キャリア20年超。ずっとプログラマで生き延びている女のコラム。

このこのこと

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 昔、一人っきりで客先に実機テストに行かされたことがあったんですけど、「ここで作業してください」と通された部屋に、空きコンセントがなかったんですよ。

 テストのために持ち込んだノートPCのバッテリがもつのかだいぶ不安だったんで、「テスト中に電源落ちたらヤだしなあ」と思って、通りすがりの社員の方を呼び止めて、「あの、“この子”の電源を……」と言ったら、わけがわからない、って感じの表情をしながら、「このこ?」と聞き返してきたので、「えっと、この子……」とノートPCを指さしたら、盛大に笑われまして、この時点でようやく「“この子”って言ったのがおかしかったのか!」と気付きました。

 その後、空いてるコンセントを教えてもらって、テストは無事に終えたんですが、職場に帰る道すがら「そういえば、これまで“この子”って普通に言ってたような気がするけど、笑われた記憶がないな」と思いまして、試しにリーダーにきいてみました。

「あの、“この子”のことなんですけど」
「なんだ? どっか壊れたのか?」
「あっ、やっぱ、スルーしましたね」
「なにが?」
「お客様に“この子”って言ったら笑われたので……」
「……う~ん。でも、おれもいつも“こいつ”って言ってるからなあ。女の人ならそれが“この子”になってもおかしくないんじゃないかな」

 とかいった会話をしていたら、チームのメンバがわらわらと集まってきて、座談会状態になってしまいました。

「おれは気にならないけどなあ」
「“子”ってのがおかしいんじゃないんですか?」
「だけど、“この人”はもっとおかしいだろ」
「“この人”はありえねえな」
「おれは普通に“こいつ”って言ってるけど、“この子”は違和感ある」
「おかしいと思われてたのか……」
「でも、女の人が“こいつ”って呼ぶ方が違和感だし、“この子”でいいんじゃねえ?」
「だったら、普通に“マシン”でいいだろ」
「あっ、おれ、客先で“マシン”って言って、首をかしげられたことあった」
「ああ、“マシン”だと工場にあるような機械を想像しちゃうのかもしれませんね」

 といった感じでがやがやした結果、「身内ではどうでもいいけど、お客様の前では“パソコン”とか“PC”とか呼ぶ方が無難だろうな」と、リーダーさんが結論付けたので、「今度からは気を付けます」ということで、話は着地しました。

 その時以来、自分が何気なく使っている言葉は、実は全然、一般的じゃないんじゃないの? という思いが消えず、お客様に何かを説明する時に、「この用語は通じるの?」「この表現でわかるの?」といちいち気になってしかたありません。

 わたしはずっとプログラマ職で、ユーザさんと接する機会があまりないので、プログラマ間で気軽に使っている表現が、どれくらい特殊なのかの、ギャップみたいなものがわからなくなってて、わたしの話をお客様は内心「?」を出しまくりながらきいてるんじゃないかと考えると、ちょっと怖いんですよね。

 とか言って、実はプログラマの中でも、わたしの言葉のチョイスが独自すぎるってだけだったらどうしよう……なんかありそうな気がしてきた……ドキドキ。

Comment(7)

コメント

たーにゃ

ボクはプログラマですが、クラスやインスタンスに対して、この子・この人ってよくいいますよ。
「動画へのアクセスはこの人がやってくれます」とか。

Anubis

PCは恋人同然だ。この子で間違いは無い。
(ただし人間の恋人はいない)

ちなみに私の場合、愛情たっぷりの笑顔でPCを「この子」と呼んだら、
一発で通じた。(ただし引かれた)

「この子」と呼んだ時の表情にもよるのかもしれません。

Buzzsaw

私の場合が真逆ですね。
仕事関係やプライベートなどの区別なく、周囲の人間関係の間では、ファイルもPCもクラスもDBも食べ物も酒も人間も、あらゆるオブジェクトは「この子」扱いです。思想や概念ぐらいですかね、当てはまらないのは。
面倒くさがりの集まりなのかもしれませんね。

仲澤@失業者

老人プログラマの仲澤です。

我々が良く使う「死んだ」だの「落ちた」だのも一般の方には意味不明かもしれません。発生した例外やダンプを「死亡診断書」と言うこともあります。

自分も年なので「人類はチンパンジーと同じ祖先から"派生"した」などとしゃべってしまいます。・・・やれやれ。

いまでもそうかもしれませんが、大昔、大学のサーバーに名前がついてました。
レスポンスの悪いサーバーを「最近キャサリンの機嫌がわるい」とかいってた様な(^^;)。

ちなみに、自前のMac Book proは「ぷろっち」と呼んでます。
壱号と弐号がいますが、壱号は死亡中です(泣)。

ひでみ

こんばんわです。ひでみです。


たーにゃさん。

あ~、私もクラスのことを「この子」って呼んでる時、ありますね。
「この子が抱え込みすぎなんで、見直ししたいんですけど」とか。
まわりの人は何も言いませんけど、あれはどう思われてるんだろう。


Anubisさん。

そうかっ。愛情たっぷりの笑顔で言えば通じるのかっ。
でも、その後、ユーザさんとの円満な人間関係を構築することの難易度を、はねあげてしまいそうな気がするんですが……。


Buzzsawさん。

振る舞いやロールがあるのなら、それはすべてオブジェクトであり、それをすべて「この子」と呼ぶ、ということでしょうか?
う~ん、その発想はなかった。


仲澤@失業者さん。

友人たちとのおしゃべりの中で「それって人間関係がデッドロックしちゃってるよね」って言って、「わけがわからない」とつっこまれたことがあります。
「256ってずいぶんとキリのいい数字だね」と言って笑われたり。
多分、無意識にいろいろ通じないこと言ってると思います。
こわい……。

pepper

古い人だと、分かるかと思いますが、
「そいつを殺せ」とか、気軽に使っていて、電車で周りの人が遠ざかっていったなんてのが、いつぞやの話にあったかと。
自分だと、外の人がいる時には、タスクを止めてなんて、言っていたように思うのですが、昔の話。(最近、そんな仕事してないので)
今の職場は、世代が変わったのか、「そいつが悪い」と言っても理解してもらえない人が多くなりました。
まあ、sync, sync, sync と言ったら、もっと分からないでしょうが。

通りすがり

私はプログラマーさんとは何の関係もないものですが、使ってるツールを擬人化しちゃうのって、職人(デザイナーとかも)にありがちよね〜、と思いました。
道具に愛着があって無機質な物ではなくなってるんですね。失礼しました。

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