エンジニアは数字を意識するべきか
よくある経営者の言い分
「エンジニアもきちんと数字を意識して行動しろ。」と言う経営者は多く見かける。これに対して「だったらITもきちんと意識しろよ」と反論するエンジニアもよく見かける。こういう駆け引きを見ると、人間同士、互いを理解するのは大変だとつくづく思う。
私の席の前に座ってるエンジニアが言っていた。「エンジニアが会社の数字理解できたら、独立して仕事してるよ。会社にいるメリットが無くなるじゃないかww。」全くその通りだと思った。エンジニアとしての仕事だけでも大変だ。それにあわせて、経営者も納得なレベルで数字を語れるなら、独立して会社開いた方がメリットがありそうだ。
社員が数字を意識したとしてどれだけのメリットがあるだろうか。実際のところ、経営陣の居心地がよくなるくらいのメリットしか無いと思われる。自分の考えを理解してくれて、それを中心に話を展開してくれば、非常に居心地が良いことだろう。立場をエンジニアに変えたとして、みんなが技術のことを中心に話をしてくれれば、非常に居心地は良くなると思う。
多分そうなったら会社としての多様性は失われるだろう。工場のような単純作業であれば能率は上がるかもしれないが、会社組織でそれをやったら、新しい意見が出なくなって衰退していくことになるだろう。そもそも、数字を考えたところでエンジニアは結果に結びつかない。数字を追うより、コードの一つでも追っていた方が有意義だ。
数字を意識するデメリット
そもそも数字を意識するとはどういうことだろうか。考えてみると、意外とふんわりした言い分だ。経営者のいうところの数字とは、ずばりお金のことだ。エンジニアが仕事をしていてお金を触るのは、客先に出向いたときに精算する交通費くらいなものだ。意識しろと言ったところで、大したイメージは浮いてこない。
エンジニアに数字を意識しろというのは、経理にトークのセンスを求めるようなものだ。経理の人が人前で素晴らしいトークを繰り広げても、それはそれで素晴らしいかもしれないが、会社に何の利益も無い。エンジニアが数字を理解しようと、仕様上できないものはできないと答える。そういう技術的な根拠に基づいた答が覆ることは無い。
ちなみに私は、お金を数えるのが苦手なのでエンジニアになった。お金に関するセンスが低いので、これを仕事で扱ってはいけないと思っている。多分、私と似たような境遇の人もいることだろう。そういう人が数字を意識したところで、無駄に労力を消費してパフォーマンスが落ちる。業務を遂行する上でのノイズにしかならない。
人間のリソースは有限だ。ああして欲しい、こうして欲しいを全部追求したら、あっという間に底を尽きる。数字を聞かれて即答するというのは、想像よりも労力がかかる。有限なリソースを無駄に消費させるのは賢くない。そんなのは分かる人に聞けばいいし、知って欲しいなら文書で書いてみんなの前で説明すべきだ。ただ、それに何の意味があるかはよく分からない。
エンジニアの数字との向かい合い方
だからといって、数字に無頓着でもいろいろと問題はある。数字を意識して欲しいという意図は、数字に無頓着が故に被るデメリットを避けたいからだろう。数字に無頓着だと被るデメリットを避けるには、数字を追いかけるまでもなく、関心があるという程度で十分だと思う。
「エンジニアもきちんと数字を意識して行動しろ。」にしても、「だったらITもきちんと意識しろよ」にしても、相手に無関心なことが問題の本質だと思う。相手に関心が無ければ、お互いを理解して行動するという流れにならない。そうなると、会社という組織で行動するメリットが大きく損なわれる。
経営者がITを理解するにしても、エンジニアが数字を追いかけるのと同様に大変だと思う。大事なのは、経営者がITを理解するのではなく、関心を持つことだ。分からなければ、自分のそばにいるエンジニアに聞けばいいのだ。詳細を理解した上で行動するのは、あくまでエンジニアの役目だ。
経営者だろうとエンジニアだろうと、それぞれの役目を全うすれば十分だ。それに必要なのは、相手の技量やポリシーの共有ではなく、相手のやっている事への関心だ。関心があれば、同じテーマで話ができる。そうやって相手の考えを理解して、互いの役割を全うしていけばいい。同じ土俵に上がって張り合う必要も無いし、相手に自分の代行を求めるのも筋が違う。自分の代行が欲しければ、そういう役割の人を雇えばいい。
立場の違う人を理解する
会社の経営というのは、一人の人間が全てを把握するには複雑過ぎる。どうしても人に任せなくてはいけないパートが発生する。いろいろな事に精通して多くをこなせるのも大事だが、組織が大きくなるほど、人同士の連携が重要になる。少なくとも、かつての日本はそれを実現したから、大きく発展することができたのだ。
経営者だろうと、パート社員であろうと、人は人だ。それぞれが別の考え方で生きている。まず、それを認めた上で言葉を交わさないと軋轢が増える。相手に同じものを求めるより、自分の考えを明らかにした上で、相手の話を聞こう。単純に言葉と気持ちが流れればいいのだ。過剰に相手に合わせる必要は無い。
「エンジニアもきちんと数字を意識して行動しろ。」と聞くと、人同士が信じ合うのが難しい世の中になったと感じてしまう。そこまで言わなくても、意外とエンジニアは会社のことを気にしてくれている。何らか会社の利益にはなろうとしてくれている。そういう気持ちを上手くつなぎ止めて働いてもらうのが、経営者の役目だと思う。
いちいち数字を追わせなくても、対話ができてればベストな結果は導き出せるのではないだろうか。利害が絡むので、そんなに簡単な話では済まないのかもしれない。ただ、もうちょっと肩の力を抜いてもいいんでないかな。数字云々理解しろとかそういう問題より、高過ぎる仕事意識の方が問題だと思うのだ。
コメント
みなみ
エンジニアが経営上の数字を理解すると、経営のレビューになったりはしないでしょうか?とすると、むしろ困る人が増えたりして…。むろん、健全さを目指すならむしろレビュー受ける方がいいですが。
逆も然りです。逆を考えるとわかりますが、中途半端が一番困るパターンになりそうですね。
nsh1960
(みなみさんのコメントに関連して)
経営レビューが出来る能力が身についたとして、その能力を発揮する権限は付与されるんでしょうかねえ。そしてその場合そのレビューを「数字を意識して行動しろ」という側が受け入れて仕事を回すことになる?
内向きの仕事でやられたら厄介だからとコンフリクトを解消するには、取引先をコンサルティングする業務を受注しろという成り行きに話が変容することになりゃせんか?