Androidの戦略(4)~AndroidとiPhoneの戦略
■第7章■AndroidとiPhoneの戦略
最近、いろいろな雑誌やネットで見るこの比較。
自分で書いておきながらおかしな話だが、この書き方に大きな違和感を感じる。
そもそもAndroidというのはOSの一種であり、それに対してiPhoneというのはiOS(iPhone OS)を搭載した通信デバイスの名称である。
これを同義語のような扱いで比較するのは筆者的には疑問なのだが、そうは言ってもどちらも非常に興味深いキーワードには違いないので話を続けよう。
まず皆さんに聞いてみたいのだが、IT関連の仕事に就いている人ならiPhoneもAndroidもキーワードとしてはどちらも知っていると思う。
特にiPhoneに関しては使っている人も多いだろう。
ではAndroidに関してはどうだろう。
Androidをスマートフォン専用のOSと思っている人は多いのではないだろうか。
またAndroidというOSは今までのOSとまったく違う新種のOSだと思っている人もいるのではないだろうか。
なぜこのようなことを言うかといえば、筆者の周りでAndroidの話をしている技術者と呼ばれる人たちの多くがこの事実を知らなかったからである。
では、改めてAndroid OSとは何なのか。
まず第一にスマートフォン専用のOSではない。
厳密に言うと現在世に出ているAndroid SDK(2010年12月現在)で何かしらのアプリケーションを作ろうとするとスマートフォンアプリになってしまうが、基本的にAndroid OSの思想はスマートフォンに限らず、あらゆるデバイスへの組み込みを可能にするための組み込みOSであるという点だ。
またまったく新種のOSなどではなく、LinuxベースのOSであるという事も知っておくべきだ。逆にまったく新種のOSだったなら、さすがの Googleもこんなに短期間で、しかも開発に莫大な費用が必要とされるのが容易に想像できる自社OSを、無償で提供するはずも無いだろう。
他にもさまざまな特徴があるが、少なくともAndroidという言葉を口にする以上、この2点は押さえて頂きたい点である。
またこの2~3年の製造業の景気はどうだろう。言わずとも知れた景気の悪さだ。
当然今までモノ作りをしていたメーカーも一大打撃を受けている。
だがそれらメーカーも黙ってはいないだろう。
目の前に組み込みを主眼としたOSがあり、しかもそれがフリーライセンスで自社製品に組み込めるとなれば、コストを抑えつつ、より高度な付加価値を持つ製品を作り出したい彼らにとって起死回生の絶好のチャンスである。
必要か不要かは別として、近い将来冷蔵庫がネットに繋がり、炊飯器がネットに繋がり、外出先から冷蔵庫の中身が確認できたり、テレビのネット予約のように外出先からご飯の炊き上がる時間が予約できる、そんな時代がやってくるのは確実だ。
また一家に一台は確実にある冷蔵庫などに地震計機能を持たせデータを収集することで、よりきめ細かい地震速報に活かせるのではないか…という研究者もいる。
これからの時代、アップル社の繰り出すiPhoneやiPad、iPodに評されるデバイス群とAndroidを搭載したデバイス群、どちらがトレンドになると思うだろう。
筆者は、間違いなくAndroidだと思う。
だが筆者がAndroidと言い切る理由にはAndroidの持つ機能や背景にある日本経済だけではない、過去の歴史から見た点も非常に大きく影響している。
AndroidとiPhoneの話をする上で、筆者は次章にある2つを例えとして話すことが多い。
「ベータ VS VHS」のホームビデオ規格戦争と、パソコンという言葉を日本国内で知らしめるのに十分過ぎるほどの影響力を持っていた日本電気の「PC98 VS IBM/PC」の話しである。
■第8章■ベータ VS VHS
「ベータ VS VHS」の規格戦争は映画(陽はまた昇る・2002年6月公開、佐々部清監督、佐藤正明原作、東映)になったこともあり知っている人は多いと思う。
当時は民生向けのホームビデオは一般に普及しておらず、その規格を巡ってソニーとビクターが熾烈な争いを繰り広げたのである。
ソニーが提唱していたのはベータという規格なのはご存じの通りだ。
録画時間としては1時間と短いものの、映像の美しさでは群を抜き、その優位性を唱えていた。
それに対してビクターは画質ではベータに劣るものの、標準録画時間が2時間で、テレビで放送される映画やドラマがちょうど録画でき、しかも構造がベータに比べて簡単なVHS方式を推奨してきた。
どちらも一歩も引かない状況だったが、そこへ松下幸之助(松下電器産業創設者)が「安価で簡単な方式で普及を促す」と鶴の一声を発したのである。
これによりビクターをはじめとする各社は松下電器産業の後ろ盾を得てVHS規格を取り入れたのだ。
またVHSが普及した理由として松下幸之助の一言だけではない、他の理由も存在する。
それはアダルトビデオだ。
VHS陣営がアダルトビデオにも積極的に進出する一方、ベータ陣営はアダルトビデオをベータのソフトとして発売することをためらっていたのである。
大きな理由ではないが、これも1つの理由なのではないかと感じる。
ではソニーは黙って負けてしまったのか?
民生品規格ではVHSに道を譲ってしまったソニーだが、その高い技術力と映像の美しさという点から業務ユースでデファクトスタンダード化したのである。
今ではデジタル技術が進み、テレビ局でも昔のようなアナログレコーディングは少なくなったが、つい数年前まではベータカムという名前で使われ、また現在もデジタルベータカムなどのバリエーションを増やしながら製造されているのだ。
転んでもタダでは起きないソニーの底力だろうか…。
コメント
ハムレット
はじめまして。
色々と参考になります。
確かに Android と iPhone では比較対象が違うように思えます。
個人的にはAndroid と競争相手にあるのは TRON 当たりのように思えます。地味ですが TRONも組み込み系などで、割と普及しているOSだと思うので。
競合と行っても時間がたてば棲み分けが出来て収束していくのかもしれませんが、欧米人はこうした規格や標準化での戦略に日本人よりも長けているように思うので、Android の優勢が続くのでは思っています。