技と名がつくと深入りしてしまうスキルマニアのエンジニア

サバイブのカード

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 ぶるんっ。

 ハイテク化された車の運転席。キーをまわすと、エンジンがブートする。電気が供給されはじめ、システムはいっせいに目をさまし始める。カーステから音が流れ出し、カーナビは行き先の入力を待っている。

 気がつけば車も重装備になった。そのうち、変形ボタンでもついてくれたら最高だ。しかし、人を乗せて運ぶという基本機能は変わらない。そして、車を使うことによる危険も変わらないだろう。

■2つのカード

 危険という概念は「リスク」と「デインジャー」の2つの要素にわけることができる。リスク管理という言葉があるように、リスクは統制・管理可能である。それに対して、デインジャーは管理不能な要素のことだ。

 高速道路でアクセルをめいっぱい踏み込むとどうなるか。すぐに制限速度を超えるだろう。そのままでいると、オービスやパトカーに捕まって、スピード違反の切符を切られる可能性がある。これがリスク。リスクは管理することができる。自動速度違反取締装置がみえたら、アクセルを緩めるめればいい。スピードを落として通りすぎるのだ。

 誤解しないでほしい。そもそも、制限速度を超えてはいけない。もしも、交通事故の原因となったとしても、責任は自分にある。スピードの出しすぎは本質的にデインジャーだ。

 どこまでがリスクで、どこからがデインジャーなのか。難しいのはその線引きである。たしかに、法定速度というラインが存在する。しかし、車の運転スキルは個人のものだ。道の流れもある。時速nキロまでがリスクとは一概に言えない。その場、その時の状況で適切な判断が必要であろう。リスクに変換可能なデインジャーである。

 飲酒運転は明らかなデインジャーである。何か問題があれば、100パーセント本人の責任だ。いや、問題があればではない。確実に発生する。そして、責任の問題でもない。やってはいけないことなのだ。「飲んだら乗るな」とはデインジャー回避のスローガンでもある。リスクに変換不可能なデインジャーは避けるべきだ。

■矛盾するカード?

 「君子、危うきに近寄らず」

 「虎穴に入らずんば虎子を得ず」

 どちらが正しいのか? という問いはナンセンスだ。「危うき」とはデインジャーであり、「虎穴」とはリスクである。危険の種類が違う。君子は、デインジャーは遠ざけるべきだと教えている。もういっぽうは、リスクは何のために必要かと伝えている。虎子というリターンのためだ。

 大きな虎は大きな虎の子を育てている。虎穴に住む虎の大きさが、リスクの大きさではないのだろうか。ハイリターンが欲しければ、ハイリスクをとる。より大きな虎の穴に挑戦しなければならない。自分の技量を越えていれば、飢えた虎に殺されてしまう。あまりに無謀な挑戦はリスクではない。デインジャーとリスクの境界線。誤ると自分の命が危険にさらす結果になるだろう。

■世界は変わる

 世界は同時不況に突入したのだとか。サブプライム問題。リーマンショック。大きなニュースだけではない。システム開発の仕事が減っているという実感もする。派遣がどんどん切られている。

 ぐつぐつと煮えた鍋の中にカエルをいれるとどうなるだろうか。カエルは驚いて鍋から飛び出すだろう。しかし、鍋の中身が冷水であればカエルは平然と泳ぐ。そこで、火をかけてじっくりと鍋を煮立たせる。すると、カエルは温度の上昇に気がつかず、死亡するという。

 環境は絶えず変化する。問題はその変化に気づくこと。そして、変化に対応すること。不況の予兆はまったくなかったわけではない。まわりの変化に気がつかないゆでガエルでいてはいけない。チーズはもう消えたのだ。

■日本は変わる?

 下請け、孫請け。2重派遣……。IT業界は、人身売買のようなシステムをもっている。悪いとはいわない。そのおかげで、フリーランスの仕事があるからだ。わたしも、そのシステムを利用させてもらっている人間のひとりだ。と同時に、釈然としない思いもある。不況とはある種の暴風雨だ。あらしの後に、少しでも風通しがよくなっていれば嬉しいかもしれない。

 日本は比較的ダメージが少ないという説もある。たしかに、今のところは派遣切り程度で済んでいるといえば済んでいる。しかし、そんなことは当事者にはいっさい関係ないだろう。切られた本人が言うのだから間違いない。

 「このさきどうすれば……」

 インタビューでよく聞く、ステレオタイプな声がする。しかし、不安を口にしても前へと進むことはできない。

 マネーゲームに興じた投資家のせいなのだろうか。株式会社は投資家、資本家がいないと成立しない。インフラみたいなものである。ふだんは気がつくこともなく、その恩恵にあずかっている。こういう時だけ持ち出して、犯人探しをしてもあまり意味はない。そもそも、無力だ。

 できないことを考えてどうする。わたしたちは「見えざる手」を持ってはいない。見える手を打つしかないのだ。必要なのは具体的な何かである。

 こういう時こそ、ネットの力を実感する。経済のシロウトでも、考える素材が集められるからだ。

  • 景気は循環する
  • 不況は定期的にやってくる
  • 回復するまではだいたい1~2年ぐらい
  • 今回は恐慌といわれるレベルらしい
  • 景気回復は長引く可能性がある

 さて、この局面で次の一手を決めなければならない。呆然自失していても「このさきどうするか」を考えることぐらいはできる。

 今、できることは、「考えること」だ。

■わたしは変わる……かも?

 ピンチの中にこそチャンスがあるという。ちょっと待て、宝の山へとつながるけもの道はそう多くはない。チャンスをモノにできた人がどのくらいいるというだろうか。どれを選んでも、しょせんはラットレースじゃないのか。

 何が正解か。それは、わからない。しかし、座して待っているだけでは正解はやってこない。それは、わかっている。答え合わせは不況を切り抜けてからやればよい。休んでいるヒマはないのだ。

 高速道路の行き先は間違っているのかもしれない。道路が実は工事中で、途中までしか道がないこともある。それは、デインジャーでもリスクでもなく戦略ミスという。こういうときは、自分の道を再点検するいい機会である。

 阪神大震災を思い出す。あの日、高速道路は倒壊した。まったく想像できなかった。それをドライバーが予測して対応策を考えろというのも酷なハナシである。日ごろから心がけていれば、対応できていたのだろうか。運転スキルが高ければ回避できていたのだろうか。

 わたしは何もできなかった。それでもこうして生きている。神戸も元気だ。

 ほんとうは何もしなくても時が流れるにまかせていれば、嵐は通りすぎるのかもしれない。しかし、それではつまらない。せっかくの不況である。思う存分、楽しんでみたい。

■スキルも変わる……いや、スキルは増える。

 新年早々、契約打ち切りで今月から無職だ。

 せっかく、まとまった時間ができたのだ、ムダに過ごすのはもったいない。ちょうど短期集中で、おもしろそうな講座がある。デザインの勉強をすることに決めた。しばらく、マジメな学生のフリをしよう。

 スキル不足や、素行不良が原因ではない。それが原因なら半端なくヘコんでいるだろう。契約先でもハッキリと言ってもらえた。むしろ、残って欲しい。景気がよくなったら戻ってきて欲しいと。社交辞令であっても、ありがたい言葉である。

 リスクは覚悟のうえでのフリーランスだ。文句はない。

 どこか遠くからレベルアップを告げるアラート音が聞こえる……。

【本日のスキル】

  • コラムニストスキル:レベル16
  • メカフェチスキル:レベル4
  • カードデッキスキル:レベル1
  • 危険感知スキル:レベル8
  • 心に余裕を持つスキル:レベル3
  • 自己紹介スキル:レベル0
Comment(2)

コメント

はがねさん、田所稲造こと、田所憲雄です。新年、あけましておめでとうございます。……って、あまりめでたくもないのが現実ですが……。生きてさえいればそれで良し、としなければいけませんね。今日1月5日は、重い腰を上げて、門戸厄神に初詣に行きました。

 興味深く読ませていただきました。特に、シンセサイザーの記事と、このサバイヴのカード。シンセサイザーのほうは、僕の友人が大阪芸大の音楽科に行って音信不通だったのですが、昭和の末期に、100回払いローンを「石橋楽器」(東京・お茶の水)で組んで、KORGのシーケンサーとか、YAMAHAのDX7という、坂本龍一が使っていたようなシンセサイザーを買っていました。

 確かにシンセサイザーは、基本の正弦波交流や矩形派交流をいじくって、現実にある楽器に似たそれっぽい音を作るのですが、あれはおもしろいですね。プリセットされている音よりも、音を作る方が遙かにおもしろい。向谷実さんなんかも活躍していた時代のお話でした。確かに、基本の波形をいじくる箱だよな、という気がします。入力があって、出力があって、間に箱がある。まさに。

 また、阪神大震災の高速道路の倒壊ですが、この感覚は、神戸エリア以外の方には、実感として湧かないのではないかと思うのです。経験して、そばで見て、たとえば、縁起でもないのですが、首都高が倒壊している、地下鉄銀座線が大開駅みたいになっている、みたいな映像をリアルで見ないと、東京モノには分からんと思うのです。こればっかりは、どんなに運転巧くても避けようがないですからね。わかります。

ではー。

>田所さま

音さえいいのが作れてしまうと、メロディとかどうでもよくなったりしますね。今では「着うた」とかいっているケータイでさえ、以前はFM音源搭載でした。同じ設定でも、オクターブが違いや、発音時間の工夫で、ガラっと音の表情が変わってみたりとおもしろかったものです、音の隙間を狙って4音ポリ(4和音とは言いたくありません)でも8トラック分のデータをトリッキーな方法で突っ込んでみたりとさんざん遊びました。

そういえば、もうすぐアノ日がやってきますね。当事者として思うところは多々ありますが、この日だけは、穏やかな気持ちですごしたいものです。

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