ITを取り入れたいレベルの町工場がやるべきこと
大変お久しぶりの投稿になってしまいました。有限会社ミノハラ製作所の蓑原です。
今年の5・6・7月に@IT自分戦略研究所の企画、「@IT式 U&Iターンスタイル」に記事を書かしていただきましたが、それ以来になってしまいました。
鳥取編:ITの仕事って、ホントに田舎でもできるんですよね?
鳥取編:大学進学率は東京の半分、その切ない理由
鳥取編:ITエンジニアの皆さん、鳥取を救ってください
これまで製造業の世界、しかも田舎の工場の中しか知らなかった私が、全く別のIT業界の方々との接点ができたことで、これまでなかった情報を聞き、私が思っていた「普通」がもしかしたら常識外れだったかもしれないと多くを学ぶ機会になりました。
機会があったらまた書くことにします。
この度、運良くタイの工場を見る機会を頂きました。忘れたくないので、その感想を書いておこうと思います。
製造業とIT業界の違いのように、日本とタイも全然違いました。我々が普段から感じている「普通」って、国が変わると何の意味もなさないですね。
日本で町工場を営んでいるITを取り入れたい社長、という視点から書いてみたいと思います。
【タイに行く前のイメージ】
タイの工場は、安い賃金でワーカーを雇い、「ただ作るだけ」の人をかき集めてとにかく生産をしているだけのところだと思っていました。現場の管理者に言われたとおりに作業するだけのワーカーが、安い賃金で働かされているところ。
暗く、汚いイメージがありました。
しかし、実際に拝見させていただくと、日本の工場と何も変わらないですね。
建物が古く、設備も日本で使われていた中古品だろうと思われるような年季の入ったモノが多い昔からある工場。
あるいは、広大な敷地の新しい工業団地に、○○が何個分と表現できるような大きな工場を建て、その中に最新鋭の設備を導入している工場。
何の統計も見ていませんが、こんなパターンでしょうか。
実際の現場はどうかと言いますと、日本の製造現場でもよく見かける「4M」「TPM」「TQM」という言葉が書かれた掲示物が、あちこちに貼られています。
ワーカーたちはリーダー、マネージャークラスの人たちから受けた教育を忠実に守り、実行しています。
またリーダー、マネージャークラスの人たちは、現場の状況を様々な数値で管理し、現場の意見を吸い上げ、次につなげています。
もちろんISO9001認証は当たり前です。
日本の20年前に戻ったような感じがしました。
しかし、なぜか時代遅れとか無駄なことをやっているとか、そういう印象はありません。
日系企業の仕事もしているということで、取引先となる日系企業からの「監査」を受けているだろうと思い、いろいろ聞いてみました。
どの企業からも共通して返ってきた回答がありました。
↓↓↓↓↓
「監査を受けるときは、はじめは何を言われるかとドキドキしたが、普段通りの仕事をしていれば何も困ることはない。指摘事項があっても取引先からどのようにすれば良くなるか指導してくださる」
というものでした。
日本ではどうかと考えてみると・・・。
指摘されないように、一夜漬けの勉強のようなその場しのぎを繰り返しているような気がします。それではさせられているだけ、処置をしただけになってしまい、根本的な改善にはなりません。
私が無くしたいと考えている、5S活動的な改善です。(弊社だけ?)
タイの人たちはさらに、
「自分たちは、日本を手本にして、それを目指して頑張っている。タイの我々にいろいろなことを教育して下さり、大変感謝している」と。
人は、指摘ばかりされていては気持ちよく仕事ができるはずがないし、それに、何と言っても、楽しくない。なので続くはずがない。と私は思っています。
ISOの監査というと、悪いとこ探しのイメージしかありません。
日本人に対してのリップサービスかもしれませんが、タイの工場と日系企業との間のこのようなやり取りを感謝できる関係性であれば、問題は起こりにくいだろうと思います。
また、タイの工場と取引のある日系企業といえば、規模もそれなりに大きなところ。世界中で知らない人はいない企業の名前が挙がってきました。そのような企業が教育するのだから質も格も違うと思いますが、それでもタイの方のその言葉がとても重いものに感じ、私は日本にいて、そのように感謝されたことがないし、手本になるようなことをしている実感もない。とても恥ずかしい気持ちになりました。
【タイの人は暑いのと面倒くさいのは嫌い】
タイの工場には、ISO9001で品質のプロセスマネジメントが行われ、それを基礎としてしっかりとITで管理できる仕組みも導入され、「業務の効率化」も図られています。
現地の人の話によると、「タイの人は暑いのと面倒くさいのは嫌い」だそうです。それが故、便利と思ったものにはすぐ飛びつくらしく、ITが進むのもそのせいではないかとのこと。
駅員さんも警備員さんも仕事中に普通にスマホをイジってましたし。
理由はどうであれ、確実に日本の小さな工場よりはIT化は進んでいますね。
バンコクの街そのものも活気がありましたし、新しいものをどんどん取り入れて成長していくという「欲」「パワー」は圧倒されるものがありました。
【日本の製造業の問題点】
タイの工場を見て日本のことを考えてみると、日本の製造業にある問題点は、少子高齢化によるベテラン社員の退職や人手不足、IT導入の遅れなど、目に見える問題以前に、もっと重要な問題があるように感じました。
それは、「手本、見本とするものがないこと」また「見本を見つけようとしない」ということ。
昔の日本は、欧米の企業に勝とうと様々なものを手本にし、真似をし、多くの時間を割いて知恵を絞り、日本独自のモノを作り上げ、各国の企業から目標とされる企業として成長してきたのではないかと思います。
しかし今となっては、台湾や中国に買い取られるほど、地位は落ちてしまいました。
今や日本は、目標とされない?
追い越された今、これからの日本は、台湾や中国を目標にしなければならないはずです。
仕事上で、暑いのが嫌い、○○するのが面倒くさいなどと言ってしまうと、その時点で日本人としてNG?のような空気、これが日本の製造業の伸びしろを無くしている気がしています。
とにかく汗水流してがんばる、面倒くさいことでもとにかく継続する・・・
こんな日本人の美徳のようなものが、新しいものを受け付けず、成長の天井を低くしている気がします。当然必要な要素ではありますが、これではメシは食えません。
中国人が作ったものは信用できない、Made in Japanがナンバーワンだ!って言っている間に、あっという間に負けてしまった日本の製造業。かっこ悪すぎます。
とはいえ、メーカーは中国でも、中身に使用されている部品の多くは日本製だったり、設計開発は日本人だったりするものが多いですね。
【日本でモノづくりすることの意味】
とても小さい会社ですが、日本で工場を構え、モノづくりに携わる立場として、考えるべきことは多くあります。
モノづくりをすることの価値を考えたとき、伝統の技、職人の技術はとても重要だと思うが、それを生み出すために費やされた、「知恵を絞り出す」という時間。
これは日本人が持つ能力があるからこそだと断言できます。
タイの工場も、結局は日本で積み重ねられ、蓄積され、技術として可視化されたものを真似しているに過ぎません。
日本には知恵の蓄積がある。
日本には知恵を絞りだす能力がある。はず。
この蓄積が次の新しい知恵を生み出すための「資源」になる「財産」と言うべきものです。
それが、一社員の脳みそにとどまっているのか、そこから引き出されPC内に蓄積され他の人が活用することができる状態になっているかで、次に出てくる知恵の質、量、スピードが圧倒的に異なってくるのは明らかです。
製造業で導入される流行りのICT、IoTなどが、事務作業の手間減らしだけの、高価な事務ツールになっているようでは、製造業はみんなIT企業に管理され、モノづくりを知らない人たちに「作らされる」ようになるでしょう。
人が人にしかできない、人がやるべきことに集中することができるという環境ができれば、AIが発達して人の仕事が奪われるという心配は全くなく、もっと人間らしい仕事ができるような気がします。
床の掃除は、人が膝をついてやらなくても、お掃除ロボットにさせればいいんです。
【解決策】
解決策は一つしかないと思います。それは「素直さ」だと断言できます。
これまで批判していた中国企業を見本にするくらいの素直さ。間違っていたら次を検討すればよく、現状を批判されることを受け入れたいですね。できない理由は言わないで。
「素直さ」で間違ってはいけないことは、言われたことをそのままするという間違い。それは素直な行動ではなく、言いなりです。自分の気持ちに素直になれば、言いなりなんかにはなれないはずです。
素直な気持ちで思ったままの行動が、世の中の役に立つ、これが理想の仕事のやり方ではないかと思いますし、製造・開発・システム・総務・品管・・・いろんな部署の人が集まって、知恵を出し合い新しいものを生み出すって、日本人らしい仕事のやり方だと思うんですけど、
でも、みんな忙しいよなぁ~・・・。