エンジニア職から営業職へ転換した自分。苦しくも楽しくもあるこのIT業界について、職種を変えたからこそ分かる自分なりの視点で流行のキーワードをぶった切ります。

Androidの戦略(5)~オープンアーキテクトという名の諸刃の剣

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■第9章■PC98 VS IBM/PC

 普段何気なく使っているWindowsマシン、このWindowsやMS-DOSというOSの動くパソコンを昔はIBM/PCやDOS/Vと呼んでいた。

 もともとこのIBM/PCは誰が設計し、誰が作ったのか。読んで字のごとくIBMである。

 Windowsが普及するかなり以前、それまで日本国内でパソコンと言えば日本電気(NEC)の製造するPC98シリーズがほとんどであった。

 CPUもV30(Intel 8086の上位互換CPU)という日本電気製チップを搭載したマシンで、当時はその利用者数の多さから「国民機」と言われたほどである。

 当時はパソコンといえばPC98、OSといえばMS-DOS(IBM/PCで動作するMS-DOSとPC98で動作するMS-DOSは異なる)、 ワープロと言えばJust Systemの一太郎、日本語変換のFEP(フロントエンドプロセッサ)と言えばATOK、表計算はLotus123、これら すべてをインストールしてもフロッピーディスク1枚に充分保存できる程の容量だった。

 またこの当時は日本電気とIntelでCPUに関する訴訟問題が長引いた時期でもある(詳細は割愛する)。

 ではそんなにも日本国内で使われていたPC98はなぜ消えてしまったのか?

 日本国内では独占状態だったPC98だが、海外ではIBMがパソコンの普及を促すため、ネジ穴一つの位置から全ての構造など基本アーキテクチャをオープンにしたのである。

 その結果、同じようにパソコンを製造していたメーカーは、パソコン本体をスクラッチ(全くのゼロからと言う意)から設計するリスクを負わず、また 設計能力はなくても製造能力や部品の調達能力はあるというメーカーに対してパーソナルコンピュータ市場への参入ハードルを下げたのである。

 考えてみて欲しい。

 もし自分がメーカーの人間で、今まで1つの製品を作るのに長い年月と膨大な開発コストを費やしていたものが、それを真似すれば遥かに安いコストで、しかもその製品が世界規模のシェアを取れる可能性があるとしたらそのアーキテクチャをこぞって採用しないだろうか。

■第10章■オープンアーキテクトという名の諸刃の剣

 前の2つの章で「ベータ VS VHS」と「PC98 VS IBM/PC」の構図をざっくりとではあるが説明した。

 AndroidとiPhoneを比べた時に「なぜ今後Androidが普及するのか」、日本の携帯電話が「なぜガラケーに成り下ってしまったのか」、漠然とでも理由を推し量って頂けただろうか。

 単なる話題性やそれに搭載された機能ではない。

 まず第一に普及を目指し、自己の利益をそこに求めるのではなくその後を狙って行く。普及を促すための思想全てが戦略である。しかし普及を促すためのオープンアーキテクトという考えは非常に危険なものでもある。

 それを利用することに利益を求めず、なおかつ世に受け入れられ、多くのユーザが使用すればおのずとマーケットが出来上がる。だがその一方で世に多く取り入れられ、オープンに晒されたモノを利用したマーケットは常に他社にそのシェアを脅かされるのである。

 Googleが目指したのは他社に自社のシェアが脅かされても、まずは普及を促し、それが世に蔓延した時点で囲い込む、そんな世界規模の「囲い込み大作戦」なのかもしれない。

 自分が製造メーカーの人間だったら魅力ある製品を作り出し、自社の製品でユーザを囲い込み、更にその製品の付加価値として様々なサービスや仕掛けを考えるだろう。

 狙ったマーケットが大きく成長し、自社に利益をもたらせばそれは戦略としてある意味成功したとも言えるだろう。

 Googleはそれを遥かに越えた地球規模での囲い込み戦略を実行したのだ。

 Googleの戦略は始まったばかりである。この戦略に迷うことなく突き進めるのだろうか?

 もしかするとGoogleのような巨大な企業も、その普及を促す戦略に迷いが生じた途端にガラパゴス化が始まるのかもしれない。

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