若手の目からみたこの業界のアレコレ、気の向くままに書いてみます。

FLOSSのビジネスユースはなぜ面倒なのか

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【Intro】

 はじめにお断りしておきますが、わたしはFLOSSに肯定的な立場です。肯定的というより、推進派であるといっても過言ではないでしょう。そんなわたしではありますが、業務として接するときは「FLOSSは使いづらい」と思ってしまいます。

【身近なFLOSS】

 いつの頃からか、「フリーソフトウェア」や「オープンソースソフトウェア」と呼ばれているものの総称として、「FOSS(Free/Open Source Software)」なる単語が登場しました。最近では「FLOSS(Free/Libre and Open Source Software)」に変わってきているようです。個人的にはこれらの単語は好きではないのですが、それはさておき……。

 普段、1ユーザーとして生活をしているとなかなか気付きませんが、意外と身近に「FLOSS」の恩恵を受けているのだなぁと思う瞬間があります。普段よく見るWebページなどは、FLOSSを使って配信されているものが多いでしょう。そういえば、某カラオケ機のリモコンが、組み込みLinuxで動いているのを見たことがあります(使っている最中に偶然リモコンの電池が切れ、充電台にのせた際にLinuxのロゴが見えたのです)。

 そんな普段お世話になっているFLOSSですが、正直「面倒だなぁ」と思う機会もないわけではありません。それは「ユーザーの立場」から「クリエータの立場」になったときです。

【「面倒だなぁ」と思う理由】

 FLOSSをそのまま使うだけならいいのですが、FLOSSにちょこっと手を加えようとしたときが、まさに「面倒だなぁ」と思う典型的な瞬間ではないでしょうか。

 わたしが過去に聞いたことのある話の中に、「某CMS(Content Management System)を使って企業サイトを構築する」という案件(以下、案件A)がありました。その案件では、A社がそのCMS自体のセットアップやサーバの運用を担当し、B社がデザイン部分を担当するというものでした。その話を聞いたときは軽く流したのですが、「この場合B社が作成したデザインってライセンス上の取り扱いはどうなるんだっけ?」という疑問が脳裏に浮かびました。

  • フルスクラッチで作成したらライセンス上の問題は考えなくても良い?
  • 某CMSのAPIを使ったら、CMSのライセンスに準じなければいけない?
  • 既存のデザインをベースに作成したら、元のライセンスに準じなければいけない?

 さて、この疑問に皆さんは自信を持った答えをすぐに出せますでしょうか。ある程度FLOSSになれた人なら難なく答えを導き出せると思いますが、果たしてそのような人材が都合良く身近にいるでしょうか。もちろん、ライセンスを見ればこれらの答えは見つかるでしょうが、その答えを見つけるまでにはそれなりに時間がかかってしまうのではないでしょうか。この「それなりに時間がかかる」という事実が、「面倒だなぁ」という感情を生むそもそもの原因であると考えています。

 では、「なぜそれなりに時間がかかるのか」という点に目を向けてみましょう。

 まず、「ライセンス自体に馴染みがない」というのが一番に挙げられる理由ではないでしょうか。それが良いことかどうかは別にして、普通に生活していて「ライセンス」なるものに触れる機会は早々多いとは思えません。仮にあったとしても、それに正面から向き合う機会がどれくらいあるでしょうか。全ての場合に当てはまるとは言いませんが、人は馴染みのないものに触れると、程度の差こそあれ、なにがしかの負の感情を抱くものだと思います。

 ライセンスの文言が「直感的でない」というのも、理由の1つに挙げられるかもしれません。例えば、「GNU 一般公衆利用許諾契約書バージョン2」の日本語参考訳を例に見てみましょう(念のため申し添えておきますが、日本語訳はライセンスへの理解を助けるための参考資料として提供されています。正式なライセンスは英語版テキストのみです)。

 同ドキュメント中には下記のような文言があります。

また「『プログラム』を基にした著作物」とは『プログラム』やその他著作権法の下で派生物と見なされるもの全般を指す。すなわち、『プログラム』かその一部を、全く同一のままか、改変を加えたか、あるいは他の言語に翻訳された形で含む著作物のことである(「改変」という語の本来の意味からはずれるが、以下では翻訳も改変の一種と見なす)。

 一見、非常にわかりやすく思えます。が、「著作権法の下で派生物と見なされるもの全般」と聞いて、直感的にイメージできるでしょうか。少なくともGPLは、著作権を行使することにより各種の「自由」を実現していますが、ここで「著作権法」なるものが登場した時点で、「直感的」な理解は難しいでしょう。一般的に法律は馴染みのないものです。別な言い方をすれば、「何となく理解できるが自信を持って理解したとはいえない」といった感じでしょうか。この「何となく」な状態がライセンスへの理解を妨げ、必要以上に時間をかけてしまう一因になっているのではないでしょうか。もっとも、「ライセンス」というものの性質上、これはいかんともしがたい部分があるかと思いますが。

【ではどうしていけば改善するか】

 これらに対する有効な策というのはあるのでしょうか。「ライセンス」というものは、ある程度厳密性が求められるものであるため難しいとは思うのですが、A4用紙1枚程度にまとめられた「早わかりガイド」のようなものがあれば、少しは違うのかなと思うことがあります。イメージ的にはCreative Commonsで用意されているページのようなものが、各ライセンスに用意されていれば敷居は大分下がるのではないかと考えています。

 もう1つ有効だと考えるのは、「ケーススタディの充実」です。「こういう使い方をしたいなら、こういう義務が生じるよ」という事例を、端的に表現したペーパーがあると判断の助けになるのではないでしょうか。逆に「こういう義務が生じるのは、こういう使い方をしたときだよ」という事例もあるとなお理解しやすくなるでしょう。もっとも、この「ケーススタディ」についてはあちこちで見かけるような気もするのですが、「ビジネス寄り」のネタが少ないように感じています。個人的には「ビジネス寄り」な資料が増えてもらえると非常にうれしく思うのですが……。

【Outro】

 ここまでに述べたことは、わたしの身近なところで見聞きしたことをベースにしています。それらの中には無理解や誤解に基づくものも多々含まれていることでしょう。

 わたしが必要だと考えるものは、「ライセンス原文やその日本語訳を読む一歩手前に読む資料」です。それも抽象的なものではなく、実際の業務に結びついたできるだけ多様なケースに基づいた資料です。勝手なことをいうようですが、FLOSSの中心にいる企業ないし団体がこの手の資料を用意してくれれば、もっとビジネスとFLOSSは仲良くできるのではないかと考えています。

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