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【小説 パパはゲームプログラマー】第二十話 武闘家の国1

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 ジェニ姫と僕は砂漠の中を歩いていた。
 北の国を目指していた。
 ラクダに乗ったジェニ姫。
 僕はそのラクダの手綱を手に、歩いている。

「......グランは今も私達を監視してるってこと?」
 
 ジェニ姫は眉根を寄せ、僕を見下ろす。

「うん」
「復讐されに来るのを待ってるってこと?」
「そうなります」
「何のために?」
「分かりません」

 暑い中、10kmも歩いてへとへとだ。

「はい。お水」

 ジェニ姫が手の平に乗せた水の球を僕に渡す。
 僕はそれを飲み干して、喉の渇きを癒す。

「貴重な水よ。この辺は大気が乾燥してて、水分子が少ないんだから」
「ありがとうございます」

 ツンケンしてるけど優しい。

 魔法学校で稼いだ金は、トールスにほとんど手渡した。
 復讐に参加したいと言う彼を説き伏せるのは苦労した。
 彼には、西の国の統治と魔法学校の運営を頑張って欲しい。
 それに、グランの考えが分からない以上、多くの人を巻き込みたくない。

「グランの奴、悪趣味ね。私達が右往左往してるところを、安全などこかから見て、ほくそ笑んでるって訳ね。まるで、私達をゲームかなんかのプレイヤー扱いしてるんだわ」
「ゲーム?」

 聞き慣れない単語だ。

「これ」

 ジェニ姫はまとっているローブの内ポケットから、横長の箱みたいな物を取り出した。
 箱の真ん中には、透明な四角いガラス(この例えが正しいのか分からない)に覆われていて、その右には十字架の様なボタン。
 左にはAとBと書かれた丸いボタンが二つ付いている。
 四角いガラスの下には、STARTと書かれた横長ボタンと、その隣にRESETと書かれた横長ボタンがある。
 更に、箱の右角にはRというボタンが、左角にはLというボタンが付いている。
 
「これがゲーム?」
「うん」
「はぁ......」

 ジェニ姫はSTARTボタンを押した。
 真ん中の透明ガラスに、『ゲーム』と赤い文字が浮かび上がる。

「おお!」

 軽快な音楽が砂漠に鳴り響く。
 ピコピコって感じ。
 全く聞き慣れない音で作られた音楽は、耳に心地良かった。

「主人公を操作して、こうやって冒険して仲間を集めて、魔王を倒すの」

 ジェニ姫は慣れた手つきで、十字架とA、Bボタンを使って、透明ガラスに映った人型(駒?)を操作する。

「今の僕達が、これ......ですか」
「ふふふ。何度でも遊べるの。自分の行動で敵の行動も変わるから、毎回違う冒険が楽しめるのよ。もう1000回は遊んだわ。でも一度もクリアー出来ない」

 ジェニ姫はこのゲームを子供の時、城で見つけたらしい。

「お父様の玉座の下に置いてあったの」

 それ以来、暇な時はこれで遊んでいた。

「でも、これどうやって動いてるんですか?」
「これ」

 ジェニ姫の手には銀色の箱が握られていた。

「電気」
「電気?」
「正確には雷の魔法」

 ゲームで遊ぶために子供の頃のジェニ姫は、知恵を絞った。
 それこそ、中身を分解してみたりもした。
 そして、ある日、電気でゲームが動くことが分かった。
 ジェニ姫は電気の元である雷の魔法の初歩を習得し、『携帯充電器《モバイル・バッテリー》』という魔法機器を開発。
 ゲームは今も携帯充電器《モバイル・バッテリー》で動いている。

「でも、凄いですね。こんな技術、今のこの世界にはないですよ」
「過去を遡ってもね」

 ジェニ姫はこのゲームという物のルーツを探るため、城にある文献を読み漁った。
 歴史書、百科事典、数学、工学、哲学、魔法学。
 だが、そのどのページにもゲームについて書かれていなかった。

「恐らく、この世界じゃない誰かがやって来て置いて行った物なのよ。でないと、この世界の歴史と技術じゃ、このゲームは作れない」

 僕はピコピコと音を出すゲームを覗き込んだ。
 主人公が敵と戦っている。

◇◇

 冬が好きだ。
 空気が乾燥してるから、空が遠くまで見える。

「はー、はー」

 吐く息が白い。
 私は長い黒髪をマフラー代わりに首に巻いた。
 ここ北の国は秋を過ぎ、冬になった。
 私は仕事(統治者としての公務だ)を休み、ここビワ湖に来ている。
 湖のほとりにテントを設営した。
 丸い石を見つけてそこに座る。
 雄大なフジ山を観る。
 湖面には雪化粧を施したフジ山が映し出されている。
 実物と湖面に映るフジ山の、シンメトリーな美しさに私は心を奪われた。

「さてと」

 私は立ち上がり、今日の食事と燃料を探すため森に分け入る。

 前方二メートル、グリズリー発見。
 体長5メートルの灰色の熊の化け物は、森を我が物顔でノシノシ歩いている。
 私は今日の食事の素材を見つけ、舌なめずりした。
 こちらから仕掛けようと、地を蹴ろうとした時、

「くぅん、くぅん」

 私の足元を舐める、子グリズリー発見。

「しっ、あっち行け!」

 私は大物を狙ってるんだ。
 お前じゃ食べ甲斐がないし、倒し甲斐も無い。

「グゥオオオオ!」

 私の気配を感じ取ったのか、お目当ての方の大グリズリーがこちらに猛進して来る。
 グローブの様な巨大な手に、剣の様な5つの爪が生えている。
 グリズリーが獰猛な唸り声を上げ、熊手を振り上げる。

「はっ!」

 鋭い爪が虚しく空を切る。
 衝撃波で木々の枝がざわめき、葉が落ちる。
 力ではそちらが上かもしれんが、素早さではこちらの方が上だ。

 グリズリーが辺りを見渡す。

「ここだよ」

 私はグリズリーの額に爪先立ちしている。

「グゥオ!」

 グリズリーは私の存在にやっと気付いたのか、両の熊手で私を挟みこもうとする。

「よっと!」

 私はバク転でそれをヒラリとかわし、グリズリーの背後に回り込む。
 私の両の足の筋肉が一気に盛り上がる。
 左足一本立ちになり、右足を上げ、勢いを付けるため脇腹に引き付ける。

「烈火百裂脚《れっかひゃくれつきゃく》!」

 超高速の足蹴りの弾幕がグリズリーの背中に無数の穴を穿つ。
 右足の蹴りが終わると、左足にスイッチ。
 同じ技をグリズリーが息絶えるまで繰り返す。

「いてっ!」

 足元を見ると、またあの子グリズリーだ。
 こいつ、うっとおしいな。
 殺ってしまおうと、その首に手刀を振り下ろそうとした時、瀕死のグリズリーがグラリと振り返った。
 襲い掛かって来るかと思ったが、子グリズリーに覆いかぶさった。

「そうか......お前ら親子か」

 今日は親子丼にしよう。

 良く笠の開いた松ぼっくりは、火が着きやすく良い着火剤となる。
 火種を松ぼっくりの山に投げ込み、焚火を起こす。
 私に魔法でも使えれば、こんな手間、不要なのに。
 でも、この手間が楽しい。
 焚火の上に鍋を設置し、その中に湯を張り、先程、ぶつ切りにしたグリズリーの肉を盛大にぶっこむ。
 その中に味噌とダシもぶち込む。
 その間、別の焚火の前に行く。
 串に刺した柔らかい子グリズリーの肉をバーベキューにする。

「うーん。さいこー」

 流浪の民の子に生まれた私は、旅が日常だった。
 街を転々とする日々。
 そこで奴隷として一定期間働かされては、次の街へ。
 街から街へ移動する間に行われるキャンプだけが、安らぎの時だった。
 私は成功者となった後も、安らぎを求めていた。

「全てはマリク様のお陰だわ」

 私は知っている。
 本当の功労者はマリク様だ。
 私は彼のことが......

「ん?」

 遠くから人が走ってくる。
 我が国の兵士の様だ。

「どうした?」

 ボロボロの鎧に、血まみれの顔。
 何があった?

「ソウニン様! 申し上げます! 城が反乱軍によって陥落しました!」
「何!?」

 兵士は伝えると、息絶えた。
 人の気配を感じる。

「この国難の時に、ソロキャンプとはいい身分だな。ソウニン」

 振り返った時とその名を呼ばれたのはほぼ同時だった。

「ケンタ!」

 あの雑用係がなんでここに!?

「久しぶりね。ソウニン」
「ジェニ姫」

 お前は、グラン王に婚約破棄されて追放されたはず。

「はじめまして」

 後ろからもう一人出て来た。
 ん?
 誰?

◇◇

 10分前に遡る。

 反乱軍によって城が崩壊したのを確認した僕は、踵を返しビワ湖へ向かった。
 ソウニンがそこでソロキャンプしているのは、兵士から聞き出した。
 場所は良く知らないが、その兵士がボロボロの身体を引きずりながらソウニンの元に向かっているので、その後ろを付いて行けばいい。

「いたいた」

 湖のほとり、お目当ての人物が焚火の前で肉を焼いている。

「じゃ、皆、ソウニンが兵士に気を取られてる間に、後ろに回り込むぞ」

 僕の言葉にジェニ姫とマスタツが頷く。
 マスタツは反乱の前日に、ギルドで出会った武闘家だ。
 もちろんステータスは、武闘に関することに関してカンストしていた。

 美人武闘家ソウニンはあっけなく、マスタツに負けた。

「くっ......殺せ!」

 ソウニンはドカッと丸い石の上に座った。

「いや、殺さない。お前には聞かなきゃならないことがある」
「何だ?」
「グランの弱点だ」
「そんなこと......言えるわけが......」
「今はまだ言わなくていい。その代わり僕らの仲間になってくれ」
「私がお前の様な雑用係の仲間になど、なるものか!」

 とりあえずでもいいから、仲間になってもらわないと困るんだよなあ。
 タケル、コブチャ、チナツはグランの弱点を言おうとして殺された。

 ジェニ姫はこれらの事象をフラグと呼んでいた。
 フラグとは旗と言う意味だ。
 旗が立つと、敵や他のプレイヤーがそれを検知して次の行動に移る。
 要するに、グランの弱点を言おうとする者は、死亡フラグが立つんだ。
 
 ジェニ姫が遊んでるゲームでも、プレイヤーがある行動をすると、敵や他のプレイヤーの行動も定まる。
 僕が反乱の前日にギルドに行くと、カンストメンバーに出会えるというフラグが立つ。

 ソウニンをとりあえず仲間にしておけば、彼女は殺されることはない。

「ソウニン、君の師匠であるオオヤマ先生から手紙を貰ったんだ」

『ソウニンへ

 グランの暴虐を許すな。
 わしが教えた正義の拳を、今こそ活かす時が来た。
 ケンタ殿と力を合わせよ。

「オオヤマ先生......」

 子供の頃、奴隷として働かされていたソウニンはオオヤマに拾われた。
 オオヤマはソウニンの武闘家としての素質を見抜いた。
 子供がいなかったオオヤマは、養子であるソウニンに一子相伝の『オキナワ破顔流空手』を受け継がせた。
 ソウニンはその極意をもってグランのパーティに加わり、魔王討伐に貢献した。

「分かった」

 ソウニンが仲間に加わった。
 いつもの様に、空から光の波動が振ってくることも無かった。
 死亡フラグが立たなかったんだ。
 僕はジェニ姫と目が合った。
 お互い、頷く。
 
武闘家の国編 おわり

Comment(5)

コメント

桜子さんが一番

仲間GETおめでとうございます

VBA使い

街を「転々」とする日々。


「ゲーム?」
→ようやくタイトルの謎の一端が明かされましたな


その隣にRESETと書かれた
→ゲーム機がファミコン⇒スーファミ⇒プレステ⇒プレステ2で終わったワタクシは、STARTの隣はSELECTだなぁ


「オオヤマ先生......」
→お久しぶりです!


武闘家の国編 おわり
→早ッッ!!
まぁそれはええねんけど、それやったら、サブタイは「第二十話 武闘家の国」としたくなるが、それでも「1」が入るあたりがシステムっぽいw

湯二

桜子さんが一番さん。


コメントありがとうございます。

>仲間GET
RPGでは終盤で仲間になる人って、あんまり活躍の場がない印象です。

湯二

VBA使いさん。


校正、コメントありがとうございます。


>謎の一端
突然出て来た印象です。

>プレステ2
そういえば、SELECTボタン付けるの忘れてました。
私の場合は、wiiuとミニスーファミで遊んでます。
スーファミのファイヤーエンブレムにはまってます。


空手のオオヤマときて、ピンとくる人って、だいぶ少ないですよね。
もう若い人には分からないんじゃないかな。


>「1」
シーケンスで番号振ってます。

VBA使い

すみません、「エンジニアの事故記録」に登場した大山先生を思い出して、お久しぶりです!って言ってしまいました。
リアルの大山さんのことは全然知りませんm(_ _)m

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