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Androidの戦略(3)~Xi(クロッシイ)に見る次世代通信規格

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■第5章■クロッシイに見る次世代通信規格

 昨年のクリスマスイブ(2010年12月24日)にドコモがXi(クロッシイ)という名のLTEサービスを開始した。

 ちなみにLTE(Long Term Evolution)は現在普及しているW-CDMAやCDMA2000といった3G(第三世代携帯端末)と、将来登場する4G(第四世代携帯端末)との間の技術であるため、3.9GやSuper 3Gとも呼ばれている通信規格である。

 ドコモの戦略はどういう考えなのか分からないが、筆者の感想としては「比較的大きな技術なのに意外とひっそりとサービスインしたな」というのが正直なところだ。

 なぜなら論理値ではあるが下りが100Mbps、上りで50Mbps以上(いずれも20MHz帯で)の通信速度を仕様としており、パケット通信のみをサポートしている規格で将来の移動体高速通信事業において規模感を見込める規格だからだ。

 ※ドコモはPDC方式時代に大きなミスをしているだけに、今回も次世代に繋がる技術ではあるものの3Gと4Gを繋ぐ「繋ぎの技術」として控えめなのかもしれない。

 さてこのLTE規格、スタンダードとなることができるのだろうか?

 筆者は、日本国内ではスタンダードになりうる規格だと感じている。

 ただしドコモは世界の移動体通信産業に進出する前に、国内の移移動体高 速通信事業でUQ WiMAXやイー・モバイルと台頭していかなければならず、また言い換えればドコモがこの規格を引っさげて世界を回ったとしても移動体通信産業でのイニシ アチブを取ることは無いだろう。

 それはなぜか?

 LTE自体が4Gとの繋ぎだからという考えもあるが、携帯電話などの通信産業に限らず、今後世界規模で商売をしていくためには中国というマーケットが非常に重要になってくる。

 皆さんもご存知のように、昨今の中国の経済成長は目を見張るものがある。

 一時は中国のビル群建設ラッシュのために世界の鉄鉱石の価格が跳ね上がり、日本では工事に使う資材や一般家庭にある門扉、果ては道路の排水溝の鉄製フタまで盗難が相次ぎ中国に輸出されたのでは…というニュースが連日放送された。

またIT関連機器に必要とされるレアアース類もほとんどが中国に依存し、つい最近も日本と中国の関係悪化から国内で保有しているレアアースが枯渇するのではないかという問題が発生し、他国からの輸入へ切り替える動きが出たほどである。

 個人的には今の中国経済の勢いは昭和40年代の日本の高度経済成長とダブって見えるが、決定的に違うのは「日本は資源が無い国家」であるのに対し中国は「資源が豊富な国家」という点だ。

 また中国の国土面積や人口、産業の成長、政治的に中国がもたらす各国への影響を考えると、この国家を抜きにして世界を制することは不可能と筆者は考える。

  ※ちなみに日本国内の携帯電話とPHS合わせての契約者数は1億22万4500契約(2007年1月現在)であるのに対し中国は7億300万件(2009年7月現在)、実に中国人口の半数以上である。

 国内の契約者数を調べた時期と中国の契約者数を調べた時期に2年の差はあるものの、その2年間で6億件近い契約者数をひっくり返せるとは思えず、これが中国マーケットと日本のマーケットの規模の違いであると認識せざるを得ない数字である。

 ではそんな中国とLTE規格はどんな繋がりがあるのか?

 中国でも次世代の移動体高速通信事業は始まっている。通信規格も日本と同じLTEだ。

 では日本も中国というマーケットで勝つことができるのではないかと感じるがそんなに簡単ではない。

 日本でドコモがサービスインしたLTEと中国で始めようとしている規格は同じLTEだが似て非なるモノなのだ。

 日本のLTEに対し中国で展開されようとしている規格はTD-LTE規格である。

 簡単に言うと日本でサービスインしたLTE規格は登り下りで違う周波数帯を使用するのに対し、TD-LTEは同一周波数帯を使う規格である。

 このためぺアバンドを必要とせず、またガード帯域による通信速度低下を解消するための技術が困難とされているが、無線という限りある資源を有効に活用するという観点からは効率的な規格とされている。

 では中国でこのTD-LTEによる移動体高速通信事業を展開しようとしている企業はドコか?

 中国移動通信、ノキア、エリクソンの3社である。

 中国移動通信は中国国内の自国マーケット発展のため、積極的にイニシアティブを取ろうと考えるのは容易に想像がつく。

 ではノキアやエリクソンが一緒になってTD-LTEを展開しようとするのは何故か?

 言わずもがなである。

 両社はこの中国という膨大なマーケットに目を付け、これからの中国の通信産業を虎視眈々と狙っているのだ。

 次世代通信規格としてドコモがサービスインしたクロッシイ。

 まずは日本国内のサービスとして広く定着するのか筆者も楽しみである。

■第6章■韓流アイドルとマーケット

 最近、韓国のアイドルたちが日本で大ブレイクしている。

 彼ら彼女らの人気の秘密は芸能レポーターに任せるとして、なぜ韓国出身の彼らがただでさえ厳しいであろう歌やダンスのレッスンだけではなく、他国の言語を勉強してまで、日本の芸能界に進出してくるのだろう。

 普通に考えれば「日本のギャランティが高いから日本に出稼ぎに来ている」と誰もが考えるだろう。

 筆者もそうだと思うが、韓流アイドルたちの出稼ぎと日本のガラケーにはある共通点と言える部分がある。

 皆さんは日本の芸能界の市場規模がどのくらいかご存じだろうか。

直接的な経済効果のほか、その他出版物や肖像権を伴う二次的な経済効果もあるため単純には言えないが、2005年の時点で一兆円を遥かに超える規模と言われている。

 では韓国の芸能界のマーケット規模はどのくらいなのか。

 楽曲の売上で見ると300億円強、実に日本のマーケットの30分の1である。

 当然彼らアイドルたちはCDを発売したり、テレビの画面に写し出されるまでに下積みやレッスンを繰り返し、結果として莫大な投資を受けてデビューしている。

 もちろん、それだけが韓流アイドル達が日本に来る理由ではないが、そこに投資した人や企業は、投資した時間と金額に見合うだけのリターンがなければデビューしても売れるかどうか分からないアイドル達に投資する意味がないのである。

 だが、韓国内のマーケット規模はたったの300億円。

 多くの投資家やアイドル達が、自国の小さなマーケットで同じ仕事を取り合い、しのぎを削っていてはお互いに疲弊し、結果マーケットも衰退することは目に見えている。

 では今の韓流アイドルやプロダクション関係者たちはどうしたのか。

マーケットを海外に求めたのだ。

 自国の小さなマーケットで戦い疲弊することよりも、海外の巨大なマーケットを見据え、世界規模での展開を考えた戦略に打って出たのである。

 その足がかりとして日本の芸能界マーケットは規模感もあり、適度に熟成もしている絶好のターゲットだったのだ。

 また日本で成功を収めれば、それを足掛かりにそれこそ世界規模のエンターテイメントの世界へのステップともなる。

 韓流アイドル達が日本へ出稼ぎに来る理由は、マーケットの規模感がある日本で試し、可能であれば世界を相手に商売ができるかもしれないチャンスがソコにあるからこそ、苦労して日本でデビューするのだ。

 同じことが日本の移動体通信産業にも言えないだろうか?

 もし韓国の芸能界と同様に日本の移動体通信産業の規模が小さかったら、国内での移動体通信産業に期待できるほどの規模感がなかったら、日本の携帯もノキアやエリクソンのように、最初から海外マーケットに活路を求めたのではないだろうか。

 日本の携帯電話がなぜガラケーになったのか、それはある程度の規模の国内マーケットが見込まれてしまったがために、そのマーケットから抜け出せない体質を自らが作ってしまった事が要因の1つだと筆者は考える。

 これにはメーカーやキャリアだけではない、ユーザーも与えられるがままにそれを欲しがり、それに飽きると次に刺激のあるものを欲しがる、そんな生産と消費をただ繰り返してきた事も1つの要因ではなかろうか。

 先日シャープが「ガラパゴス」というネーミングのデバイスを発表した。

 このネーミングは「あえて」というメーカーの意図がミエミエで「同じ轍は踏まない」という気持ちを強く表した結果だと思うが、このシャープのガラパゴスに限って言えばガラケー扱いされるほども売れない……と筆者は思う。

 なぜなら中身は今話題のAndroidだがAndroid Marketには非対応(2010年12月現在)、大きさだけはiPadのマネ、筆者からすればガラパゴスどころか絶滅危惧種のように感じる。

Comment(1)

コメント

深センみかん

中国南部深センに住んでいます。

中国はここ30年を来料加工というやり方で成長してきました。この方法は、中国本土には直接法人を作らず、自由主義の香港に法人を作りその出先工場の場所と人を貸すというものです。外資から言えば、来料加工は中国の鎮などの自治体に加工依頼をしているだけなので、税制上優遇を受けることができ、また制約の多い中国本土に法人を持たないで人や場所を利用出来るメリットがあります。

ただ、この方式は既に転換点に来ています。東南アジアを見ると経済発展のおかげで政情が安定してきている国が少なくなく(特にイスラム系)、また中国のやり方を見て真似している国もあります。何よりも東南アジアで一番高くなってしまった人件費が非常にネックになっていると思います。中国政府もこのことには気づいているようで、継続する経済成長のための代案として去年10業種の発展推進を打ち出しました。
#最近頻繁にネットで叩かれている自国開発(?)の鉄道もここに入ります。

前置きが長くなりましたが、この流れで携帯電話の件があるんじゃないかと思います。中国移動は中国商務省の命令を受けて開発(多分開発自体は中国がやったわけじゃなくて、何かの見返りにノキアとエリクソンがやったのでしょう)と。

中国自体の市場は確かに人口が多いので大きいのですが、未熟すぎる金融システムや一党独裁による賄賂や不透明処理の横行し、一般庶民とその他の人の富の格差が異常な状態になっています。また、インフレが非常に激しく一般市民の可処分所得は正直相当少ないと思います。深センはかなり開発の進んでいる場所ですが、一歩郊外に出るとやはり途上国という状態ですし、賃金もガクッと下がります。

数字だけ見ていると大きいので魅力的ですが、現地事情はこんな感じですので、規格などは可処分所得が大きく、マーケットへの影響が大きい欧米などをベースに進んでいくものと思います。

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