「JaSST'11 Tokai」参加レポート――飛行機とコミュニティ、テイクオフ!
こんにちは、第3バイオリンです。
先日、ソフトウェアテストのシンポジウム「JaSST’11 Tokai」に行ってきました。
JaSSTは日本各地で開催されていますが、東海地域は他の地域にくらべて組み込み系の会社が多いこと、また地元のコミュニティにも熱心で個性的な方が多いことから、JaSSTも他の地域とは違う特徴がある、と聞いていました。
まさにそのとおりで、テストや品質に対する興味深い取り組みのお話を伺うことができたうえに、テストに対する情熱と愛情を持った方々と語り合うことができて、大変密度の濃い時間を過ごすことができました。
そんな「JaSST’11 Tokai」の参加レポートをお届けします。
■日時と場所
- 日時:2011年11月11日
- 場所:名古屋市中小企業振興会館
当日はあいにくの雨でしたが、会場は大勢の参加者の熱気であふれていました。
■テーマ
「JaSST’11 Tokai」のテーマは「やろまいか! 東海」。
「やろまいか!」とは、東海地域の方言で「やってやろうじゃないか!」という意味です。「JaSST’11 Tokai」を通して、東海地域の勢いをお伝えしたい、それと同時に参加者の皆さんの活躍を後押ししたい、という願いが込められているそうです。
■基調講演「MRJの開発状況 – Flying into the future」
三菱航空機株式会社の藤江壮さんの講演です。
タイトルにある「MRJ」とは、会社の英語名(Mitsubishi Regional Jet)の略称です。リージョナル機と呼ばれる、乗客80名程度の小型ジェット機を製造している会社なので、このような社名になったそうです。
航空機産業において、これから特に成長すると予想されているのは座席数が60~99席の飛行機と、120~169席の飛行機です。ハブ空港の利用が増加し、これまでの「大型飛行機で一度にたくさん運ぶ」時代から「小回りが利いて乗客へのサービス重視」の時代へとシフトしているからです。
特に60席の飛行機は、北米の法律改定により需要が急増していること、120席の飛行機と比較して安全面や生産・販売体制の面から市場への参入がしやすいということから、藤江さんの会社もこの市場に新規参入することになりました。
新規参入にあたって、藤江さんは「乗客に優しい」「環境に優しい」「エアライン(航空会社)に優しい」の3つをコンセプトとして掲げました。
まずは「乗客に優しい」についてです。リージョナル機は主にハブ空港で使われるので、それほど長時間乗る飛行機ではありません。しかし、だからといって快適性をおざなりにしてはいけません。
藤江さんは、まずキャビンの広さにこだわりました。飛行機の胴体を大きくすればキャビンは広くなりますが、ただ大きくするだけでは機体が重くなり、飛行機としての性能が落ちてしまいます。飛行機としての性能と乗客が快適に過ごせる広さ、両方を実現するために藤江さんは新しいエンジンを開発しました。
新しいエンジンを開発したことで、燃費も良くなり、騒音も小さくなりました。これによって、2つめのコンセプト「環境に優しい」も実現することができました。同時に、燃料代と空港税(騒音の大きい飛行機ほど税金が高額になります)も節約できるため、3つめのコンセプト「エアラインに優しい」も実現しました。
さらに、機体に複合材を効果的に適用することで、飛行機の安全性も向上し、寿命も長くなりました。
藤江さんは、「見た目を良くすることだけが新規開発ではない。30~40年の間、運行することも考える必要がある」と語りました。そのために、荷物を積むスペースや、燃料補給やメンテナンスなどのサービス車両が地上で混雑しないようなデザインについても考慮したそうです。
さて、航空機にとって、快適性や経済性も大事ですが、もっとも大事なものは安全性です。藤江さんは、安全性を実現するために「最初から安全性を高めるように作る」というお話をしました。例えば、窓を広くしてパイロットが外を見やすくしたり、計器に異常をもたらすような電波の遮蔽製を高めたりすることです。
安全性を実現するためには、ハード面はもちろんですが、ソフトウェアが占める重要性も高まっています。ソフトウェアが動かないと飛行機は飛びません。
気になるソフトウェアの作り方ですが、藤江さんは、試験飛行のときはソフトウェアがまだ完全にできあがっていない、というお話をしました。なぜなら、飛ばしてみないと飛行機の細かい特性は分からないからです。試験飛行をしつつ、ソフトウェアを修正していくので、ソフトウェアは飛行機で最後に仕上がる部分なのだそうです。
最後に藤江さんは、今後の日本の航空機産業の展望について、世界の中ではまだまだ規模が小さいのでもっと世界的に役割を果たすべき、そのためには航空機を製造する企業はもちろん、それを支える企業の発展も大事である、と語りました。そして、ゆくゆくは航空宇宙技術が、他の産業にも派生して広がりをみせていくことを望んでいる、と締めくくりました。
藤江さんの講演を聞いて、飛行機が安全で快適な旅を実現するために、飛ぶことだけでなく、地上でのサービスやメンテナンスといった、乗客からは見えにくいところまでしっかりと考えて設計されていることを知ることができました。また、「最初から安全性を高めるように作る」という言葉には感銘を受けました。飛行機は型式証明と呼ばれる国土交通省の認定を受けないと飛ばすことができないのですが、設計前に目的と達成レベルを明確にし、そこを目指すことの大切さは他の製品でも変わらないはずです。
基調講演のあと、スポンサーセッションとして、スポンサー企業2社の方が会社概要や製品についてプレゼンされたあとで、午前中のセッションは終了しました。
■ポスターセッション
午後はポスターセッションから始まりました。ポスターセッションには、総勢10名が発表者として参加していました。企業の発表が中心でしたが、コミュニティの取り組みや成果を紹介する発表もいくつかありました(他のシンポジウムのポスターセッションを知らないので、これが珍しいことなのかどうかはよく知らないのですが)。
30分間という短い時間のなかで、さすがにすべてのセッションをじっくりと見て回ることはできませんでしたが、東海地域のコミュニティに参加している方はやはり熱心で、テストが本当に好きなのだということが伝わってきました。こういう方々が、東海地域の活発なコミュニティ活動を支えているのですね。
第1回目の参加レポートはここまでです。次回は、特別講演と経験発表についてお伝えする予定です。
追伸:以前コラムでJSTQB AL試験を受験したお話を書きましたが、無事に合格しましたことを報告いたします。