地方の町工場にこそ必要なIoT。2代目社長のIoTシステム導入奮闘記。

5S活動が進まない理由は「経営者のせい」って言い切られた、経営者の私。

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初めまして。蓑原康弘(みのはらやすひろ)と申します。
日本で一番人口が少ない県、鳥取県の片田舎で町工場の社長をしております。
ハイテクとは縁遠い生産現場に、IoTを導入するべく社内の改革を行っている最中です。

その奮闘の一部をご紹介するとともに同じ境遇のみなさんと情報共有ができればと思い投稿することにしました。

みなさん、よろしくお願いします。

■ 自己紹介

少しだけ、自己紹介をさせていただきたいと思います。
私は、現在は町工場の、2代目社長をしています。父が経営する会社に帰ってきて14年目、社長となってからは、もうすぐ7年です。
それ以前は、大学もその後の就職も医療系でしたので、製造業の知識全くなし。まして後をを継ぐとか経営なんて考えたこともなく、学生の頃は絶対に安定した公務員になってやるって思っていたものですが、すべて叶っていません。今では、公務員にならなくてよかったって思っていますけどね。

■ 外から見た製造業

IoT導入と謳っていますが、製造業ってどんなところなのか、それを導入しようとする現場はどうなっているのか、「現状」から書きたいと思います。

医療現場で働いているときから、製造業といえば5Sっていうイメージがありました。今でもありますね。当時の医療業界では言いませんでしたけど、最近は流行り出したようです。導入され始めた・・・ではありません。「流行り出した」です。
このような単語は他にも、Man・Machine・Material・Methodを「4M」、「ダラリ」といって、ムダ・ムラ・ムリを意味する言葉だったり、何かの頭文字やオヤジギャグかと思うような語呂合わせ的なものがとても多くあります。

私は、これがとても嫌いでした。

オヤジギャグみたいな言葉を口にしたくないっていう理由もありますが、「5S」っていう単語だけが独り歩きして、中身が何だったかわからない人の方が多くなっていくことをとても問題視していました。
やはり、誰に聞いても、「中身までよくわからない」という人や、わかっていても「で、それが何?」っていう回答で、現場の業務には何も反映されていないことに気が付きました。

図1.png

■ 製造業といえば5S活動ですが・・・

私の会社では、特に「5S」が多用されていました。(社員のみなさんが見たら怒るかな?)
「5S」は、皆さんご存知の通り、整理・整頓・清掃・清潔・躾ですね。
しかし、「5S」=「整理・整頓・清掃・清潔・躾」にならないんです。
「整理・整頓・清掃・清潔・躾」がちゃんとできていないという意味ではありません。
「5S」は5Sで「整理・整頓・清掃・清潔・躾」とは別物、「イコールでない」状態になってしまっているのです。

「5S」をちゃんとしましょうって言ったら伝わるけど、「整理・整頓・清掃・清潔・躾」をちゃんとしましょうっていうと困る・・・。

前述のとおり、私の会社では5S活動は一生懸命に進めてきたつもりですが、社長を2~3年やったころから、それに違和感を持つようになりました。
その原因は、「経営的数値に反映されていない」ということが見えてきたからです。
確かに、社員のみなさんが会社をきれいに保つ、不良品が出ないように、ムダが出ないように・・・などの努力をすることは必要です。
しかし、いくらがんばっても経営的数値に反映されなければ、評価をしていてもインセンティブを与えることができません。そうすると社員の皆さんからは、「こんなに頑張っているのに!」って抵抗が出ます。当たり前です。

ですので、社長の仕事は、「社員のみなさんのがんばりと経営的数値への反映がリンクするような仕組みを作ること」が大事なことの一つではないかと思ったのです。

そうするとなんでも理屈や筋が通っていなければ納得がいかない性格の私は、「5S」という仕組みはどうなのか?って、私なりに分析してみました。

■ 業務改善のために「5S」を徹底分析!

まずは整理→整頓→清掃→清潔→躾という順番。誰が決めたんだ?ということです。

清掃と整頓が逆だと言われる方もありますが、大して変わりません。
「整理」が1番に来るっていうのが私には気に入らないのです。

整理するには、モノを捨ててもいいかどうかの判断が必ず必要ですよね。
どんなに無駄そうに見えても、使ってなさそうに見えても、3年に一度しか使わないものだけど100g10万円もして入手困難なもので1年後にはそれは必ず要るものだったら?
と、こんなものがあるかどうかわかりませんが、目の前のものがそのようなものかどうか、それを捨ててもいいか、現場の社員のみなさんには判断できないものも多く出てきます。
そうなると判断するのは、状況を知っているはずの上司や社長となります。
上司や社長が判断してくれないから、協力してくれないから。捨てられなければ整理ができなくて次の整頓に移ることができない・・・。なので、5S活動が進まない理由は「社長のせい」っていう理屈なんだと思います。高いものでも捨てる決断しろ!って会社の事情を知らない人が言うわけです。

じゃー、社員はその判断を待たなければ、5S活動、何も出来ないのか?

答えはNO。

現時点では不要なものがあったとしても、それがあることを肯定して、整頓はできますし、整理も整頓もしなくても掃除はできます。しにくいだけ。しにくいので清潔を保つのが難しい・・・。
こんな状態で掃除をすると、無駄な掃除が発生するとか、無理にモノを動かさないといけなくなるから・・・という5S論が始まります。
その一時的な無駄や無理が生じるからと、ほんの一部の効率のことだけを言うのが5S理論です。
目の前のものを、毎回上司や社長に判断を仰いでいれば、「掃除さえやっていない」という時間の無駄が生じます。ここはあまり言われません。
だから5S活動が続かないという理論ですが、上司や社長に聞かなくても「清掃」だけでもできますよね。私の会社では社員のみなさんがそれだけは徹底してやってくださっていたので、余計に5Sの理論に違和感を感じるようになったのです。

■ 基準は何?

そもそもですが、「不要なもの」とはいつから不要になったんでしょうか?それも過去には必要なものだったはず。

それを突然、5S活動が始まったぞっていう瞬間から、捨てるものに変化するっていうことは、私には、突然、過去の経験や実績を否定することのように思えて仕方がないのです。
また、それが必要か不要かを、「半年使わなかったら不要なもの」「1ヶ月使わないものは・・・」などと基準を決めてさばいていくという行為。どこから何を根拠に発生したのかわからない基準には、当然納得性がなく全社員に忠実に守ってもらうことは不可能じゃないかなと思いますね。このようなやり方で現場が勝手に決めた「根拠のない半年という基準」には、どんなに寛大な社長も、納得はしていないんじゃないでしょうか。

これができるのは、たまたまその基準がマッチしたか、みんな何も考えていないからその基準に従っているだけ。

多分後者の方が圧倒的に多くて、その結果、製造現場には考えることをやめてしまい、「言われたことを忠実にやること」だけが仕事の社員が多くなっていく危機感を感じました。

■ 製造業をダメにする真の原因

このような状況にしてしまう象徴(最大の理由)が、5つ目の「躾」です。

「躾」をググってみると、「親が子供にやらせること、正しいことを教え込むこと、従わせること」というような記述が並んでいます。
製造現場で働いている皆さんは、ほとんどの方が立派な成人で、社会人のはずです。大人になってまで、躾されたくないですよね。上司にやらされる、上司に教え込まれる、上司に従うだけ・・・なんていう状況は、どんな大人でも気分悪くなるし、仕事とは言いません。
またそれは「社員」というより「労働者」です。法律では「使用者」と「労働者」と言いますから、使う人と使われる人っていう意味ですね。社長も働いているから労働者だと思うし、私は人を使っているなんて思ったこともありません。
これが通じるのは、遊んでばかりいる社員をたくさん抱えて、頑固オヤジみたいだけど面倒見のいい社長が経営する、まさに「躾」が必要な会社、だけでしょうね。

図3.png

■ やっぱり5S活動が進まないのは「経営者のせい」?

それでも、何十年も前から、今も変わらずとにかく5S活動をしよう!って宗教のように言われるのはなぜでしょうか?

それは、今の上司がそれ以外の教育を受けていないから。

若い人たち、製造業初めての人たちにもわかりやすい、始めやすいということもあると思いますが、今の若い人たちって、ホントはもっといろいろ考えているのだろうと思うのです。
上司が指示をしてその通りの仕事をやらせようとする。
また、「5S」をやっていればオールOKみたいな上司が、社員教育の手を抜き、本当の改善をしないで、「5S活動」に頼って楽をしているだけにしか見えません。
上司ほどいろんな勉強して5S活動による目先の改善から卒業し、今の時代に合った何かを見つけ出さないといけないと思います。上司が勉強していなければ、絶対に部下もしません。頼りない上司の下の社員がしっかりしているなんてよく聞きますが、理想の上司が見つかれば、すぐにそっちに行っちゃうでしょうね。すでに若者にとっては売り手市場の雇用環境になっていますから。

そんな「人が育つ」会社の環境、風土を作ることは、これは社長の仕事です。特に私の会社のようなちっちゃな会社ではなおさらです。

そうなると、5S活動が進まない理由は、カイゼンコンサルタントの先生がおっしゃられるように「経営者のせい」、私のせいなのかもしれません。

有限会社ミノハラ製作所  蓑原康弘

Comment(2)

コメント

関ものづくり研究所

こんにちは、楽しく拝読させていただきました。
私も最後のSが「躾」というのには全く馴染めません。社員さんは幼児やペットではないのですから。私は「仕組み」と定義しています。
「整理・整頓」は、今の現場があるべき姿にない場合に、あるべき姿にするための改善手法。
「清潔・清掃」は、明るく楽しく安全な現場を作るための手法。社長も含めてみんなで楽しくやることが必須。
最後のSは明るく楽しく安全な「あるべき姿」になった現場が元に戻らないどころか、5Sなんて意識しなくてももっと良くなる(改善する)ための「仕組み」を構築すること。

私の生業は「現場改善のお手伝い(一般的にはコンサルタントと言われます)」ですが、基本5Sのお手伝いや講演は致しません。ただ、今年「どうしても」とお願いされ、某商工会議所で5Sの講演をしたときに上記のことを軸にお話しさせていただきました。

蓑原

関さん
読んでいただいているとは思わず、ビックリしました。お時間いただきありがとうございます。
私も「仕組み」が大事だと思っていて、ホントに社長や上司のやるべきことだと最近身に染みて感じています。仕組みがなければ、IoT導入しても入力や出力作業が増えるだけですから。
「清潔・清掃」は社長も含めて・・・ですね。私もトイレ掃除しますよ(笑)

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