「エンジニアの人生=エンジニアライフ」に役立つ本を紹介します。

リーダー、管理職にこそ読んで欲しい――レッドビーシュリンプの憂鬱

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IT企業において、若い技術者達とも一緒に働いてきた私には、彼らの中にある考え方や不満を知る上で、興味深かった。彼らをまとめる立場にあるリーダーや管理職、あるいは彼らを指導する立場にある年長の技術者達にお薦めしたい一冊である。

リーダーや管理職には、若い技術者達の不平不満を受け止めて欲しい

「なぜ、自分たちよりもITスキルや知識が劣り、Webシステムのプログラミングもできない人間が、年長だという理由だけで、高い給料をもらい、自分たちに上から目線で指示出しをしてくるのか」
「なぜ、会社は、あるいは社会は、ITの根幹であるプログラミングのスキルを持つ自分たちを軽視して、上流工程やプロジェクト管理のできる人間を珍重するのか」

物語を通して伝わる、若い技術者達のそんな思い。年長者は、皆新しい技術に疎く、古いやり方に固執して、仕事の邪魔をする。もっと若い人間を尊重して欲しいし、処遇も技術力に応じたものであるべきだという書きぶりは、少しステレオタイプがきつい気もするが、彼らの中には、確かにそうした不満があること、そして、なぜ彼らがそう考えるのかを理解することは、若干、閉塞感の漂う今の日本のIT企業を変革する上で、ヒントになるだろう。

もちろん、若い技術者の言い分が、全て正しいとは思わないし、物語の後半では、そうしたことに対する年長者(エヌ氏)の反論も登場する(ここは、やや、"それだけか?"と思うところではあるが)。

若い技術者達の言い分は多分に稚拙だし、視野が狭い。著者も恐らく、あえて、そう描いているのだろう。しかし、欧米にくらべ、世界に通用するソフトウェアやシステムあるいは、社会インフラを作り出すことが、できていない日本のITベンダーやユーザー企業の弱みを考える上で、この物語にあるような、若い技術者達の本音は、一つの示唆を与えてくれているようにも思う。


物を作る人間に対するリスペクト、彼らの意見を積極的に聞き、吟味する姿勢、そして、何より、彼らの意見を本当の意味で取捨選択できる目が、リーダーや管理職、そして投資家達にもなければ、この日本から、スティーブ・ジョブズもザッカーバークも生まれないし、そこまでの異才でなくても、世界と伍していける会社もソフトウェアも出ては来ない。

若い技術者達には前を向いて欲しい

しかし、一方で、この物語に出てくる若い技術者達の言葉からも見られる、ITスキルを持つ人間の処遇について言えば、労働市場の原理から言って、技術者が受け入れなければならないところでもある。

似たようなスキルを持つ人間が、安い給料でも働くと言えば、そうした人間を採用するのは、経営上当然のことであり、その結果、技術者達の給料が低く抑えられることになったとしても、それは、今や国際的な労働市場となったIT業界においては、仕方のないことである。

町工場で働く職人も、寿司屋も、大工も、人が羨む高い所得を獲得できるのは、他にはない高い技術と運を持った一握りの人間であり、他は、一般のサラリーマンよりも低い待遇しか受けられないのが、普通だ。Webプログラミングが上手だったり、ストアドプロシージャを駆使ししたシステムを構築できる程度のスキルであるなら、そこまで高い処遇は望めないのは、労働市場の原理である。

確かに欧米と比べ、日本の技術者の給料は安いと考えられるし、新興国のようにプログラマーを超ハイスキルの人間と考える土壌は、日本にはない。しかし、これを変えるのは、一つの会社の中で不平不満を述べることではない。

日本のIT技術者が高い処遇とリスペクトを集めるには、他を圧倒するスキル(プログラミングであれ、プロジェクト管理であれ、要件定義であれ)を持つか、あるいは、単身、海外に打って出て勝負をすることが、必要なのかもしれない。

確かに、そんなことは誰もができる話ではないかもしれない。それでも、自分の目の前にある、どうしようもない現実を変えたいと思うなら、それくらいに思い切ったことをするか、あるいは、考え方を変えて、現実の中をしなやかに泳いでいくしかない。全ては、本人の心次第だ。そんなことも、少し考えさせられた。

一組織にも、なすべきこと、やれることはある

この本に書かれている、さまざまな問題について、日本のIT企業や社会は、明確な答えは打ち出せていないし、この本にも根本的な解決策までは書かれていない。しかし、処遇に限界があっても、せめて若い技術者達がモチベーションを維持でき、新しいことに挑戦することを支援する気風を組織内に作ることはできる。

若い技術者達のアイデアを吸い上げる風土と制度、明確なキャリアパスの定義、限界はあるものの給与体系の見直し、そうしたことは、若いIT技術者を雇う組織には必須のことであり、それが、最終的には組織の活性化につながる。管理職、経営層の方には、ぜひ、そうしたことも考えていただきたい。

いずれにせよ、この本から聞こえてくるのは、さまざまな悲鳴だ。前述した若い技術者の不平不満、歳をとって自分のキャリアを肯定しきれないベテランの不安、それらを率いて調整するリーダーの難しさ、そうした物を、やや極端にではあるが、描いたこの本に書かれた自分と同じ立場の人間の思いには、きっと共感する読者も多いと思う。しかし、それだけでなく、自分とは違う立場の人間の気持ちも、理解してほしい。それが、この本の大きな魅力の一つとなっている。

(連載『「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説』 筆者 細川義洋)

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