『iOSアプリケーション開発入門』――「iOSアプリの1本でも作っておきたい」エンジニアの指南書
iOSアプリケーション開発入門 新居雅行(著) 技術評論社 2012年7月 ISBN-10: 4774151564 ISBN-13: 978-4774151564 3129 円(税込) |
■自作アプリの経験はありますか?
スマホ業界の勢いはますます加速している。この流れに乗って、スマホ業界への転職を考えているエンジニアもいることだろう。そして、スマホ開発企業は、「業務か自作での、アプリ開発経験」を採用基準とするところが多い。
Titanium MobileやPhoneGapといった、ネイティブコードを触らずともクロスプラットフォームでアプリ開発できるプロダクトも登場している。私自身、Titanium Mobileを使ってiOSアプリをリリースしたことがある。
しかし、今のところ仕事としてスマホアプリ開発に携わるなら、大半の現場ではiOSならObjective-C、AndroidならJavaで書くことを求められる、と感じている。
本書は、スマホ業界に挑もうとする人にとっての先導役といえるだろう。
■書上のハンズオンセミナー
著者 新居雅行氏は、iOSアプリ開発の講師業もしている。そのためか、実際に本書の内容を試すと、まるで著者のハンズオンセミナーを受けているような感覚でアプリ開発を体験できた。
iOSでの各種オブジェクトの使い方とそのサンプルコードが載っているような本とは明らかに一線を画しており、実践的な開発を学べる本である。
本書で扱う内容は次のとおり。
- Chapter1 iOSアプリケーション開発者を目指そう
- Chapter2 iOSアプリケーション開発の流れ
- Chapter3 画像ファイルを表示するビューアを作ろう
- Chapter4 スクロールする画像ビューアを作ろう
- Chapter5 クラウド住所録を作ろう(ネットワークアクセス編)
- Chapter6 クラウド住所録のインタフェースを作ろう(iPhone編)
- Chapter7 クラウド住所録のインタフェースを作ろう(iPad編)
- Chapter8 電子ブックビューアを作ろう
- Chapter9 カメラと画像の顔検出機能を利用する
■実践的なアプリ開発トレーニング
私にとって、一番の読みどころは、Chapter 5~7の「クラウド住所録を作ろう」だった。
この章では、Amazon Web ServiceのSimple DBを使って、住所録アプリ開発を行うのだが、その中でネットワークアクセスやSAXによるXMLパースについて取り上げている。ここで取り上げている内容が、Web APIを使ったアプリを作る際に大いに役立つのではないかと思う。
実際はオープンソースのDOMパーサライブラリやiOS5から標準で使えるようになったJSONパーサを使うことになるかもしれない。それでも、この章の内容を理解していれば、さほど苦しまずに開発していけるのではないか。
また、本書ではiOS5から利用できるようになった「ストーリーボード」というGUIデザイナを用いた開発も紹介されている。iOSにおけるモダンな開発手法を学びたい人にとっても、参考となる1冊だろう。
■スマホ業界に挑む、最初の一歩
一方、本書で取り上げていないことも数多くある。例えば、ローカルデータベース(SQLite)の扱い方やユニットテストの扱い方、バージョン管理(Git)の扱い方などだ。これらについて学ぶ場合は、別の書籍やWeb上の情報を参考にする必要がある。
とはいうものの、これからiOSアプリ開発を学ぼうというエンジニア向けの書籍としては、初めからこれ以上の量を扱うのは苦しいとは思った。上記のような技術は、Objective-Cでの開発にある程度慣れてからでないと理解が難しいかもしれないからだ(私自身、かつてローカルデータベースを扱うあたりでObjective-Cの学習に挫折したことがある)。
本書は、これからスマホアプリ開発を学びたい、もしくはそれを仕事にしたいと考えるエンジニアにとってよい助けになることだろう。
(What a wonderful world』コラムニスト たのっち)