キャリア20年超。ずっとプログラマで生き延びている女のコラム。

SFでプロジェクトマネジメントを学ぶ? ホーガン『星を継ぐもの』

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 6月のお題は「人生の1冊」だそうです。

 というわけで、「人生の1冊」というほどのものではないんですが、高校生の時に初めて読んで以来、何度も読み返している小説をご紹介させていただきます。

ジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの』(Inherit the Stars by James Patrick Hogan)

 SF小説好きならほとんどの人が知ってる名作です。

 1977年に発表、日本語訳の初版は1980年に発行されました。いまでも一般の書店で見かけることがあるので、いまだに売れ続けているのでしょう。

 この物語は「宇宙服を着た人類とおぼしき5万年前の死体が月面上で発見される」ところから始まります。なんかもうこの設定だけでワクワクしますよ!

 「ありえない死体」の謎を解くために、世界中から優秀な科学者たちがかき集められます。

 死体を研究する者、宇宙服の素材を研究する者、所持品に書かれていた文字を研究する者……さまざまな分野のエキスパートが束になってかかってもその謎は解けず、科学者たちは行き詰ります。おまけに、自分の研究大事さのあまり、人間関係がどんどんこじれていき、プロジェクトは暗礁に乗り上げた状態になってしまいました。

 そんなところに投入されたのが原子物理学者のハント博士。この作品の主人公です。

 ハント博士は科学者間で情報が共有されていないことに気付き、それぞれの部署に顔を出して情報を吸い上げ、他の部署のヒントになりそうな情報をみつけるとそれを横流し(?)することを始めます。

 解けない謎に疲れ果てていた研究者たちは、ハント博士の働きかけからあらたなひらめきを得て活気を取り戻します。

 そして、仮説が立てられては覆されるを繰り返した末に、ハント博士が導き出した結論とは……。

 というのがだいたいのあらすじです。

 この小説はSFですけど、かなりよくできた推理小説のようでもあります。

 推理小説で謎を解くのは探偵ですが、この物語においては、研究者たちがお互いに知恵を出し合って謎を解き明かすのです。

 どの情報とどの情報を組み合わせるか、どの情報をどの視点からとらえるか……ちょっとした違いがさまざまな見解を生み出します。皆が自分の考えの正しさを証明することに必死です。

 その中にあって、常に一致する意見は「真実は1つ」ということ。

 だからこそ、誰も反論ができない解答を求めて、科学者たちは研究し、議論し、時には衝突します。

 高校生の時にこの小説を読んでわたしは、「1人で謎を解く探偵より、みんなで謎を解く科学者たちの方がカッコイイ!」と思いました。

 その気持ちは変わっていませんが、人間関係のしんどさを体験してしまったいまでは、この小説を憧れのまなざしでは読めません。……ちょっとせつない(苦笑)。

 そんなわけでこの小説にはハデなシーンがほとんどなく、科学者たちが議論を重ねているシーンがひたすら続きます。そのまま映像化したらさぞやつまらないものになるでしょう。

 けれど、この小説はハンパなくおもしろいのです。

 同じ情報を元にしているのに視点をかえるだけでまるっきり別の解釈ができるというワクワク感、そして、たくさんの情報がきれいにまとまって壮大な絵が浮かび上がってきた時のドキドキ感は、何度読んでも色あせることがありません。

 そして、物語の結末で描かれる人間賛歌に素直に感動してしまうのです。こんなに読後感が気持ちよい小説はめったにありません。

 ところで、ハント博士がやっているのはいわゆる「プロジェクトマネジメント」というやつですね。

 いまになって読むと、彼がどれだけ大変なことをやっていたのかがよく分かります。う~ん、わたしの中の理想のプロジェクトリーダー像は、ハント博士だったりするのかもしれない。

 ちなみにこの小説は『ガニメデの優しい巨人』/『巨人たちの星』/『内なる宇宙(上・下)』と続きます。さらに日本語訳がでてない続編もあるらしいです。とはいっても『星を継ぐもの』だけでも完結した作品として読めますので、「あんまり長いものは……」と気後れせず、よろしければ読んでみてください。

 SFというと「むずかしい」と敬遠する方が多いんですが、SF小説を読むコツは「分からなかったらスルーする」です。

 分からない部分を分からないと悩んで、そこで読むのをやめるのは、ものすごくもったいないことです。とりあえずスッとばして、雰囲気だけを楽しみましょう。それでも十分に話は通じます。とにかく、分からないことがあっても置き去りにしてガンガン読み進めましょう! この『星を継ぐもの』はSFに慣れてない方にもとっつきやすいと思いますので、SF初心者の方におススメです。

 ちなみにわたしのイチオシキャラは、ダンチェッカー博士。なかなかのツンデレっぷりです(笑)。

Comment(9)

コメント

Jitta

おもしろそうですね。見かけたら、読んでみたいと思います。

私の方は、『反逆者の月』を何度も読み返しています。
http://www.amazon.co.jp/dp/4150116016/
この中で、戦闘を前に艦長が「最高の艦と、最高の乗員と共に戦えることを誇りに思う」と放送します。読んで、「言われたい!」と思いましたね。
「最高の人材と共にプロジェクトを開始できることを誇りに思う」

kktk

はじめまして。

『星を継ぐ者』は10年くらい前に、ひでみさんと同世代の女性にすすめられて、
読みました。

その後2~3回読みましたが、ひでみさんのような視点は、恥ずかしながら持ってませんでしたね。

ハントがプロマネならダンチェッカーはなんだろうなぁ。

bonbon

巨人たちの星で完結だと思っていました。
ちょっと本屋に行ってきます。

ひでみ

こんばんわです。ひでみです。


Jittaさん。

興味をもっていただけたのならうれしいです。
『反逆者の月』は読んだことがありません。本屋でみかけたらちょっとのぞいてみようかと思います。


kktkさん。

ハントがプロマネなら、ダンチェッカーは……私のイメージではメインプログラマですかね。


bonbonさん。

『内なる宇宙(上・下)』は前の3作とちょっと毛色が違う感じで、コンピュータ屋としてはなかなか興味深い内容です。
『内なる宇宙』もおもしろいですが、同じ人工知能ものなら『未来の二つの顔』の方が私は好きです。

bonbon

私も元々コンピュータ屋ですので読みたいと思います。
アシモフやヴォークトからSFに入ったので、ホーガンは衝撃でした。
ホーガン作品コンプしようかな^^

巨人三部作でのイチオシキャラゆーたら計算機たち。
こいつらスゲー。まじほしい。

ひでみ

こんばんわです。ひでみです。

επιστημηさん。

ゾラックはかわいいです!
たまに、うちのPCも「タリー・ホウ!」とか叫んでくれないかなあ、と思います。

ちょびちょび

あー。苦学生(死語?)時代に読みました。星雲賞だったから。ヒューゴー賞とかネビュラ賞とかも結構チェック済みです。読書量はわりと多い方だと思うけど、主体性がないんですよね。そうか。星を継ぐものはプロマネ物語だったのか。そーいう視点で読んだことなかったなー。人生の1冊が夏への扉って、どんだけミーハーなんだ。ちょびちょびは……。思えばその頃から逃避癖があったかな。月は無慈悲な~を読んで、コンピュータ関係の職に就きたいと思ったんですよね。個人請負という点はクリアできたけど、マニーとはちょっと職種が違ったかな。

ひでみ

こんばんわです。ひでみです。

ちょびちょびさん。

私もヒューゴー賞/ネビュラ賞という肩書きがついてると、とりあえず読んでみようかな、という気になります。この基準だとそんなにハズレはないですよね。
最初に読んだ時は高校生だったので、プロマネの存在自体を知らなかったんですけど、はじめてプロマネに関する文章を読んだ時に、なんかどっかでこんな感じのことを読んだ気がする、と思って「そうか、『星を継ぐもの』だ!」と思いついた次第です。

ハインラインの『夏への扉』は読んだことがないです。あんな有名作なのに……。「猫小説」ときいた時点で読む気が失せてしまいました(←どういう偏見)。

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