【小説 パパはゲームプログラマー】第十九話 魔法使いの国6
チナツの城の最上部。
そこは、チナツの玉座がある大広間。
普段は兵士達を集めた評定や、賓客を迎えての優雅な舞踏会や食事会が行われる場所だ。
だが、今そこは、修羅場と化していた。
モンスターと兵士達が入り乱れている。
身長10メートルはあるゴーレムが、その太い腕で兵士達を蹴散らしていく。
「ぐわっ!」
「ぎゃっ!」
吹っ飛ばされた兵士達は、石壁に激突した。
まるでトマトみたいにグチャッと頭を潰した。
「地面氷化《アイシング・グラウンド》!」
丁度、キメラを水の矢で倒したジェニ姫が、振り向きざまにゴーレムの足元に向かって唱える。
大気中の水分が地面に集まり、ビキビキと音を立て凍る。
一瞬でゴーレムの爪先から膝の上が氷で固まる。
まるで氷の足かせだ。
「グッグウオオオ!」
ゴーレムは氷を砕こうと上半身に反動をつけもがく。
「チッチッチッ。無理無理。私の作り出した氷はダイヤモンドより硬いんだから!」
と、ジェニ姫は得意げに、人差し指を口元で振りながら言う。
「ナイス。ジェニ姫」
ミノタウロスをステーキに仕上げたチナツが、ゴーレムに向かって唱える。
「烈火爆発《バーニング・エクスプロージョン》!」
チナツの手から真っ赤な火球が飛び出す。
それがゴーレムの胸部にぶち当たると、火球の中心部が四方に割け、一気に火花を散らしながら爆散する。
「あっつぅ!」
僕はジェニ姫が作ってくれた水の結界の中にいたけど、それでも熱い。
「ゴーレム! 怯むな! 氷が解けて来てるわ! 早く! 戦いなさい!」
サオリが一歩離れたところで、自ら手なずけた召喚獣たちを叱咤する。
だけど、無理ってもんだろう。
ゴーレムは今の攻撃で、真っ黒な燃えカスになっちゃたよ。
「ありがと。ジェニ姫」
「こちらこそ」
ジェニ姫とチナツのナイスコンビプレー。
他に目を転じると、兵士達が苦戦しながらも一つ目の巨人トロルを倒していた。
怯えた子ケルベロスはサオリの元から離れようとしない。
あと、もう一体いたよな......モンスター。
「あっ!」
天井からボトリと3メートルくらいの物体が落ちてくる。
緑色のドラゴン。
天井と同じ模様で気付かなかった。
同化していたんだ。
「危ない!」
僕の叫びも虚しく、チナツは気付くのが遅かった。
ドラゴンの鋭い爪が彼女の頭上で煌めく。
グチャリ!
肉がえぐられる音がする。
僕は怖くて閉じていた目を、恐る恐る開けた。
そこには、ドラゴンの爪で胸を一突きされたトールスがいた。
そして、彼に守られたチナツがいた。
「トールス......」
「ルビー様、お役に立てて嬉しいです」
「私のために......」
「私はあなたのことが......」
言っちゃえ、言っちゃえ。トールス。
チナツを救えるのは君だけだ!
ブンッ!
トールスは愛の言葉を紡ぐことは出来なかった。
ドラゴンがその太い腕で、トールスを壁に叩きつけたからだ。
「ドラゴンよ! ここにいる私の敵、全てを殺しなさい!」
サオリが使役するドラゴンは強力だった。
ジェニ姫、チナツの二人の魔法使いの力をもってしても、ドラゴンに劣勢を強いられている。
紛れもなくサオリは優秀な召喚魔法使いだった。
だが、狂っていた。
強力な力は、それを得た者次第で、悪の材料にも善の材料にもなるんだ。
そろそろ、あいつを呼ぼう。
僕は胸ポケットに入れた「連絡石《レポートストーン》を握り締めた」
今すぐ来てくれ。
そう心で念じる。
僕の手の中にある連絡石《レポートストーン》が青白く光り輝いた。
そして、砕け散る。
「もう、無理ー!」
暴れ回るドラゴンにジェニ姫もチナツも苦戦していた。
早く来てくれ、カンストメンバー。
ドラゴンは裂けるんじゃないかと思う程、大きく口を開いた。
開いた口の周囲には、ギザギザの不揃いな大きさの牙が無数に並ぶ。
ドスドス床を踏み鳴らしながら、チナツに襲い掛かる。
「くっ......。負けるか!」
チナツも負けじと炎の魔法で応戦するが、ドラゴンの表皮は耐熱性なの火力を全く受け付けない。
ジェニ姫も氷で足止めしようとするが、ドラゴンの喉奥から噴出される熱風で意味をなさなかった。
水と火の魔法使い二人が追いつめられる。
「焼き払え!」
サオリがドラゴンにとどめを刺す様に指示する。
その時、天井を突き破る何かが。
「ギャッ!」
ドラゴンが悲鳴を上げる。
ドラゴンは何かの下敷きになっていた。
そして、床の模様になっていた。
ドラゴンにとって幸運なのは脳神経を即時に破壊されたことで、痛みを感じることなく死ねたことだろう。
天井を突き破ってドラゴンを踏み潰した何かとは、大きな足だった。
僕は見上げた。
その足の持ち主と目が合う。
緑色の吊り目が光った。
身長50メートルはある。
筋肉質の真っ黒な体。
太い首に牛の顔が乗っかっていて、額の両サイドから渦巻き状の羊みたいな角が飛び出ている。
「デーモン!」
ジェニ姫が歓声を上げる。
かつて、彼女が召喚しようとした魔物。
異常な魔力と攻撃力を誇る最強生物。
「待たせたな!」
僕は肩を叩かれ、振り返った。
そこには、緑色のローブをまとい、宝石が先端に埋め込まれた杖を持つ男。
「クシカツ!」
昨日、ギルドで出会ったばかりの召喚魔法使いだ。
さっき僕が連絡石《レポートストーン》で、城外に待機している彼を呼び寄せたんだ。
安物の連絡石《レポートストーン》だったから、通信に時間掛かったのか思ったより来るのが遅かったな。
「デーモンに任せとけ!」
クシカツが得意げに言う。
まだ顔にはあどけなさが残る。
まるで見習い魔法使いと言った感じだ。
だけど、ステータスは素晴らしい。
クシカツ(19歳)
Lv.9999
スキル :召喚魔法(最上級)
攻撃力 : 1
防御力 : 10
HP : 501
MP : 9999
素早さ :3561
知力 : 8910
運 : 5951
サオリを超える最上級。
実際、デーモンを召喚させたぞ。
カンストメンバーに最後の最後で出会えた。
きっと今回も、そんなメンバーに会える気がしたんだ。
まるで用意されたかのようだけど。
ジェニ姫やサオリには彼の存在を内緒にしてた。
やる気満々の二人に活躍させたかったし、なるべくカンストメンバーに頼りたくなかったからね。
東の国で出会った戦士グルポ、南の国で出会った治癒魔法使いミナージュ。
彼らを雇ったことで多額の報酬を払わなければならない。
そして、ここ西の国で出会った召喚魔法使いクシカツに実働してもらうと、更に報酬を用意しなければならない。
魔法学校の収益だけじゃ彼が欲しがる報酬は払えない。
やれやれ。
復讐が終わったら僕はやることが沢山あるな。
カンストメンバーに払う報酬のために一生働かなきゃ。
「きゃー!」
デーモンがサオリを襲う。
「うわー!」
ケイタは怯えるサオリをほっといて逃げる。
「ちょっと! デーモン、待って! その人殺しちゃダメ!」
僕の願いも虚しく、サオリとケイタはデーモンの人差し指でプチっと潰された。
あ~あ、やっちゃった。
僕はがっかりした。
実を言うと、サオリには色々ゴタゴタが終わった後、マリナを召喚してもらおうと思ってたんだ。
クシカツは仕事を終えたデーモンを、一旦、魔界に帰した。
あ、そうだ。
「なぁ、クシカツ」
「なんだ?」
「僕のお願い聞いてくれるか?」
マリナを召喚するように頼んだ。
「追加料金取るぞ」
「もう払えない額を既に請求されているけど......」
彼への報酬である999999999999999エンは、僕が大富豪になったら払うことになっている。
その上に、マリナを召喚したら追加料金を取られるとは。
「将来払いますんで、お願いします!」
「分かった」
僕はマリナの特徴を教えた。
クシカツは魔法陣の前に立った。
「降臨《サモン》」
まばゆい光と共に、マリナが現れるはずだ。
......って、何も無い。
「おかしいな。俺の召喚魔法でも呼び出せないものがあるとは......。そのマリナという女のいる場所に、俺より強力な召喚魔法使い、ないしは、賢者の存在が考えられる」
クシカツは顎に手を当て、一人考察を巡らす。
そして、「じゃ」と手を振り後は何も言わずに去って行った。
「な、なに......今の人?」
一部始終を見て呆気にとられたジェニ姫が僕に問い掛ける。
「あ、ああ......彼はね」
ジェニ姫にクシカツのことを話す。
「なるほど......」
ジェニ姫は頷くと、語り出した。
~~~~~~~~~
黒い流れ星が落ちる時、魔王がこの大陸に降り立つだろう。
同時に救世主も誕生する。
救世主は6人の使徒を引き連れ、魔王を倒すだろう。
~~~~~~~~~
僕が子供の頃、マリナに教えてもらった伝説だ。
「もしかして? 君が救世主?」
「え?」
「だとするなら、まるで用意されたかのように各国にいるカンストメンバーは、6人の使徒......」
ジェニ姫、僕を買いかぶりすぎだよ。
ジェニ姫が続ける。
「3年前、黒い流れ星が落ちた。それを見たお父様が予言したの『魔王が復活する』って。予言通り魔王ハーデンがこの大陸に降り立った。そして、グランは6人のメンバーを引き連れ、魔王ハーデンを倒した。伝説の通りだと私は思ったけど......。実は本当の魔王はハーデンんじゃないってことね」
「本当の魔王はグラン」
チナツが補足する。
周囲に沈黙が流れる。
「ケンタ。パーティにいた時は、色々嫌がらせしてゴメンさなさい」
「いや、いいんだよ」
「ケンタをイジメないと、私がグランからイジメられるから......」
チナツが僕に何度も謝る。
「私もグランを倒す旅に連れて行って」
チナツが仲間に加わった!
ジェニ姫もいる。
一緒に旅する仲間が増えたんだ。
「ル、ルビー様......」
背後からうめき声が聞こえる。
「トールス!」
チナツが駆け寄る。
「こっ、この国は私にお任せ下さい」
「いいの? そんな体で大丈夫なの?」
「は、はい......」
トールス、タフだな。
愛の力だね。
だれか、ここに治癒魔法使える人、いませんかー?
「私、しばらくトールスの様子見てから旅に合流するわ」
「分かりました。僕らは武闘家ソウニンがいる北の国を目指します」
僕はそう言って、踵を返し掛けた時、
「あっ、待って。グランの弱点を教えておくわ」
チナツが駆け寄る。
あっ、やばい。
このフラグは......。
天井がバキバキと崩れ、粉塵と共に光の球が降り注ぐ。
それが、石畳の地面に衝突し周囲に振動を伝える。
チナツとトールスがさっきまでいた場所には大きな穴が開いていた。
二人は少し離れた場所で、その大きな穴をじっと見ている。
「大丈夫?」
チナツが心配そうに声を掛ける。
「ああ」
僕は応えた。
僕は光の球が当たらない様に、二人を安全な場所に突き飛ばした。
予想通りだった。
グランの弱点を言いそうになったチナツに攻撃フラグが立った。
だから光の球が飛んで来た。
皆、そうだった。
タケルもコブチャもグランの弱点を僕に言いそうになると、殺された。
そして、今、チナツも。
ということは、グランは僕を監視しているということか?
だとするなら、僕を泳がせている理由は?
なぜ、復讐しようとしている僕を殺さない?
「うわあああああ」
僕は混乱した。
「ケンタ......」
僕の肩をジェニ姫が優しくポンと叩く。
手の平の暖かさが全身に伝わった。
「ここは閉鎖空間。外から攻撃された場合、逃げる場所が限られてる。とりあえず、外に出ましょう」
「う、うん」
ジェニ姫のお陰で何とか僕は立ち直った。
「チナツ、トールス、外に出よう」
「う、うん。でも、一体さっきの攻撃は何なの?」
「それは......。後で。安全な場所で僕の知ってることを話すよ」
穴の外側を歩きながら、二人が僕の方に向かってくる。
「あっ!」
僕が叫ぶのと同時に、石畳の床を光の矢が貫く。
それは、チナツの身体の中心を貫いた。
矢は天井まで伸び、末端に行くほど太くなる。
矢が空に消える頃には、チナツの身体は真っ二つになっていた。
「ああっ!」
僕は思わず声を上げる。
グランよ。
君はかつての仲間達が用済みになれば、こうして殺してしまうのか。
「ルビー様!」
千切れ飛んだルビーの欠片をトールスが必死で集める。
次の日、僕は西の国を後にした。
魔法使いの国編 おわり
コメント
桜子さんが一番
あら、せっかく仲間になったと思ったら・・・
VBA使い
チナツ「に」襲い掛かる。
「クシカツ!」
→…なんだろ、この一気にシリアスさを吹き飛ばすネーミングセンスは…
湯二
桜子さんが一番さん。
>仲間になったと思った
人が増えると管理しきれないので。。。
湯二
VBA使いさん。
校正、コメントありがとうございます。
>シリアスさを吹き飛ばすネーミング
シリアスな場面で、ギャグを入れるのはテレカクシみたいなもんです。