「エンジニアの人生=エンジニアライフ」に役立つ本を紹介します。

『エンジニアのためのPowerPoint再入門講座』――“硬派なパワポ使い”は武器の磨き方を知っている

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エンジニアのためのPowerPoint再入門講座 エンジニアのためのPowerPoint再入門講座

石川智久、植田昌司(著)
翔泳社
2009年9月
ISBN-10: 4798119458
ISBN-13: 978-4798119458
2310円(税込)

■Word、Excelと来たら、いよいよ鬼門の“あれ”が来る

 「エンジニアのための○○再入門講座」、ExcelWordと来て、ついにエンジニアにとっての“鬼門”、「PowerPoint」である。

・参考:

■パワポ使いに憧れて

 本書は、ウルシステムズ所属のエンジニア2人が執筆している。ウルシステムズには、地に足が付いたIT企業という印象があるので、実用的な内容が期待できそうだ。

 ※10年ほど前、オブジェクト指向絡みで社長の漆原茂氏に会ったことがある。氏の人となりは「挑戦者たちの履歴書」が詳しい。

  • 第1章 パワポの使えるエンジニアになろう
  • 第2章 硬派なパワポ事始め
  • 第3章 硬派なパワポのための機能解説
  • 第4章 パワポを使った会議術
  • 第5章 パワポで”ロジカル資料”
  • 第6章 硬派なパワポ流 スライド事例集

 目次を見てみると、“硬派”と単語が目につく。とても気になる。何が硬派で何が軟派なのか? この疑問に対する答えは、本書の中にあった。

 第1章では、「何がExcelで、何がWordで、何がPowerPointなのか」、筆者なりの解が提示されていて、これが面白い。

 「ExcelでもWordでもないものがPowerPoint」。

 人によって賛否両論あるだろうが、個人的には納得した。ぼくにとって、PowerPointは「きっちりと構造化した文書を書かず、ラフに書きたい時」のツールである。

■戦う前に武器を磨け

 本書は、2章(設定編)と3章(機能)で「パワポという武器」について解説し、4章~6章が実践編である。てっきり実践編の方が本書の“キモ”かと思いきや、2章と3章にたくさんの驚きと納得があった。ひととおり通読した後、読み返したいのはこの2つの章だろう。これらのためだけにでも、手元に置いておく価値はあると思う。逆に、4章~6章は、良い部分もありつつ、突っ込みたい部分もあった。

 さて、ではいったい2章と3章、何がそんなに気になるのか、少し紹介しよう。

 「オートコレクトはすべてOFF」「編集領域の確保」「高速保存」「サイズ指定はA4」「グリッド/ガイド設定鉄則」「余白を作らないインデント/行間設定」「自作吹き出し」「コネクタの活用・透明オブジェクト」「図の圧縮」……、これらの見出しを眺めるだけでも、著者のこだわりが感じられる。

 高速保存や図の圧縮など、ファイル容量を減らすテクニックは日頃から使っている(メール添付容量の制限対応)ため共感できるし、「グリッド/ガイド設定」の説明では「間隔0.2cm」と言い切ってしまう自信に圧倒されてしまった。自作吹き出しやコネクタの活用・透明オブジェクトなど、「ここまでするか……」と思わずうなりたくなるほどの徹底した見栄えへのこだわりもすごい。

 地味ではあるが、「サイズ指定はA4」という印刷中心の意識には納得した。これらの設定が施されたファイルが、翔泳社のWebサイトからダウンロードできる心遣いもすばらしい。

■さて実践。「パワポ会議」が意外と便利?

 4章以降は実践編だ。著者は「パワポ会議」なるものを勧めている。スライドショーと外部ディスプレィを組み合せて、会議を行うわけだ。

 「何じゃこりゃ?」と思ったのだが、実際やってみると(会議はやらずに自分だけで操作した)、スライドショー状態のまま表示ページを編集できるし、後ろで表示以外のページを編集もできるし、大変便利である。代替手段は、確かにこれ以外なさそうである。しかし、会議を進行させながらPowerPointを編集していくのは、もはや技を超えて“芸”の域である(ちょっと失敗しただけで、紙に戻せと言われそう)。

 5章では「Webモール刷新企画書」なるケーススタディを紹介しているが、20ページほどで説明するのは若干無理があったかもしれない。6章では、「なぜPowerPointなのか?」を再考した上で、PowerPointで作る画面レイアウト、フローチャート、スケジュールを説明しているが、こちらも中途半端な感じがする。個人的には、フローチャートの説明としては、「新発想の業務フローチャート作成術」の方に軍配を上げたい。こちらの記事はExcelを使っている。PowerPointのフローチャートでは、1つプロセスが増えるたびに間を詰めないとならないので、好きじゃないのだ(確かに、スライドショーでさくさくと切り替えながら新旧フローを対比できるのは便利かもしれないが)。とはいえ、ノートビューと標準ビューを使い分け、同じ資料でユーザー向けと開発者向けの説明を入れるという発想には脱帽した。やたらとテクニカルである。

■まとめ:2章と3章のために手元に置いておきたい1冊

 全体を通して、何かしっくり来ない部分があった。2章と3章での準備が、4章以降の実践編で生かしきれていないように思う。2章3章での設定や機能を使えば「いまではこうだったものがこなる!」というビフォーアフターを期待していたのだが、あまりそういった発見はなかった。

 突っ込めるところはいろいろ突っ込めるが、2章と3章だけで本書は十分な価値があると思う。手元に置いておけば、重宝しそうだ。

■おまけ:これが謝辞か

 突っ込みついでに、「謝辞」にも触れておこう。洋書でよく「愛する妻とわが息子に……」という謝辞を見掛ける。これを和書でやるとどうなるかが分かった。なんというか、むずがゆい。じゃあ自分が書いたらどうなるのかと考えてみたけれど、やはりむずがゆいものになりそうだった。愛情と苦労がよく伝わってくる謝辞だったので、のぞいてみるとよいかもしれない。

『30過ぎで5社目でした。』コラムニスト けいいちっく)

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