開発言語と、通販対応配送センターERPの開発者の視点を中心としたコラムです。

オープンソースで儲けるには起源を知り、資本主義ルール空間への入り口を見つけよう

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 前回の記事では、オープンソースとビジネスに関してかなり否定的な内容を書きました。しかし、これを覆すことはできないのかと考える方が多かったはずです。

 この現実を覆すためには、まずは、自分が立っている土俵について認識し、その前提を覆すという思考が必要です。

■お金は古代から今まで続く強固な仮想化

 人類が誕生した当初にお金があったかというと、なかったと思います。当時は、自給自足から始まり、そして、物々交換という「価値」の交換が誕生します。

 そして、物々交換の不便さを解消するためにお金というシステムが生まれました。

 お金というのは、人間が作ったものです。いわゆる、価値の象徴であるものです。

 しかし、お金は食べられませんし、お金がシステムを作ってくれるわけでもありません。お金は労働力や物などの「実体」に変換することによって初めて価値を発揮します。

 オープンソース化されたソフトウェアは、「無料」という感覚があると思いますが、「無価値」ではありません。よって、価値あるものが生産されるわけですから、オープンソースコミュニティの活動は経済活動だといえると思います。

 また、すべての経済活動は、「価値交換」という原動力が必要です。

 ただし、「価値交換」はお金中心の資本主義だけではありません。そこに注目することで、どこにオープンソースで儲けられるポイントが見えてくると思います。

■オープンソースコミュニティの起源はお金か?

 今、Apache財団やPostgreSQLのユーザーグループなどがきちんと運営されているのを目にしていて、出版などでの資本がからむ経済活動をおこなっていますが、果たして、最初からそうだったのかというと、そうではないと思います。

 オープンソースの起源とは、お金以外の価値で立ち上がったものがほとんどだと思います。

 何でもそうですが、オープンソースの起源も、1人の人から始まります。最初の技術者が、とても困った問題があって、途中までソフトウェアを作りますが、その後に関して成長させたり完成させたりするのに困ります。

 そうしたときに、同じ問題を抱えている次の技術者が、そのソフトウェアを一緒に作る活動に参加します。

 その繰り返しで、どんどんコミュニティが大きくなっていきます。Linuxなどもそのような感じで大きくなったのでしょう。

 ここでは、技術者はまだ、お金をもらって作業をしているわけではなく、それぞれが「解決したい問題」を持っていて、それを解決できるという「価値」が彼らを動かす原動力になっています。

 つまり、金融システムとはまったく関係なく、物々交換に近いような価値交換が原動力となってオープンソースコミュニティは動いているわけです。

■ガラケー向けオープンソースプロダクトがあまり出なかったのが不思議

 日本のオープンソースをとりまく環境は非常に特殊だと思います。海外では、オープンソースを普及させるインフラがあるのですが、日本ではなかなか面白いものがあっても最初の段階で頓挫することが多いと思います。

 また、後述しますが、「最初が厳しいからあえて最初は資本主義に対して妥協する」という選択肢をとってしまった場合には、さまざまな利害関係から本質的な部分に向き合えなくなる危険性があるため、最初のコミュニティの非資本主義的な原動力が維持できなくなる可能性が高くなります。

 今は、スマートフォンにかなりの実効ユーザーが移行しているため、どちらかというとスマートフォン同士の互換性の問題がすり変わってきていますが、当時のガラ携の互換性問題は非常にやっかいな問題だったでしょう。

 しかし、PHPやJavaなどの言語にニュートラルな互換性を担保するプロキシサーバのオープンソースコミュニティで活発なものは筆者が知る限りでは見かけません。

 これは、オープンソースコミュニティを、非資本主義的なアプローチでコミュニティの自由を担保しながらも支援するというビジネスモデル、すなわち、オープンソースの情報インフラがまだ日本では整備されていないことに起因するのではないでしょうか。

 逆に考えれば、これは、非常に大きなビジネスチャンスかもしれません。

■資本主義ルールのお部屋へ上手に入ろう

 ここまでは、非資本主義的な価値交換に注目して書いてきましたが、では、資本主義上でコミュニティに参加している技術者は成功できないのでしょうか?

 筆者は「実はできる」と思っています。

 前回のコラムでオープンソースとビジネスの関係について否定的な見方をしたのは、「資本主義に偏りすぎた視点」しかない状況ではそうなるということです。

 技術者は、技術者である時点ですでにその存在が大きな価値を持っているので、その価値をお金に換える出口を用意すればよく、「現在、自分が立っているのは資本主義の情報空間ではなく、非資本主義のルールで価値が決定している空間で、上手な形で資本主義の空間に入れればよい」と考えればお金も稼げると思います。

■時間と情報がオープンソースコミュニティの最初の利益

 立ち上げ当初のオープンソースコミュニティでは、

  • まだ、解決策がないことを解決しようとしている
  • コミュニティが小さいうちは、他の人は問題意識が顕在化していない

という状況になっていると思います。

 ということは、誰よりも早く情報を手に入れ、コミュニティの次の展開が読めれば、今後の展開が読みやすくなります。しかも、オープンソースで無料で出すのであれば、先の展開がさらに読みやすくなります。

 「情報が早いだけ?」と思うかもしれませんが、資本主義ルールの世界では、情報が速いというのは決定的なメリットです。

 例えば、価格ドットコム、ぐるナビ、クックパッドなどのサイトが今は巨大システムとしてあり、ビジネスとしても大成功しています。しかし、最初はここまでものすごいシステムではなかったはずです。

 もし、タイムマシンで10年前に今のスキルを持って戻れたらどうでしょうか? 中には、技術者の方であれば、自分で本当の最初のものであれば、作れてしまう方も読者の中に大勢いるのではないでしょうか。

 また、オープンソースの世界では、PostgreSQLのコミッタたちが起業したEnterpriseDBが注目を浴びています。

 この事例も、PostgreSQLに関する情報が集中している中にあって、データベースの新しいニーズを知り、それと同時にコミッターたちなのでそのニーズに対する変化に対応できる力を持っているという点で、うまく資本主義ルールの中に対してもオープンソースで培った価値を転換しています。

■技術者の価値を最大にする経営とは

 このコラムでも、たびたび「技術者の最大の価値は変化に対応できること」といってきました。そして、この技術者の長所を最大限に発揮するように展開するための経営で一番重要なのは、この「先見性」です。

 先見性と変化への対応が両方そろったとき、まさに、その会社および集団の経営はお互いの能力をフルに発揮できるものになるのです。

 筆者の視点で見て具体的に言うならば、一番のメリットは「営業が楽になる」です。そして、事業がさらに回ると、営業がさらに楽になり、特別なスキルがある営業さんでなくても活動ができるようになるでしょう。

 これが本当の「マーケティング」です。

 技術者の場合は、すでに、変化に対応する力を持っている方が多いと思うので、時代の中で「何が変わっていくのか」に注目し、そこで発生する問題の発見に集中することが重要です。

■資本主義での成立を達成した時点で一時的な成功

 ある程度、コミュニティが大きくなってくると、できることも当然多くなってきます。

 いろいろなことができるようになると、「せっかくこれだけの特技を持った人材があつまったのだから、もっと、目標を高くしていろいろなことをやりたい」というふうにみんなが考えるようになることでしょう。

 そうするためには、円滑な価値交換の仕組みも必要になってきます。

 この必要性が出てきたということが、コミュニティの1つの成功のポイントです。そうしたときには、お金というのが1つの便利なツールになっていくと思います。

 お金で物事が動き出すと、ものすごいスピードで加速度的にコミュニティが発展したり知名度が上がっていきます。

 「そういう瞬間を向かえられたコミュニティは非常に楽しい思いを仲間と共有できて幸せだろうなあ」と、本当に思います。

■継続するのに必要なもの「資本主義にはない価値」

 しかし、お金というのはあくまでもツールにすぎないということは忘れてはいけません。若干乱暴な書き方ですが、

全体の価値 = [目的の価値] * [技術力] * ( 1 + [資本力] )

ではないかと感じています。

 ここで注目すべきは、

  • 資本力の影響は、うまくいけば1より非常に大きい数字になり影響は絶大
  • 目的と技術力のどちらかが0なら全体は0
  • 資本が0でも目的と技術力があれば全体は0にはならない
  • 全体が0でなければ原動力が保てるから続けられる

ということです。

 よく、「鶏と卵の問題」という言葉を聞きますが、これは、資本主義上の価値しか見えていない人間の感覚ではないでしょうか。

 上記の数式の資本力のまえにある「1」が見えるかどうかが非常に大事です。資本力の影響が100や1000であれば、1というのはすごく小さな数字で見過ごされてしまうことがほとんどでしょう。

 しかし、この「1」こそが、資本主義と非資本主義のインターフェイスだといってもいいと筆者は考えます。

■一般的なビジネスや起業との共通点

 一般的なビジネスでも、「鶏と卵」の問題はよく言われます。そして、これを解決する方法は、オープンソースのコミュニティを成功させる手段とまったく同じです。

 また、先見性と変化への対応がその後を左右するという点もまったく同じです。

 だからこそ、成功するオープンソースのコミュニティ活動の中では、ビジネスに直結するような生の情報が得られるのです。

 逆に、参加するコミュニティを選ぶ際に、ビジネスに結び付けることを目的にしている方は、その情報が得られやすい環境にあるかどうかを参考にしてみると自分も楽しく活動できるし、その活動がコミュニティへの貢献になります。

■デメリット、メリットの両方を考えて

 前回のオープンソースとビジネスに対する否定的な記事と、ここまでこの記事を読んでくださった方は、「オープンソースは1つの方法にすぎず、技術者は大きな可能性を持った存在であり、より視野を広げた社会貢献やビジネスができる」と感じてくださった方も、中にはいらっしゃるのではないかと、筆者は勝手に思っています。

 オープンソースは、素晴らしいカルチャーではありますが、あくまで1つの手段です。目的ではありません。「インターネット」や「お金」が手段であるのと同様です。

 そういう意味で、筆者は、オープンソースのメリットとデメリット、そしてその文化の裏にあるものをきちんと理解して、経営感覚のある独立した技術者がこの日本でもたくさん出てきてくれることを願っています。そして、そのような方々と協業できる日を夢見て日々、精進します。

Comment(4)

コメント

まさぼう

>日本のオープンソースをとりまく環境は非常に特殊だと思います。

オープンソースに限らず、ITを取り巻く環境自体が特殊ですよね。
これも、自分としては、商圏が大都市にほぼ限定され、そして、足で文化を共有する営業方法がとられているからだと思います。
この文化が壊れつつあるので、SI事業が壊れてきているのですが・・・

オープンソースって、文化や距離の壁を低くするため方法の1つだと思います。
だけど、文化も距離も初めから壁が低いもの同士での取引が主なので、
あまり、このことを問題だと思わないのです。

だから、オープンソース=フリー(無料)という感覚しかもたない人が多いのだと思います。


>全体の価値 = [目的の価値] * [技術力] * ( 1 + [資本力] )

これはいい表現だなと思います。
技術レベルからのちょっとした抵抗って感じがありますが・・・
すごく共感が持てます。

出来ればここに、コミュニケーション力を加えて
(もしくは、「コミュニティの場の力」といった方がいいかも)

全体の価値 = 全体の価値 = [目的の価値] * [技術力] * ( 1 + [資本力] ) * (コミュニケーション力)

とすると、
コミュニティの場の力を作るには、いろいろな方法がありますが
オープンソースが技術者から見ると意味があるのかが表現できるのではと思います。

まさぼうさんこんにちは。いつも、コメントありがとうございます。

SIは最近は、本当に激変だとおもいます。自分の感覚としては、
- 1.エンドユーザ→元請け
- 2.元請け→SI→SI
で、まったくカルチャーが違うというか、評価のポイントが違うような気きがしています。評価が違うどころか、経済圏が違うような気もしています。

オープンソースは、2の経済圏向けだとおもうのででうが、正直、エンジニアの未来を考えて、独立した技術者を出そうとすると、どうしても、1の経済圏で戦う方法を身につける方法があるとおもいます。

正直なところ、今は、オープンソースは僕はお休みして、本業に力を入れています。やはり、SI崩壊の波と、日本経済が今後どうなるか不安なので、そちらから身を守ることに必死に取り組んでいます。

最近、コミュニティーというのも、ありかたについて非常によく考えます。特に、新しいことをやろうとすると、どうしても、抵抗勢力が現れたりするので、いかに、少数精鋭で勝負するかや、利害関係についてどれだけ事前に話し合えるかも重要だと思っています。

コミュニケーション能力というのは、本当に、日本人は弱いところだとおもいます。小さいころからアメリカのように、自己主張をすることを教育されていないどころか、自己主張をしないのが美徳のようにおしえられてしまっているので、とにかく議論ができません。

違った意見を持つことに議論する価値があるのであり、日本では多くの場合、ちょっとでも違う意見を持つときちんとした議論もせずに敵視する文化なので、お互いの意見や見方を参考に新しいことを考える事が出来ないのです。

人から言われたことをやるのではなく、自力で現実で役に立つ答えを見つける活動がまったくできないひとが多いことに、最近、危機感を感じています。でも、きちんと議論が出来る人もいるので、いかにそういう人同士がつながるかが、今後のインターネットが与える社会的影響なような気もします。

まさぼう

いいづかさん、お返事ありがとうございます。

>SI崩壊の波
そんなにひどいものですか?
実はいろいろな人が言うほど実感が出来ていません。
でも、いろいろ聞いていてビジネスモデルが疑問な会社が増えてしまったのはよく感じます。

>コミュニケーション能力というのは、本当に、日本人は弱いところだとおもいます。

よく「技術者」=「コミュニケーションが弱い」という人がいますが、
ほんとでしょうかね?
その他の日本人同様に弱いという程度しか感じないのですが・・・・
逆に、私は日本人の中でコミュニケーション力が高い人が多いのが、
技術者のような理系人間のように感じます。
そのぶん、確かにシンパシー同調能力は弱いですが・・・

SI崩壊の波は、かなりひどいです。
ただ、崩壊といっても、二極化が激しいと思います。影響を受けていない人は全く受けていないどころか、その波を自分に有利に利用して逆に儲かっていると思います。
(はたして、自分で商品やフリーソフトなどを独立して作って他業種に対する表現が出来るような人や企業をSIという定義に入れるべきかという点で、正直、疑問です)

酷いのは、本当に、自社のリソースの技術評価とかとは無縁な、いわゆる、人売りとか人月商売といった成果物指向でないビジネスをしているところです。こういうところは、本当に単価も安く、これではせっかく人がやらない技術を勉強したかいがあるのかなあ?と個人的には思ってしまいます。

技術者や理系の人は、正直な話、コミュニケーション能力もあるし、プレゼンテーション能力もはるかに、一般より高いと思います。
ただ、「表現の場」を失っていて、まわりの空気にそれらの能力が殺されてしまっているというのが一つ、もう一つは、情報収集の機会を奪われてしまって、思考力をマーケティングなど、ビジネスで実際に効果があるところで発揮する機会を奪われてしまっているというのが僕の所感です。
(ただ、そこまでやれる人は現実には少ないと思いますが、他の職にくらべて割合は圧倒的に高いと思います)

僕も、技術者がきちんとビジネスに関する情報を得られるようにして、きちんと発言出来る空気を社内に作っていけば、かなり強いと思います。
しかし、それはIT業界内の抵抗勢力との戦いを宣言するに等しいので、エンドユーザや他業種との連携に力を入れています。

なので、うちの会社は、「マーケティング部門」というのは最小限にして、技術者で固めた「R&D部門」をメインに活動していこうと思っています。

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