残業して解決する悪習
この業界で働いている以上、残業についてはひどく身近なものとして扱われます。もちろんほかの業界でも同じような話題ではあるのですが、こと IT 業界に関しては表に出ない残業な話題も多いのではないでしょうか。
私たち労働者を守るために、いくつかの法律が確かに用意されてはいます。しかし罰則規定の問題などもあり、それがあまり有効になっているとはなかなか思えません。ニュースになるような事件が起きたとしても、この業界がそれで真摯に対応しているとは思えないのが実情です。
このような事を書くと、残業とか気にせずに働けないといけない、という意識高い意見を聞くこともありますが、SIer に代表されるように、今の IT 業界の仕事というのは特定の誰かでなくてはならない職人的な業務ではなく、多くの人が実施できるように、良い言い方をすると整備された業界です。スタートアップ企業のようなそれを、ほかの企業に求めるのは既に間違っている考え方です。
できれば残業は、誰であっても行いたくないものです。しかしそうはわかっていても、なかなか残業を根絶できるまでに至っていません。それどころか、残業自体は規制するのですが、仕事量を減らさない企業も数多くあります。現場側の創意工夫でどうにかしろ、と簡単に言えば投げっぱなしな命令を出しているところも多々聞きますが、冷静に考えなくてもおかしい話です。その上、時間でかかるコストや粗利の話まで持ち出して、現場をさらに締め付けさせるところすらあります。稼働する時間を減らせ、ただ利益は下げるな、というのはどう考えても無理難題です。
さらには勤務体系の問題もあります。よく裁量労働の話は言われており、どちらかというとフレックス的な働き方、時間や場所を問わない働き方が適している面も多いのが IT 業界です。ですが、その実態は勤務時間に通常通りの制限をかけている名前ばかりの裁量労働制です。どちらかというと、賃金カットのために用いられる悪いイメージもあり、このあたりから改革されていかなければ、業界として良くなっていかないというのも、多くの人が思っているところではないでしょうか。
このような状況では、例え現場の改善によって労働時間が削減できたとしても、時間がたつにつれ作業量は増えていき、どこかでまた以前と同じ状況になっても不思議ではありません。むしろ、以前よりも悪化する事も珍しくありません。
こういった事例を踏まえて考えると、残業をしてまで働いていくことは、精神的には満たされることもありますが、総合して考えるとメリットはないに等しいのかも知れません。一度無理をしてできてしまったことは、次から無理をしなくても求められてしまいます。前にできたのだから今回もできるでしょ、と言われることとなり、あげたハードルを下げることは決してないのです。
私は経営者ではないので、何故経営者がそのような行動に出るのかはわかりません。もしかすると私の知らない理由が、そこにはあるのかもしれません。ですが、だからといってそれは許してよいものではありません。
残業をほぼほぼ行わないのをあるべき姿として、それを叶えるためには今のままではいけません。恐らくは強制力を持った規則、法による対応がまず必要だと考えます。上場している企業ですと、従業員に一定以上の残業時間が発生した場合は色々とペナルティが発生します。そのため、少なくとも見かけ上は残業が抑えられているように見させることはできていますが、当然実態とはかけ離れているというのは、既に皆さん承知のとおりです。例え厳しい規則があったとしても、それを守らずに抜け道で対応している企業は非常に多いです。
この現状、どのようにすれば変えていくことができるのでしょうか。
理想としては、企業の経営者側が規則を遵守するのが最もベストです。そしてそれと同じくらいに、私達も残業をしてまで働くことを拒否できるようになる必要があります。残業をしてまで働くことを美徳とするのではなく、残業をして働くことは純粋にかかるコストを増やしている悪徳、と考え方を変えていく必要があります。
そうは言っても、と色々な反対材料はあるでしょう。私も現実に今の時点で、それを解決することは不可能だとも感じています。ですが、少しずつでもお互いに変化していかなければ、割に合わない仕事をし続けていくこととなり、働いても働かなくてももらえるものは少ない、とどうにもできない状況へと近づいていくことになります。商品が簡単に値上げできないのと同様に、一度あげたハードルを下げることは、単純にハードルを上げる事よりも数倍難しい事なのです。
残業しなくては仕事が終わらない、という状況も重々承知しています。目の前の物を片付けなくては、次に何もできないという意見もわかります。ですが、先に書いた通り、一度クリアしてしまえば次からはそのレベルを、今よりも低コストで実施することを求められてしまうのです。これでは例え今目の前の課題を片付けたとしても、一向に良くなることはありません。
そうならないためにも、時間を超えた作業量であることをもっと考えてもらうためにも、私たちの側からまずは時間外労働に対して NO をつきつけていくことが求められているのかもしれません。