P19.黒と白(2) [小説:CIA京都支店]
初回:2019/08/14
CIA京都支店に相談に来ていた黒井工業の新田技術部長は、自社の社長と白井産業の社長が裏取引してるという情報を持ってきた。それを受けてP子と城島丈太郎が、派遣されることになった。その時、二人の目の前に現れたのは、P子のライバルであるMi7の浅倉南だった。
3.突然の来訪者(2)
「君、失礼...ジャマイカ」
京都支店長が、毅然とした態度...ではなく、笑顔で浅倉南を招き入れた。
「新田部長。この件はMi7に任せていただくことになっていたと思うんですけど」
「すみません。ただ、ちょっと...」
「ちょっとって、何です?」
いつになく厳しい口調の浅倉南を見て、丈太郎は新しい発見が出来たと喜んだ。とは言うものの浅倉南の声はいつも通り優しい響きだったので、脅し文句には聞こえなかった。
「ただ...黒井社長も白井社長も、Mi7の人間だからです」
「え?」
P子と丈太郎、そして浅倉南まで同時に聞き返した。ただ違ったのは、浅倉南は新田部長に向かって聞き返していたが、P子と丈太郎は京都支店長の方を見た。京都支店長はにこやかな笑顔で2人を見ていた。
(「このたぬきオヤジ、それも知ってたのか」)
P子は、京都支店長に向けて笑みを浮かべた。横で見ていた丈太郎は、この2人の暗黙のやり取りを見て(「どっちも食えない奴」)と思った。
浅倉南は気を取り直して、新田部長に質問を続けた。
「新田部長。2人がMi7の人間なら、逆に私たちに依頼して頂ければ、それなりに対処できたと思いませんか」
「それなりにしか対処しないつもりでしょ」
新田部長と浅倉南は、にらみ合ったまま黙り込んでしまった。
「まあ、新田ちゃんの話を聞こう...ジャマイカ」(※1)
なんとなく気まずい雰囲気を打破しようとしたのか、京都支店長が口を開いた。ただし、余計に気まずい雰囲気になったことに、本人は気づかないでいた。
「とりあえず、ひとつづつ説明して頂けませんか?」
P子が気まずい雰囲気を打破した。
4.裏取引
「黒井工業の黒井社長は、白井産業の白井社長と循環取引(※2)しているんです」
「2社間で?」
「いえ、黒井社長の奥様が経営されている会社を経由しての3社間です」
「それは本当?」
浅倉南が口を出した。黒井社長も白井社長もMi7の人間だが、普段は自分の商売をしており必要時に召集される。当然、招集された時のみ活動資金が支払われるので普段の収入は自助努力と言う事になる。
それに、Mi7もCIAもきれいな仕事ばかりしているわけではなかったので、多少の事は黙認するだろう。
「循環取引で得た利益をそれぞれの個人資産として着服しています」
それも、会社を私物化している悪徳社長には良くある話だ。脱税、資産隠し程度なら黙認するだろう。
「実は、フッ化水素酸を台湾経由で中国に横流ししようとしてるんです」(※3)
中国のサムスン西安とSKハイニックス無錫は、韓国から輸入したフッ化水素酸を大量に使用しているので、これが韓国から入手できないと大変なことになってしまう。
「あれ、台湾って、元々ホワイト国じゃないから韓国と同じレベルでしょ」
「なので、構想だけでぽしゃったそうです」
「ややこしい話を入れないでください」
浅倉南が優しい声ではあったが、厳しい口調で言った。
「それよりも恐ろしいことに、NHKの受信料を払わないって言ってるんです」(※4)
「それはダメでしょ」
丈太郎が答えた。おおざっぱそうに見えてきっちりしている丈太郎は、受信料を支払っていた。
「そういう話は、別の機会にお願いします」(※5)
P子以外の人達には、その意味が分からなかった。
「で、結局、何が言いたいんですか?」
浅倉南がしびれを切らしたように詰め寄った。
「...要するに証拠も、どんな悪事かも判らないんです」
新田部長は、弱ったなーという感じで答えた。
「だから、うちに調査して欲しいと頼みに来たんだよ」
京都支店長が、浅倉南を見た後で、P子と丈太郎に微笑んだ。
支店長が微笑むところ、災いが降り注ぐ...CIA京都支店に伝わる伝説だった。
5.派遣先
「と言う訳で、P子ちゃんは黒井工業さんで、丈太郎君は白井産業さんね」
京都支店長が、派遣先の割り振りを行った。
(「P子ちゃん?」)
浅倉南が不思議そうに呟いた。対外的には、"川伊"と名乗っているので初めて聞いたコードネームだった。
「じゃあ、私が黒井工業さんで、クレハを白井産業さんに行ってもらうわ」
「信用していいんでしょうか?」
新田部長が、浅倉南を横目で見ながら京都支店長に聞いた。
「いいん...ジャマイカ」
(「3回締めたろか」)
P子は心に固く誓ったのであった。
≪つづく≫
======= <<注釈>>=======
※1 天丼
https://dic.nicovideo.jp/a/%E5%A4%A9%E4%B8%BC
お笑い用語として天丼と言えば、同じギャグやボケを二度、三度と繰り返して笑いをとる手法のことを指す。余り間を置かずに畳み掛けるように使ったり、他者のボケに乗っかる形で重ねる場合は、かぶせ(る)と称することもある。
語源は、天丼には一般的に海老が二本載っていることから。
※2 循環取引
https://president.jp/articles/-/3630
ノルマ達成・売り上げ水増し。循環取引の罪は?
PRESIDENT 2009年8月3日号
※3 フッ化水素酸
http://agora-web.jp/archives/2040357.html
対韓国輸出管理:「横流し先は中国か」を統計から読み解く --- 五十嵐 哲也
2019年07月17日 06:01
※4 NHKの受信料
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/259660
放送法に"抜け穴"が NHK「受信料支払い拒否」世帯続出必至
公開日:2019/08/03 06:00 更新日:2019/08/03 06:00
https://www.news-postseven.com/archives/20190217_871306.html
NHK組織大改変で"反権力"職員72名が提出した反論意見書
2019.02.17 16:00 週刊ポスト
https://www.asahi.com/articles/ASM2Q5QZ0M2PUCVL030.html
NHK組織再編で波紋 「政権への忖度ない」異例の反論
鈴木友里子、湊彬子、河村能宏 2019年2月22日21時35分
https://www.sankei.com/entertainments/news/190531/ent1905310015-n1.html
NHK、制作部門など組織改編
2019.5.31 19:37エンタメ
https://news.infoseek.co.jp/article/harborbusinessonline_20190806_00197290/
森友学園報道のスクープ報道で安倍政権に忖度!? NHKを退職した記者が語る「報道の危機」
HARBOR BUSINESS Online / 2019年8月6日 8時32分
※5 別の機会
Python なんて、大っ嫌い!
https://el.jibun.atmarkit.co.jp/pythonlove/