夜の翼 (13) 現世利益
事情を聞いた佐藤管理官は、余計なことを何も言わず、シュンの回収にセクションD 全員の出動を了承した。ただし、無条件に要望がかなえられたわけではない。できればソード・フォース一個小隊か、警備二課の数チーム程度で出動し、セクションD の脱走兵たちを速やかに回収したかったのだが、佐藤管理官は拒否した。敵のシナリオに沿って動くほど愚かな戦術はない、というのがその理由だ。
私が物理的な戦力の同行を希望したのは、シュンに届いた例の脅迫メールが、間近に迫ったグール大量発生に関連していると仮定したからだ。総合分析管理室と警備部もその可能性が高いと認めたのだが、それならなおのこと、ソード・フォースを動員することはできない、と佐藤管理官は言った。
「シュンくんがメールに反応した時点で」佐藤管理官は説明した。「我々は、敵が用意した舞台とシナリオで動くことを余儀なくされています。すでにサクラギ8A は綿密な配置計画が立案され、シミュレーションされ、関東地方のソード・フォース部隊のほとんどが移動中です。シュンくんの回収に人員を割けば、それらの兵站に穴が空き、グールによる攻撃に対処することができなくなる。それこそが、敵の狙いなのかもしれません。もっとも......」
そう考えさせておいて、シュンを手に入れることが目的なのかもしれない、と佐藤管理官は付け加えた。
「どっちなんですか」
「わかるわけがないです」画面の向こうで、佐藤管理官は誰かが差し出したタブレットに目を走らせながら言った。「敵の心理の裏の裏を読んでいけば、なんだってありえます」
「犯罪心理学者を雇用しておくべきでしたね」
私が皮肉混じりに言うと、佐藤管理官は微笑んだ。
「チェスの天才ボビー・フィッシャーは、心理学など信じていない、信じているのは良い手だけだ、と言っています。この場合、良い手とは、敵のシナリオから大きく逸脱することです。銃器を持った大勢の大人が救援に駆けつける、というのは、敵が想定するシチュエーションの中でも上位に該当するはずです。逆に子供たちだけで行く、というのは、おそらく想像していないでしょう」
だが、物理的な危険を無視することはできない。佐藤管理官は、24 時間のガード対象をロストする、という失態を犯したシュンの警護チームの同行を認めた。給料分の仕事はしてもらわなければならない。
というわけで、私とサチ、カズトとマイカは、施設管理課が用意した軽ハイトワゴンで横浜ディレクトレートを出発した。見た目は市販の軽ワゴンだが、防弾処理が施され、各種データ通信装備を完備している。警護チームは、2 台のワゴン車で別ルートから先行し、中学校周辺の状況を確認しておくことになっている。
朝から蒸し暑い日だったが、空には雲が多く、8 月の強烈な日差しを多少なりとも和らげてくれていた。サチの運転で港南台にある中学校へ向かいながら、私は本部から転送されてきた苅田タケトに関する情報を読んだ。前回、記憶オーバーライト処理を施した際、ナラティヴの整合性を保つために調査された資料だ。
タケトの父親は、都内に本社を持つ大手SIer の横浜支社にシステムエンジニアとして勤務していて、同じ会社で知り合った女性と結婚した。経済状態は良好な家庭で、一人息子であるタケトは、欲しいものはだいたい買い与えられて育った。典型的な不良少年に見えたが、意外なことに小学校時代は優秀な成績で、恵まれた体格を活かしてスポーツでも活躍している。父親の会社が日本でも有数のIT 企業であることを自慢していて、試験的に開始されていたプログラミング学習でもクラスでトップの理解度を示していたそうだ。
中学校でも「技術・家庭」の「技術分野」としてプログラミングの授業がある。教科書を見たことがあるが、COBOL やFORTRAN がプログラミング言語の例として使われていて、21 世紀にこの内容を教えられる生徒と教える教師の両方に同情したものだ。ともかく、苅田タケトは中学でも技術の授業を楽しみにしていたようだ。実際、事前の父親のサポートもあり、タケトは中学のプログラミング授業でもトップの成績を誇っていた。
ところが、その年の冬、シュンがU-18 原石発掘プログラミング大会でグランプリを獲得した、というニュースが学校に飛び込んできた。それまでタケトが君臨していた「学校で一番プログラムに強い子」の座が、一夜にしてシュンに奪い取られることになったのだ。同じ学年であっても「親がいない奴」ぐらいの認識でしかなかったシュンは、タケトにとってたちまち憎悪の対象に変わった。
教師たちのシュンを見る目も一変した。それまで模範解答として取り上げていたタケトのコードより、シュンのコードを採用して、誉めそやすようになった。中には授業の進め方をシュンに相談する教師もいた。そのことも、タケトの負の感情を増幅することになったようだ。
「バカにするわけじゃないが」私はタブレットを見ながら言った。「中学校の授業で行われるプログラミングで、そこまで個人差が出るとは思えないな。たぶん、公平に比較すれば、シュンとタケトの差は微々たるものだったんじゃないのかね」
「そうでしょうね」サチは同意した。「でもタケトくんにとっては、学校で一番のプログラマという地位は魅力的なものだったんですよ。加えて、親からのプレッシャーもあったでしょうし」
シュンが自慢げに振る舞っていれば、また別の結果になったかもしれない。だが、シュンは「学校の授業なんかたいしたことはない」という態度だったため、タケトはさらに憎悪を膨れあがらせることになった。
やがてタケトはモノで優位性を誇示しようと、親にねだって最新型のスマートフォンやゲーム機、ワイヤレスヘッドフォンやスマートウォッチなどを買ってもらい、学校で見せびらかすようになった。だがシュンは技術書ばかり読んでいて、一向に羨望を見せようともしなかった。
「それでシュンをイジメの対象にするようになったわけか」
「くっだらねえ」後部座席でゲームをしていたカズトが、軽蔑したように吐き捨てた。「だから学校なんか行くもんじゃないんだよ」
「わたしは学校楽しいよ」マイカが反論した。「足が悪くても、みんな優しくしてくれるし」
「ふーん。そりゃよかったな。オレはそうじゃなかったからよ。同級生も教師もクズばっかでさ。オレがハブられたり、教科書にコーヒー牛乳かけられたりしてんのわかってるくせに、クソ教師の奴、笑って見てやがった」
「あー、その、ごめんね」元教師のサチは必要もないのに、バックミラーに向かって謝った。「教師がみんながみんな、そんなのじゃないと思うんだけど......確かに、そういう事なかれ主義的な空気もなくはなくて......」
マイカに肘でつつかれ、カズトは気まずそうな顔になった。
「サチさんが悪いんじゃないけどさ。ま、シュンの奴も自業自得なんじゃねえの? そんなアホとは適当に付き合っときゃよかったんだ。空気読めってんだよ」
「あー、カズトくん、ジェラってるんだ」マイカが笑った。「最近、リンちゃんとシュンくんが仲良いから」
「へー、そうなの?」サチが興味深そうに訊いた。
「おいおい」カズトは乾いた笑いで応じた。「なに勘違いしてんだよ。マセたこと言ってんじゃねえよ。だいたいリンを好きなのはハルのやつじゃんか」
「そうなのか?」「そうなの?」
私とサチが同時に訊き、カズトとマイカはクスクス笑った。
「見てればわかるじゃん」
「バレバレだよ」
「声違うもんね」
「で、リンちゃんの方はどうなの?」サチは真剣な顔で訊いてから、私の方を向いた。「別に興味本位で訊いてるわけじゃないですよ。PO のメンタル面のサポートとして......」
「リンちゃんはですねえ」マイカがニヤニヤしながら答えた。「たぶん、薄々気付いてると思いますよ。でも、そういう対象とは見てないんじゃないかなあ」
「リンもずるいところがあってさ」カズトが補足した。「反省会なんかで自分の意見ってか主張? を通したいとき、ハルを味方にして利用したりするんだよなあ」
「シュンくんを好きとかでもないんですよね。スキルは尊敬してるみたいだけど」
「たまにイライラした顔してるしな」
「ふーん」サチはバックミラーを見た。「シュンくんの方はどうなのかな」
「あいつの考えてることはよくわからないけどさ」カズトがスマートフォンに目を戻した。「ナナミさんがいるから」
私とサチは視線を交わした。ハルも気の毒に、とは思ったが、もちろん私やサチが口を出すような問題ではない。ただ、同じ組織の中での恋愛関係は、うまくいっているうちはいいが、ダメになったときに仕事に影響が出やすい。一般企業と違い、ATP では異動や転勤が頻繁にあるわけではないし、PO 課はペアプロが基本だ。顔を合わせると気まずいから、ペアを組みたくない、というわがままが通るはずもない。
プログラミングを学ぶ者は、早い段階で変数という存在を知る。今も昔も「箱」という概念で説明されることが多い。セクションD にシュンという変数が挿入されて二週間弱。PO に与えた影響は小さいものではなかったようだ。
不意にサチが、小さく叫んで、ウィンカーを出しざまハンドルを切った。軽ワゴンはタイヤをきしらせながら左車線に移動し、その右側を黒い大型のSUV が追い抜いていった。
「ごめんなさい」サチはウィンカーを戻した。「さっきから煽られてたんだけど、急に近付いてきたから......あ」
サチがブレーキを踏んだ。追い抜いたSUV が、ウィンカーも出さずに左車線に割り込んできたのだ。近頃、社会問題になりつつある煽り運転か、と思ったとき、右車線に似たようなSUV が並んだ。そのまま追い抜いていかず、こちらとスピードを同期させ横を併走している。
「え、なに?」サチは前方と右を交互に見た。「私の運転、どこかまずかった......きゃあ!」
サチが悲鳴を上げた。前方のSUV のブレーキランプが禍々しく点滅したためだ。点灯、ではなく点滅だ。意図的に小刻みなブレーキングを行っている。同時に右側のSUV も接触すれすれまで幅寄せしてきた。
私は後部モニタを見た。予想した通り3 台目のSUV がぴったり付けている。サチは必死になって左に回避場所を探したが、ずっとガードレールが続いている。
「チーフ」マイカが怯えた声を上げた。「どうなってるの」
「心配するな」私は根拠のない答えを返した。「駒木根さん、次の交差点で左折だ。多少、ぶつけても構わない」
「わかり......わっ!」
前方のSUV がスピードを徐々に落としていた。こちらも合わせてスピードダウンするしかない。スピード表示は時速30km/h から28km/h、23km/h、20km/h と急激に数字を減らしていく。右と後方のSUV も同調して囲みを解かない。
これはまずい。私はスマートフォンを出し、警護チームを呼び出そうとしたが接続できなかった。データ通信のアイコンに×印が表示されている。横浜ディレクトレートの共通オペレーションセンターにも繋がらない。ATP から支給されるスマートフォンは、キャリア回線の他、主要都市部各所に点在している専用アクセスポイントでも通信できるが、そちらにも接続できない。強力なジャミングが展開されているようだ。
「チーフ」カズトが自分のスマートフォンを見ながら狼狽した声を出した。「圏外になってる」
「わたしのも」マイカも言った。「もしかして敵?」
気が付くと、走行速度は時速10 キロ前後にまで落ちていた。こうなると悪意がないと考える方が不自然だ。
「カズトくん」マイカが周囲を走るSUV を見回しながら、震える声で言った。「システムへの侵入は得意なんでしょ? そこの車載ICT システムに侵入してエンジン停止とかできないの? 端末はそこにあるよ」
「アホか」カズトは忌々しげにノートPC を叩いた。「この端末はオペレーション用じゃんか。だいたい、どこにも接続できないのに、どうやって侵入するんだよ。お前が向こうの車に飛び乗って、LAN ケーブルつないでくれるのかよ」
「......そっか、ごめん」
前方のSUV がウィンカーを出し、さらにスピードを落とした。カーナビの表示によれば、30 メートル前方に左に入る細い道がある。そこに曲がれ、と言っているのだろう。
「どうします?」やや落ち着きを取り戻したサチが訊いた。
「ウィンカーを出そう」私は決断した。「ここは指示に従う」
サチは頷いた。他に選択肢はない。防弾仕様だとはいえ、車体の重量と強度は軽自動車のそれと大差ない。ぶつけて強行突破を図っても、向こうは小揺るぎさえしないだろう。多少の火器は持ってきたが、どうせ相手も防弾仕様に決まっている。護身用のハンドガンでは脅しにもならない。
軽ワゴンはウィンカーを出した。数秒後、前のSUV が左折したので、サチもハンドルを切り、細い路地に入った。後ろのSUV も追随してきたが、右側を固めていた一台はそのまま走り去っていった。
入り込んだのは、両側に町工場が並ぶ細い路地で、車二台がギリギリですれ違える幅しかない。前方と後方のSUV は、道の中央を走っているので、脇をすり抜けるのは無理だ。見渡す範囲に人影も見えない。
私は何度かスマートフォンを試した後、連絡を取るのを断念した。防衛本部でこの車の位置は追跡しているから、位置情報データ通信が途絶えた時点で、異常発生は認識しているはずだ。すぐに先行した警護チームが急行してくれる。
100 メートルほど進んだとき、前方のSUV がまたウィンカーを出した。右前方に閉鎖されたらしい工場がある。縦長の看板が出ているが、塗装がほとんど剥げ落ちていて「品・金属加」しか読めない。扉は閉ざされていたが、建屋の横に、軽トラックなら2 台入るぐらいの駐車スペースがある。SUV はゆっくりと駐車スペースを通り過ぎ、そこでハザードを点滅させて停まった。サチは私の顔を見た後、駐車スペースに軽ワゴンを入れた。すかさず後ろのSUV が道を塞ぐ位置に車を停め、私たちの退路を断つ。憎たらしいほどに連携の取れたチームプレイだ。サチの運転に腹を立てたヤクザなどではないことは間違いない。
前方のSUV のドアが一斉に開き、四人の人間が降りた。助手席から降りてきた男が、私たちの車に向かって歩いてくる。サングラスをかけ、グレイのスーツを着た男性だ。後ろに長袖シャツを着て、やはりサングラスをかけた男が従っていた。残りの二人はSUV の近くで待っている。後方のSUV からは二人の男が降り、前後の道路に目を配りながら立っていた。この暑いのに、みなスーツかジャケットを着ている。ホルスターに入れた銃器を隠すのに都合がよさそうな服装だ。
「二人とも」私は顔を前方に向けたまま、後部座席のPO たちに言った。「見られないように顔を背けてろ。それからムダかもしれんが、本部に発信し続けていてくれ」
「台場さん」
サチがグローブボックスを見てから、私に問いかけるような視線を投げた。グローブボックスにはハンドガンやスタンガン、その他、いくつかの護身用器具が入れてあるが、私は首を横に振った。これだけ準備を整えての襲撃だ。今のところ、銃器などは目視できないが、当然、それなりの装備も揃えているに決まっている。素人が銃器を振り回しても制圧されてしまうだろう。
男が私の横の窓ガラスを、コンコンと叩いた。私は他の3 人に頷いてから、パワーウィンドウを10cm ほど下ろした。
「どうも。暑いですね」男が愛想良く言った。「アーカムの人でしょう、あなた」
20 代後半ぐらいか、ツーブロックと言われる髪型で、耳には派手なゴールドのピアスをしていた。窓を叩いた手にもゴツゴツと飾りのついた指輪が光っている。サングラスはベルサーチだし、オーダーメイドらしいスーツは、細身の身体にフィットしていた。オレンジ色のシャツとストライプのネクタイも、おそらく私には縁のないブランド品なのだろう。左手首にはHUBLOT のロゴが入った腕時計。しゃべり方に少し違和感がある。日本人ではないか、マザータングが日本語ではないのかもしれない。
だが、私の注意はツーブロック男ではなく、その後ろについてきた男の方に向けられていた。男はサングラスを取り、私をじっと見ている。頭髪は薄く、平板な目鼻立ち。記憶のページにゴシック体で記述されている顔だ。その記憶を補足するように、魚類特有の臭気が鼻をつく。
インスマウス人だ。みなとみらいで遭遇した個体のようだ。サチも同じ結論に達したらしく、顔を強張らせている。後部座席の二人も息を呑んだ。二人とも、生身の奉仕種族を見たのは初めてのはずだ。
「トントン」ツーブロック男が、また窓を叩いた。「もしもし? 聞いてますか?」
「借金の取り立てかね」私は応じた。「それならこんなやり方をしなくても、電話するなり内容証明郵便を送るなりしてくれればよかったのに。だいたい、大勢で威嚇するのは違法じゃないのか」
ツーブロック男はクスクス笑うと、スーツの内ポケットに手を滑り込ませた。私は緊張したが、男が取り出したのはスマートフォンだった。
「えーと」男はスマートフォンを操作した。「ああ、台場さんですね。PO 課セクションD のチーフ。そっちは駒木根さん。後ろの二人は情報がないですが、察するにセクションD のPO さんたちでしょう」
「まったく」私は思わずため息をついた。「うちの機密管理も大したことがないな」
「いえいえ、大したものですとも」ツーブロック男はスマートフォンをしまいながら言った。「横浜アーカムの組織図と、不完全な人事情報を手に入れるだけでも、都心の一等地にビルが建てられるぐらいの金と、二年以上の年月が必要だったんですから」
「大金だな。ところで、まだ名前を聞いてないんだがね」
「名乗るほどの者ではありません」ツーブロック男は、また面白そうに笑った。「と言いたいところですが、金ぴか野郎とか、ツーブロック男なんて呼称されるのもイヤですから、ぼくのことはユアンと呼んでください」
「それは姓? それとも名前?」
「どっちでもいいでしょう」
「ユアンね。それで君は、ハウンド・インターナショナルのどの部門に所属してるんだ?」
ユアンの顔から一瞬、表情が消えたが、すぐに口元に笑みが戻ってきた。
「ちぇっ。気付いてましたか」
「カマかけただけだよ。国際的軍需企業にお勤めか。さぞ、給料はいいんだろうな」
「そりゃもう......」
「人類を裏切る代償だからな。銀貨30 枚ぐらいか?」
「勝ち目がある方につくのは、企業として当然の選択だと思いませんか」
「アーカムに勝ち目はないと?」
「だって、おたくの組織には防衛本部はあっても、攻撃本部はないじゃないですか。防御だけじゃ、どんな戦いだって勝てませんよ。違いますか?」
「確かに組織図を入手したようだな」
「それに、仮に地球があっちに征服されるとしても、何十年も、ひょっとしたら何百年も後の話でしょう。そんな先のことまで、考えてられませんって」
「現世利益というわけか。わかった。話は合わないってことだ。別々の道を歩くのが互いのためだな。もう行っていいかな。急いでるんでね」
インスマウス人がユアンを押しのけて進み出た。特有の臭気が強くなり、窓を閉めたくなるのを私はこらえた。
「我々はコミュニケートを希望する」
「前にも聞いたよ、それは」私は答えた。「上に話は通してある。そっちに話をしてくれないかな」
「それでは遅い」インスマウス人は言った。「ある......大きな変化......我々の意に沿わない変化がじきに起きるからだ」
「変化? 何のことだ」
「そのことについて話をしたいんですよ」ユアンが横から言った。「ここは暑い。涼しく快適な場所を用意してあるので、ご同行願えませんか」
「気が進まないね。話ならこの状態ですればいい。私は一向に構わんよ」
「通信電波は遮断してありますが、この場所はもう特定されているから、そろそろおたくのソード・フォースあたりが到着する頃です。台場さんは、それを待って時間を稼いでるんですよね。違いますか?」
「わかっているなら撤退したらどうだ。あいつらは乱暴者揃いだ。私みたいに紳士的な話し合いは通用しないぞ」
「そうはいかないんです」
ユアンは後ろを振り向くと、SUV の近くに立っていた男たちに合図した。二人の男がSUV の後部ドアを左右から開き、中にいた人間を引きずり出す。右のドアから悪態をつきながら出てきたのはリンで、反対側に立ったのはハルだった。
(続)
この物語はフィクションです。実在する団体名、個人とは一切関係ありません。また、特定の技術や製品の優位性などを主張するものではありません。本文中に登場する技術や製品は実在しないことがあります。
コメント
popo
毎度楽しみにしています。
ところで、「シュミレーション」ではなく「シミュレーション」ではないでしょうか。
どっちでも分かればいいですが気になったもので。
リーベルG
popoさん、ありがとうございます。
シミュレーションですね。
あしの
更新を楽しみにしている一読者です。
非常に細かなところですが、
「親がいない奴」ぐらいの認識でしかなったシュンは・・・
のくだりは、
「親がいない奴」ぐらいの認識でしかなかったシュンは・・・
が意図された内容ではないでしょうか。
全然補完できるのですが、お伝えしておいたほうが良いかなと思いまして。
リーベルG
あしのさん、ありがとうございます。
細かい指摘、大歓迎です。
Zの人
毎週楽しく読ませていただいています。
> 「ふーん」サチは腕を組んだ。
とありますが、サチさんは運転者なので腕を組むのは危険かと・・・。
リーベルG
Zの人さん、ありがとうございます。
手放し運転……は危険ですね。