郎はマズいと思った。クレハといると、恋人と一緒にいるような錯覚に襲われて楽しく感じる。その昔、京都支店長(通称"M")が『好きが隙を作る』って言っていたことを思い出した。当時はただのオヤジギャグだと思って受け流していたが、今はその意味が良く分かる。
国道沿いのラーメンチェーン店の駐車場に止まった。トラックの運転手向けなのか、深夜の1時を回った頃なのにそれなりにお客さんが入っていた。二人は座敷席を選んで一番奥に陣取った。
「データ交換しましょ」
二人でラーメンを食べながら、データ交換を行った。丈太郎は夕食にサンドイッチとコーヒーだけだったので、から揚げラーメン定食を注文していたが、天津飯と餃子も追加した。
「私も餃子、いっちゃお~かな~」
クレハは恋人と一緒にいるような楽しげな態度をとっていた。本気か演技かは丈太郎には判らなかった。
「所で、例のケーブルはいつ回収するんですか?」
クレハが二人分の餃子のタレを作りながら丈太郎に問いかけた。一瞬、丈太郎の動きが止まったように見えたが聞こえていない振りをしていた。
クレハがスマホを操作して丈太郎に見せた。そこには丈太郎が社長のディスクの上に置いてあった充電ケーブルを交換している動画が映されていた。
「いつの間に...」
クレハは社長室に入ってまず社長のデスクが見渡せる場所に隠しカメラを仕込んでいた。そして、金庫を開けている間、隠しカメラの動作確認を兼ねて部屋の様子をスマホに表示していた。正確に言うと出入り口も見える場所にあったため、警戒もかねてスマホを脇に置いて作業していたが、そこに、丈太郎が不審な動きをしだしたので録画に切り替えたのだった。
丈太郎は観念した。
あれは、デバイス開発室室長のミスターQからもらった道具で『iPhone接続ケーブル』と同じ形状をしているが、ケーブル内部に仕込まれたワイヤレス機能を使ってiPhoneに遠隔からハッキングできる道具だった。(※1)
丈太郎は簡単に説明した。遠隔操作できる範囲が狭いので、1階ロビーの端に制御装置を置いてiPhoneの会話を録音する機能を用意しておき、数日後に制御装置のみ回収するつもりだった。
「所で、クレハさんが侵入した目的は何なんですか?」
「言う訳ないでしょ」
「それはないでしょ」
「うふふ」
クレハは丈太郎が予想通りの反応を示したのに満足した。丈太郎は、拘束されている間は『山村様』と呼ばないと返事もしてくれなかったので、試しに『クレハさん』と呼んでみたが普通に反応してくれたので、少し距離が縮んだ気がした。
「私は白井産業様にCIAのスパイが潜入しようとしているから、その阻止と目的を聞き出すという任務よ」
「それって、僕の邪魔をするってこと?」
「まあ、南先輩からは直接的な話は聞いてないけど、阻止するより侵入させて目的を探る方の比重が高いかな」
「もしかして、捕まったのも作戦の内?」
丈太郎はやられたと思った。どうりで監禁された時に、監視役もいなかったしあっさり脱出できたと思った。その後も警察が呼ばれた気配もなかった。
「じゃあ、この写真も無意味?」
「そんなこと無いわよ。それに捕まったのも監禁されたのもホントよ。警察が呼ばれなかったのは、私があの人達に警察に言う前に社長さんに知らせた方がいいわよって言っただけよ。あんな時間に社長さんに電話なんかできる訳ないでしょ。実際、時間稼ぎも出来たし」
クレハは餃子をタレに付けてパクっと頬張った。
「これ、値段を上げる代わりに、小さくなってない?」
丈太郎も、から揚げの大きさは気になっていたが、話題を元に戻した。
「それで、目的を聞き出すという任務は継続中?」
丈太郎がそういうと、意に介していないのか、クレハはおいしそうにラーメンを食べていた。丈太郎も何も言わずに、餃子と天津飯を交互に食べていた。
「そもそも丈太郎さんが侵入しているという事は、この会社か社長さんに何か秘密があるんでしょ。社長さんの携帯を盗み聞きするなら、社長さんがターゲットね。ねえ、その録音データももらえる?」
「良いけど、白井産業の社長さんって、Mi7の関係者ですよね。そんな事勝手にしても大丈夫?」
「さあ。あなたの目的が『社長さんの秘密を探る事』って結論で、南先輩が任務完了って言ってくれるとは思えないから...。どんな秘密なのかまで突き止めないといけないけど、その秘密をあなたに掴まれるとまずいでしょ。葛藤状態よ」
「なら、侵入自体を阻止すべきだったんじゃないの?」
「24時間監視するわけにもいかないでしょ。何度防いでも永遠に繰り返される。なら、侵入の目的を明確にする為に侵入させるって方法もありでしょ」
丈太郎は、カルイスチールのドライカーボン事件でP子が採用した作戦を思い出していた。
「本当はゆっくりミルクティーでも飲みながらお話したいけど、今日はお開きにしましょうか」
丈太郎は少し残念に感じたが、今日は別れることにした。もちろん、この店のメニューには、おしゃれなミルクティーはなかった。
「もう、終電もないんだけど...」
「あれ~、今度はセクハラ警報発令よ」
クレハは車まで戻ってハッチバックを開けると、電動キックボードを取り出して丈太郎に渡した。(※2)
「デバイス開発室の室長さんに返してくれればいいそうよ」
クレハはキュートな笑顔で運転席から手を振りながら、丈太郎と電動キックボードを残してラーメンチェーン店の駐車場を後にした。
17.社長の秘密
丈太郎が仕掛けた『iPhone接続ケーブル』は、1階ロビーの端に隠しておいたラズベリーパイ(※3)で制御可能だった。さらに嬉しいことに、クレハが仕掛けた隠しカメラの電波も拾うことが出来たので、社長がアクセスするパソコン画面の映像も見ることが出来た。その上、金庫の中身を撮影した写真もあり、情報としては色々あったが、結論を導き出すことが出来ていなかった。
「丈太郎君、どう?」
P子が話しかけてきた。丈太郎としては取っ掛かりでも掴めていれば良かったのだが、全く手掛かりがなかった。P子は写真をつらつらと眺めていた。
「この、社長さんのパソコンの動画、拡大できる?」
パソコンの動画とは、クレハが仕掛けた隠しカメラの映像で、動体検知で動きが有る時だけ録画していた。
「結構いいカメラなんで、大丈夫だと思いますよ」
丈太郎が、社長のパソコンの画面部分を大きくすると、メールの内容が何となく読めるレベルになった。P子が社長の読んでいるメールを一緒に読みながら、同時に金庫の写真を横目で眺めていた。そして、メールに視線を移すと(「香港...韓国...ネット...募集...3万...」)とつぶやいた、そして写真に写っている契約書なのか覚書なのかを見ながら(「ヨソノ...買戻し...引き渡し...」)とつぶやいた。
「P子先輩、これってもしかすると...」
「これだけじゃはっきり言えないし、メール内容と写真の契約書の関係性も不明だけど、仮定として可能性を探ってみる手はありね」
P子は丈太郎に笑顔で視線を注いだ。丈太郎は、最初は何のことか判らなかったが「え?」と気づいた。
「まさか...今晩も?...侵入?...今度見つかったら、本当にタダじゃすまないと思うんですけど...」
「今夜は社長室じゃなくって、ブツの隠し場所よ」
≪つづく≫
======= <<注釈>>=======
※1 iPhone接続ケーブル
https://forbesjapan.com/articles/detail/30081?cx_art=trending
テクノロジー 2019/10/08 16:30
史上最も危険な「iPhone接続ケーブル」が発売、悪用の懸
https://forbesjapan.com/articles/detail/29397
テクノロジー 2019/08/31 12:00
他人の充電ケーブルを借りてはいけない理由
※2 電動キックボード
https://autoc-one.jp/news/5005173/
公道を走れる電動キックボードが発売!
2019/09/09
https://diamond.jp/articles/-/218068
電動のキックボードやバイクを公道で!3社が規制緩和目指し実証実験
2019.10.19 5:27
※3 ラズベリーパイ
Raspberry Pi 4 が技適を通過しました...が、技適マークが印字される必要がある為、発売はまだの様です。
https://raspida.com/rpi4b-released-japan
ラズパイ4が技適を通過して総務省データベースに登録されました
2019.09.29 2019.10.04
https://mag.switch-science.com/2019/10/11/pi4-notyet/
Raspberry Pi 4最新情報
2019年10月11日 スイッチサイエンス