「エンジニアの人生=エンジニアライフ」に役立つ本を紹介します。

『iPhoneアプリ設計の極意』――「iPhone、開発、すべての極意」=44

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iPhoneアプリ設計の極意 ―思わずタップしたくなるアプリのデザイン iPhoneアプリ設計の極意 ―思わずタップしたくなるアプリのデザイン

Josh Clark,(著)、深津貴之(監訳)、武舎広幸,、武舎るみ(翻訳) 
オライリージャパン
2011年6月
ISBN-10: 4873115027
ISBN-13:978-4873115023
3570円(税込)

■「人生、宇宙、すべての答え」+2

 「人生、宇宙、すべての答え」をご存じだろうか。Googleで検索すると電卓機能が答えを返してくれる。すべての答えを知りたい人は、ぜひ試してみてほしい。

 ……無事に計算結果は出ただろうか? さて、本書iPhoneアプリ設計の極意』には「iPhone、開発、すべての極意」が出てくるが、計算結果は「人生、宇宙、すべての答え」とちょっとだけ違う。2を足せ。それですべて分かる。

■「デザイン」という言葉にまつわる誤解

 副題「思わずタップしたくなるアプリのデザイン」からも分かるとおり、本書はいわゆる「開発」の参考書ではなく、実際の開発作業を始める前の行程、つまり「デザイン」を扱っている。

 デザインと聞くと、真っ先に思い浮かべるのはアイコンやボタン、スプラッシュスクリーンなど「グラフィックデザイン」ではないだろうか。しかし、英単語「design」では、「設計」という意味合いが強い。つまり、グラフィックだけではなく、画面の構成やユーザーの行動、機能の取捨選択といったものも含めて「デザイン」なのだ。

 本来の意味での「デザイン」をするためは、どんな知識が必要なのか? 本書は、実際にヒットしたアプリやプリインストールのアプリを題材に、「アプリをデザインするためのポイント」を解説している。

■44ピクセルのリズム

 「44ピクセルのリズム」という印象的な言葉が、本書にはたびたび登場する。

 「タップ可能なUI要素の快適な最小サイズは、44×44ポイント」と、AppleはUIデザインのガイドラインで定義している。44×44ピクセル未満のボタンは「タップしにくい」と、ばっさり切り捨てているのだ。ユーザーの快適さがUIデザインの肝である以上、快適さよりも優先すべき事項がない限り、このサイズを守るのがセオリーだろう。

 44ピクセルのUIパーツを並べていくと「44ピクセルのリズム」が生まれる。実際に「44ピクセル」の注釈を入れた「メール」と「計算機」のスクリーンショットを見た時は、見慣れた画面であるはずなのに「なるほど!」と思わずうなった。

 具体例を見ると、「Appleの優秀な開発者たちが試行錯誤の末にたどり着いたマジックナンバー44には、積極的に従う方が良さそうだ」と思えてくる。「人生、宇宙、すべての答え」ほど大げさではないが、「44ピクセルのリズム」がiPhoneアプリ開発において1つの“極意”であることは間違いないだろう。

■愛するものを殺せ

 もう1つ印象的な言葉があった――「かわいい赤ん坊も投げ捨てろ」。

 アプリのアイデアとして出てきた多くの機能案のうち、ほとんどは捨ててしまうべきだというのだ。「限られたリソースの中で、真に価値がある機能を実装せよ」と本書はうたっている。

 ここでいうところのリソースとは、iPhoneのハードウェアリソース(画面、メモリ、CPU)だけではなく、ユーザーのリソース(時間や注意力)も含める。ハードウェア的な制約はもちろんだが、ユーザーのアテンションも貴重なリソースだ。考えてみれば当たり前なのだが、今までなかなか持ちにくかった視点である。

■@fladdictの頭の中

 日本語版は付録として、監訳を担当した深津貴之(@fladdict)氏による「fladdict流のUIデザイン」が収録してる。「TiltShift Generator」や「ToyCamera」などのヒットアプリの作者として知られる深津氏が、架空のiPhoneアプリをデザインしていく過程が詳細に分かる。

 「仮説検証」という思考手法からペーパープロトタイピング、UIのブラッシュアップまで、プログラミングに着手する直前までの流れを紙面で体験できる。この付録だけでも、本書を一読する価値がある、といっても過言ではない。特に、操作の簡単さとミス防止、セキュリティについてバランスを取りながら改善していく「送金画面」には、たくさんの学ぶべき点があった。

■まとめ

 本書に、ソースコードは1行も出てこない。しかし、だからこそ「開発者が知っておくべき知識が詰まっている」と言える。もちろん、アプリの企画や(見た目の)デザインをする人には必須の知識である。iPhoneアプリ開発に携わる人なら、一読しておくべき本だろう。

 iPhone5/iOS5のリリースが秒読みとなっている今、アプリの開発競争はますます過酷になっている。本書の内容は、身に付けておいて損のない「極意」であることは間違いない。

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