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エンジニアに必要な「何も考えない力」

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 「エンジニアは論理思考力を身につけるべき」。

 IT業界は知的労働ですから、いろいろな方がこのような話をされていますし、僕自身もそう思います。たった5年働いただけでも、そう思いますから。

 考えることが仕事のようなものですから、常日頃からいろいろなことを考えるわけですが、時には考えすぎない方がいい、というか何も考えない方がいいことだってあるのではないか、と思いました。今回は「何も考えない」ことに関して書いていきたいと思います。

■きっかけは、とあるテレビ番組を観て

 先日、TBS系列の番組「情熱大陸」を見ました。有名人に密着取材するドキュメント番組です。その回の主役は、お笑いコンビ「爆笑問題」のツッコミ担当、田中裕二(以下、敬称略)。特別企画ということで、田中と相方の太田のそれぞれに取材スタッフがついて、それぞれの目線で2人の活躍を追う。それを2週連続で放送、という内容でした。

 お笑いが好きな方はご存知の通り、ボケ担当の太田光という方は「天才」と評される方。お笑い芸人でありながら政治や哲学的な話を熱く語っている姿を、よくテレビで見るかと思います。太田が「天才」と見られることで、その隣にいる田中は「普通」「凡才」と揶揄されることも多いのですが、番組では、そんな田中の「普通っぷり」にスポットを当てていました。

 番組の内容を書き起こしたブログ記事がありますので、興味のある方はぜひ読んでみてください。

  「情熱大陸」爆笑問題・田中裕二の全発言
  http://d.hatena.ne.jp/tvhumazu/20100517/p1

 番組の中で印象的だったのが、「まだ爆笑問題が売れていないころ、田中は一生懸命バイトをしているのに、太田はまったく働こうとしなかった」という話をしていたシーン。太田に「働けよ」と言わなかったのか、と尋ねたスタッフに田中は、

 「太田は興味のあることしかできない。俺はできる。明日から青果店で働けと言われても、働ける自信がある

と答えました。

 番組全体を通して、「何事に対しても深く考えすぎてしまう」太田と「何も考えていない」田中という切り口で番組が展開していましたが、「何も考えていない」という性格が非常によく表れている一言ではないでしょうか。

 この言葉を聞いたとき、先日コラムに書いた、乗り気ではない仕事や出張があったときの自分のことを思い出しました。

 その際の僕は、仕事に対していろいろと思うことがあり、あれやこれやと考えすぎていたような気がします。だから「何でこんなに大変なことをしないといけないんだろう」と、自分を見失ってしまいました。

 対して田中は、「ああしろ」「こうしろ」「これをやってくれ」と言われたことを、文句の1つも言わず忠実に実行できる。それは、向き不向きだとか興味関心のあるなしだとか、そういったことは一切考えていないからなのだと思います。

 田中がそれで通じるのは、自分でも認めているように何でも難なくこなせる器用さがあり、それが自信につながっている、というのもあるかと思います。ただ、それでも、やる前からああだこうだと考えて「自分には無理な話だ」などと落ち込むことがないのは確かだとも思います(本人が「悩みがないのが悩みだ」と言っているくらいですから)。

 先日の僕の記事では「ロボットになりきる」という表現で書いて、お叱りを受けてしまったことは今でも反省していますが、その表現は極端すぎたとしても、やはり「何も考えない(で作業にあたる)」ことができていれば、出張の前日から愚痴をこぼしてばかりいることもなかったのかなあ、と思っています。

☆★☆

 考える仕事をしていると、つい、いつ何時でも何か考えごとをしてしまいます。もはや、癖のように。そうなると、ネガティブな感情(考え)まで簡単に沸いてきて、それが自分を落ち込ませる原因になってしまうこともあるかと思います。

 考える職業だからこそ、意識的に考えないようにしたり、マインドフルネス瞑想をしてみたりして、「何も考えない力」を身につけ、考える必要のないものに対しては何も考えないようにしてみると、仕事に対して謙虚な姿勢を保てるし、メンタル面にも良い効果を与えるのではないでしょうか。

 「何も考えない」ことに対して深く考えているじゃないか、という矛盾には突っ込まないでください(笑)。

Comment(7)

コメント

はがねのつるぎ

はがねのつるぎです。

「何も考えないことを考える」ことによって他の考えを追い出す。というのが禅の世界では重要な考え方のひとつだったりします。

完全な無我の境地は難しいけど、「ひとつの思考」に集中すれば、「ひとつの思考」以外は無になれる。というテクニックだそうです。雑念を振り払うための思考法とでもいうのでしょうか……。

ウワサでは、そのプロセスの先に悟りの世界があるらしいです(^^)

tatanonono

はじめまして、tatanononoと申します。長文を失礼します。もし論点ハズレテいたらごめんなさい。

私、個人が思っていることは、「考える」「考えない」ことが重要になるのではなく、「今、考えるべきことは何か、もしくはどのような視点で考えるべきか判断し、そのことを集中して考える」ことが重要になるのかなと思っています。

コラムでは「考えない」という言い方をされていますが、おそらく言い方の違いで、普段何気なく行動されれているのでは?と思いました。


↓以下、「考える」という言葉を「頭を使う」という表現に言い換えてみました。

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インフラ系の作業で機器の設定だったりすると、事前に仕様を調べられるので、はじめに作業前に徹底的に頭を使います。


1.要求仕様=目指すゴールは何か?どの状態になればよいか?

まず、現状どうなっているのか?という点を調べないといけないので、その点をクリアするために頭を使います。

・思い込みは無いか?不明な点は無いか?ということを念頭に置いています。
 ⇒「~ハズ」のものは過去の作業ログを調べる、実機を確認するなどして調査します。
 ⇒設定やログを自分の目で見ていないなら確認する。あとになって「人から聞いた」と責任転嫁しても(実際に言った人が間違っていても)問題が起きてからでは遅いので、実際に自分の目で見るか、担当者がいるなら改めて確認してもらう「一応、見といて~」。


2.最終ゴールへたどりつくまでに、何をしなきゃならないか?

現状を抑えたところで、最終ゴールを目指すために何をしなきゃいけないか?という点に絞って頭を使います。

・はじめに「○の変更」「○の設定」といった概要レベルで整理します。
 ⇒全体の段取りは?作業日程は?まわりへの影響度は?ということに頭を使います。

・具体的には何をしなきゃならないか?という点を調査し、手順書・ワークシートなどにまとめます。
 ⇒作業する内容の「概要」レベルまでは、案外ヒントさえつかめば分かりますが、前提条件や(たとえばコマンドなどの)仕様の詳細は不明だったり分かりにくかったりします。
 ⇒また、「思い込みは無いか?不明な点は無いのか?」という点にも頭を使っています。たとえば、コマンドを実行したらどういう結果になって、その結果通りになれば次は何をするか?もし結果が想定と異なっていたらどうすればよいか?OKとみなしてよいのか?何を持ってOKとみなせばよいのか?

あずK

皆様コメントありがとうございます。


はがねのつるぎさん>

禅ですか。深いですね。

> 「ひとつの思考」に集中すれば、「ひとつの思考」以外は無になれる。
という考え方はマインドフルネスでもそうでした。

本当に何も考えないというのは、やはり難しくて、
とある思考に集中することで不必要な思考を呼び起こさなくするやり方が
望ましいのかもしれませんね。


tatanononoさん>

はじめまして。いえ、論点がズレてるとかは無いと思います。
大変わかりやすい解説で、新たな気づきを得られました^^

> 「意識的に考えない」「何も考えない」というのは、この「3」段階のことを意図されているのでは?と思いました。

確かに、一理あるなと思いました。

やらなきゃいけないことは、もうわかっている。
だから、それに対して無駄な考えはせず、無難にこなすことを頑張ろうとする。
それを無意識の領域で考えているから、(意識的には)何も考えていないという感じがする。

そういうことなのかもしれませんね。
#番組内でも、田中は司会者としての実力や評判が高いのに、
#司会のコツを聞かれて「そんなの無い」とか
#「自分が何かしなくてもゲストはプロだから(番組が成り立つ)」と言ってましたから。

そういった意味では、田中も「天才(的な能力の持ち主)」なのかもしれません。
自分も「3」段階目の行動を無意識で出来るようになりたいです。

teru

非常に共感できますね。

『何も考えない』というのは、ある行動に付随する様々な『感情』に囚われない、
という風に聞こえましたが合ってます??

tatanononoさんは、インフラ構築の際に『何を考える』かに言及されているようですが、
筆者は『どう考えるか(思うか)』に言及しているように思えるので、
少し論点がずれているのでは?と感じます。

あずK

teruさん>

コメントありがとうございます。
共感して頂けて嬉しいです。

> 『何も考えない』というのは、ある行動に付随する様々な『感情』に囚われない、
> という風に聞こえましたが合ってます??

記事での結論としてお伝えしたかったことは、それです。
「明日からでも青果店で働ける」という田中の発言に、
「明日出張に行ってきて」と言われただけで愚痴っぽくなった自分を思い出し、
田中のように「何も考え」なければネガティブな感情に囚われなくて良いのかな、と。

tatanononoさんの意見とは、「結論」からは少々ずれているかもしれませんが、
「何も考えないこと」に関しての話を書いていたので、論点としては問題ないですし
「何も考えないこと」に対する別の見方(新たな気づき)を得られたのは確かで
貴重なご意見を頂けたなと思っています。

前回の「真摯さ」に関する記事でもそうですが、
こうしてコメント欄で様々な方の様々な意見が聞けることで
新たな見方・気づきを得られるので、
エンジニアライフという場は本当に貴重な場だなと思っています^^

evergreen

非常に勇気のあるコラムだと関心いたしました。

実は最近、
コミニュケーションだ技術だ思考能力だと、
皆が他人も自分も煽りすぎだと思っています。

大切なのは、仕事は、生活の糧としての収入を得るためのの手段であって、
それ以上でも以下でもないと思うのですよ。

所詮、仕事を続けていくには無限の努力が必要なんだから、
そんな分かりきった事を声高に叫んでなんの意味があるのか、
付いていけずにドロップアウトする人間を増やすだけではないか、
と思うのです。

たとえばスポーツでは、何も考えずに体が動くということがありますが、
仕事でも慣れた仕事は特に考えなくても(無意識で)、
進めることが出来ますよね。
それだって熟練だと思いますね。

まずは、「生きていくために仕事をしましょう」。
単純な考え方や教育が必要なのではないかと思いますね。

あずK

evergreenさん>

コメントありがとうございます。
お褒め頂けて嬉しいです。

> 非常に勇気のあるコラムだと

実は少しドキドキはしたんですが(笑)、
そう言ってもらえて、書いて良かったなと思っています。

今までも、他のコラムニストの方々とは異なって
「メンタルヘルス」の話を扱ったり「スローキャリア論」に賛同したりと
ある意味、甘ったれた内容ばかり書いていました(苦笑)。
でもそういった事や考え方も重要だと思っていて、それを訴えていきたいという思いもありました。
そんな僕なので、
> 所詮、仕事を続けていくには無限の努力が必要なんだから、
> そんな分かりきった事を声高に叫んでなんの意味があるのか、
> 付いていけずにドロップアウトする人間を増やすだけではないか、
という意見には凄く同意しておりまして、
今までコラムで書いてきて良かったな、と、感激しています(笑)。

そういえば、まれに、「○○力が大事」的な文章を読んで息苦しさを感じていたのは、
「そんな分かりきった事を声高に叫んでなんの意味があるのか」
と思う自分がいたからなのかもしれません。ふと、そう思いました。

> まずは、「生きていくために仕事をしましょう」。
> 単純な考え方や教育が必要なのではないかと思いますね。

そういえば、「何のために仕事をするのか」という教育って、
学校でも会社でもあまりやっていないような気がします。
#「社会に貢献するため」とかそういう答えで教える教育ではなく、
#もっと根本的な「生きていくために仕事をしましょう」と教える教育が、です。
社会に出るよりもっと早いうちから考えさせるべきかもしれませんね。

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